第十話 いつの日にか、
「属性が二つ……人格も……もしかすると人間兵器というのは、的を射ているのかもな。だがどうしてこいつはそんな……」
目を開くと、少し昔まで見知らなかった天井。
「……ん……リリ?」
「おー、起きたか、起きたか。」
「えっと……あれ? 確か俺、空き家探索に行って、使い魔のゴーレムがいて、それで……」
それで、一回チェリが倒して、でも復活して……ダメだ。そこからが思い出せない。
「お前はゴーレムの攻撃にビビッて失神したんだよ。ゴーレムはお姉ちゃんが華麗に倒した。」
リリが冷淡に言う。
「マジか、俺めっちゃダサいな。」
「……そうだな。」
あれ?いつもならもう少し侮辱してくるような……
それはそうと、この部屋には二人だ。いつかを思い出す。
「チェリは?」
「お姉ちゃんは例の使い魔の魔石を換金しに行っている。ありゃあ随分と大物だったからな、当分金には困らないだろう。」
「そりゃあ良かった。」
「ああ。お前にも感謝しているよ。」
リリが? 俺に?……感謝?
「いや、俺は結局照明を灯したのと、ゴーレムの体制を崩しただけだ。それに、後者はお前でも出来たんだろ?俺に実戦をさせるためにやらせただけで……」
「そ、それは……そうだが……でも、ありがとう。」
こんな大人しいリリは初めてだ。珍しいこともあるものだな。
「あ、それとこれ。お姉ちゃんが。」
そういって渡されたのは一冊の本。表紙には『異世界書記』と書かれている。
「読んでおけ。お前が一体何なのか、その手がかりになるかもしれない。」
「ああ、ありがとう。」
*
「ただいまー。今夜は御馳走だよー。」
扉が開く。同時に聞きなれた声が届く。
「ああ、ちー姉。おかえりー。あと愛してる。」
「チェリ、お帰り。この本助かったよ。」
「それで、あなたは本当にこの本の世界から来たの?」
「そうだな。まだ途中までしか読んでないけど、俺の住んでいた世界、住んでいた国とよく似ている。ただ、これは俺がこの世界に飛ぶより数年……少なくとも六年以上は前のものだと思う。」
『異世界書記』は変わった形式の文章をしていた。地図、地名、建物、土地柄、方言、料理。そういう情報が、観光マップのように書かれている。その内容が架空のものだと思えば、画期的で、非常に作りこまれた本だと受け取られていただろう。
あの本に詳しく書かれていたのは東京都心。だが、塔が足りない。
「それでさ、この作者の居住地とかってわかるかな? 行ってみたい。何かヒントになるかもしれないし、あわよくば直接会えるかも。」
「うーんと、詳しい出身地は調べてみなければわからないのだけど、少なくともフラガリアは国外、ダイモニアの作家よ。」
「……そうか。その国は遠いのか?」
「それなりには、ね。それよりあの国はあんまりいい噂聞かないというか……まあでも、行ってみてもいいかもね。途中の街にも色々寄りたいし。アンドレイヌとか……」
「私は別に、途中の街に興味はない。」
「もぅ、リリったら。」
「えっと、とりあえず二人も同行してくれるってことだよね。ありがとう。」
「もともと、そろそろこの街も出ようと思ってた。明日にでもこの街を立とう。」
明日って……急すぎないか?
まあでも、『異世界書記』を読んで郷愁のようなものが胸の中に湧き出てきた。
この異世界も悪くはないが、やっぱり故郷は故郷だ。俺のそれはなんの変哲もないような場所だが、それでも一生戻れないとなると懐かしくなってくる。
いつか。いつの日にか、帰ろう。
そのために、行こう。ダイモニアへ。
とりあえず、チュートリアルにあたる第一章、完結です。
これから、はじまりの街を出て、冒険の旅が始まる予定です。予定ですが、あんまり内容考えてません。その時の気分で進めていきます。そういう作りの物語です。