表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第零話:愛を。

 愛を、求めた。

 望んで願って縋って泣いて、其れでも尚、有り余る程の愛を。


 みすぼらしい少女がいる。

 まだ十にも満たないであろうその少女は、袖が既に千切れている汚れ切った麻の服を纏い、その場に佇んでいる。

 貧相な体に、燻んだ髪の毛。瞳には一筋の光すらなく、それは唯只管に目の前の光景を写していた。


 暴力を振るう男たち。

 少女の檻の前で何かを争う男たち。

 誰かの悲鳴、下卑た笑い声、それから、少女の値を競って怒鳴りあう声。


 あぁ、これは過去の私だ。

 裏切られ、捨てられ、絶望して。狂う程に、愛を求めた。


「嫌な夢」

 ポツリ、私は夢の中で呟く。

 このあと少女がどうなるのか、私は全て知っている。


 綺麗なお洋服一着にすら満たない値段で、少女は娼館の主に買われる。

 そして、自身の値より高い、黒いドレスを着せられて、お化粧を施されて、一人の男の前に立つのだ。

 ベッドに連れて行かれて、嫌だ嫌だと泣き叫ぶ私に、男は––––––。


 目を背ける。こんな、愛のない情事を、今の私は見たくない。

 耳をふさぐのはやめる。これは、私への戒めだから。

 聞こえるのは、少女の拙い嬌声だけ。


 ……それだけ? 本当に?


「……ビー、アイビー!」


 私を呼ぶ声がする。

 嫌な夢は、もうおしまい?


 目を開けると、心配そうに笑った男が映る。


「魘されていたけど、何かあった?」

「……ううん。大丈夫」


 儚く笑って、私はそう答える。

 こうしたら、この人が心配してくれることがわかっていたから。

 私に、もっと溺れていくことがわかっているから。


「何か僕に、できることは」

「そうね、……じゃあもう一回」


 私は躊躇わずにそう言って、彼の体を押し倒す。

 二人ぶんの体重でベッドがふわりと沈む。表情を硬くした彼は、まだ朝だよ、と低く呟く。

 ねぇ、そうやって言い聞かせる様にしながら、獣みたいな目を私に向けていること、わかってる?


 起きたばかりの彼の、低い声が好きだ。

 私にだけ、小さな気遣いをする彼が好きだ。

 名前も忘れてしまった彼の、理性をなくした瞳が好きだ。


 だから、今もまた、私は彼に溺れてく。

 彼も、私に。


「朝も何も、私はこれが仕事だもの」

「僕はこれから仕事だよ」

「私を置いて? 驚いたわ」


 そこまで言うと、完全にスイッチが入ったのか、彼は何も言わずに私を押し倒した。

 形勢逆転。


「愛してるよ」


 その言葉とともに、私は彼に貪り食われた。

 余裕がない時だけ、彼は少し乱暴になる。くす、私は少し笑って、彼の頬に口付けた。


 ねぇ、貴方は知ってる? 小さな頃、娼館に売られた美しい少女を。みすぼらしい少女を。

 知らないでしょうね、偽りの愛で育った少女のことなんて。


 皮肉にも、私を捨てたあの人が教えてくれた。

 アイビーの花言葉は、『永遠の愛』。


 偽りの愛でもいい、汚れた愛でもいい。

 永遠に私を愛してくれるのなら。


 夢に浮かされた純粋な少女の様に。

 この愛を、咲き誇れ。


主人公ちゃんがビッチです。

最終的には誰かとくっつかせたいと考えていますが、しばらくこれが続きますので、地雷な方は自衛お願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ