プロローグ
これだから赤の他人はやめられない。
心でつぶやき、新緑芽吹く桜並木の下、かろうじて残る花びらのカーペットを踏みにじりながら進む。
青春を謳歌する輩は本当に愉快だ。希望、欲望、友情、夢に生き、些細なことに過剰な喜怒哀楽で答える。学校という小さくも大きい社会の中で生きる彼らに私、小曾田 達城は面白さを感じる。
斯く言う私もその社会の構成員であるが、世間一般の言う青春とは無縁である。縁があるならこんなひねくれた精神は持ってなどいない。
試しに前方を注視してみよう。男女で仲良く話す者達。部活仲間だろうか、ちょっかい掛け合いながら道を占領する者達。一人で地面の桜を眺めながら歩く者もいる。果たして彼らは何を思い歩いているのだろうか。好意、懇意、友情、嫌悪、嫉妬、孤独。もしくは言葉では表せない複雑な感情だろうか。これらが青春とやらに起因するからこそ、私はこの社会がもたらす現象に興味を持ったのだ。
だからといって、自らその現象を体験し、青春の強大な影響力にのまれるのは御免である。それがどれだけ恐ろしいことかは、人生十六年でしっかり学んできたつもりだ。だから赤の他人はやめられない。やめたくない。やめるべきではない。
一週間も学校に通えば目の前に広がる高校の敷地も見慣れてきた。
体育館からはバスケ部の朝練の音が響いてくる。
それぞれのテンションを維持したまま新館の教室へと向かっていく生徒達。
少し体に馴染んできた制服が、「ここに染まれ」と言っているような気がした。