駄々
結果として、我が校のサッカー部が一点差で負けてしまったことは残念だった。
でも晴天の中、ベストコンディションで戦えたことは何よりだと思う。
それはやっぱり誰がが作ったてるてる坊主のおかげだったのかもしれないし、ただの神様の気まぐれだったのかもしれない。
実は俺は彼女と試合会場まで足を運んで応援していた。
誘ったのは俺だ。
俺自身、山下を応援したいという気持ちがあった。
「残念だったなぁ。あともう少しだったと思うんだけど。でもまぁ、山下も二点もゴール決めて大活躍だったから、やっぱアイツはすげーわ」
「うん。でもみんなすごい頑張ってた。お疲れさまだね」
帰り道、そんなありきたりの会話をしながら、俺たちは並んで歩く。
太陽も落ちてきて、少し涼しい風も吹いてきた。
「じゃあ、わたしこっちだから。また学校で」
「おう、また」
商店街に差し掛かったところで、彼女と別れた。
なんとなく寂しい空気を感じてしまう。
「……次はいつ会えるのかね」
「自分からガンガン会いにいくのよ‼」
独り言のつもりだったはずだが、背後から女性の声。
そしてこの声は――
「瑞希さん⁉」
俺は振り向きながらそう言った。
「久しぶり。元気にしてた?」
瑞希さんは父さんの妹で、俺の叔母さんだ。
実年齢以上に若く見える瑞希さんはとてもパワフルだ。
男よりも男らしい。いや外見はすごく綺麗なんだけど、考え方とかがね。
今は函館に住んでるはず。
「いつこっちに来たの?」
「ついさっきよ。函館の友達と一緒にスカイツリーを登ってみたくてこっち来ちゃった。今友達は買い物中だから、私もブラブラしてたところ」
「そっか。今日うちに来る? ちょうど父さんも今日出張から帰ってくるからさ」
「いや今日は友達とレストラン予約してるから、明日あっち帰るときにちょっとだけ顔だすよ」
瑞希さんは早口だ。それでいて、芯の通った透き通る声をしているから、なんというか圧がする。
「それより何よ今の子は。彼女? いやそんな感じではなかったわね。両想いだけどまだ付き合っていないむずがゆい関係、いや、片思い中ってところが妥当かしら?」
早口言葉かのように一気にまくし立ててきた。
俺は相も変わらず、ただ圧倒されている。
「よく聞きなさい。時間は永遠じゃないの。今はこのままの関係がずっと続くような感覚になってるかもしれないけど、そんなものはまやかしだからね。つかめるときにしっかりつかまないと何も手に入らないからね」
瑞希さんはとても優しい。会うたびにいつもそう思う。
おせっかい焼きなのは確かだけども、瑞希さんはいつも正しいことをたくさん言ってくれる気がするのだ。
「でもそうゆう色んな経験をして大人になっていくものだからね。たくさん間違えて、たくさん後悔して、さらにまた失敗したりして。それもまた必要かもね。だからそうね、とにかく精一杯やりなさい。欲しいものは自ら掴みなさい。でもどうしてもわからなくなっちゃったら、叔母さんに相談なさい。それじゃあ、行くからね。お父さんによろしく言っておいてね」
まくし立てるようにそう言って、瑞希さんはあっという間に人込みの中に消えて行った。
嵐のような人である。
でも言いたいことはなんとなくわかった。というか、既にわかってはいる。
それは俺にとっては正しいことだろう。
欲しいものは自ら掴みにいくべきだ。
そうだと思う。
しかしそれでも俺は、正解を見つけたかった。