占術
瑞希さんはいつも言っていた。
『欲しいものは自ら掴みにいけ。そして、必ず手に入れろ‼』
至極立派な考え方であると思う。いやほんとに。
今の伴侶もその考え通りに行動し、ゲットしていた。
多くのライバル達を、その自慢の腕っぷしひとつで、蹴散らしたらしい。
でもやっぱり、それはどうかと思う。ちょっと引く。
問題は、瑞希さんは俺の叔母さんだってとこだ。
叔父さんならまだカッケ―と、思ったかもしれないが、やっぱり女性が暴力的なのはどうなのかと思う。
いや、そもそも男性女性関係なく暴力反対だ。痛いの嫌だよ俺は。
「暴力的な男って、どう思う?」
「どうって……、怖いけど?」
「だよね」
相も変わらず、図書室で全く身のない会話をしていた俺たち。
季節は七月初旬、夏真っ盛り。
それは突然やってきた。
「こんちゃー‼ 占いはいかがですかぁ~?」
静かな図書室に大きな数珠を首にかけた女子が飛び込んできた。
おそらくは制服からして、ひとつ下の後輩だろう。なかなか可愛い。
「そこのご両人‼ 占いいかが?」
俺たちに話し掛けているらしい。
なんかめんどーなヤツに絡まれたわけだ。
とりあえず、追っ払おう。
「いや、間に合ってるから大丈夫」
「まぁまぁ、そう言わずに。うち修行中の身なのでお金はとりませんので~」
無料という言葉に少し反応しそうになったが、やべーヤツっぽいし関わりたくないという気持ちが勝る。
が、そんな騒がしい占い女にも、彼女はブレずに真面目だった。
「……あのぉ、図書室はお静かにお願いします」
か細い声ではあるが、言うことはしっかり言う性格なのは、俺はもう知っていた。
「占わせてくれたら、静かにしますよぉ~」
「えっ、ほんとですか」
なんでそうなるのか。彼女は真面目だけど少しアホだ。
そして、占い女は占いだした。
俺と彼女の相性を。
「う~ん、う~ん、う~ん」
俺にはただ目を瞑り両手を上げて、うなっているようにしかみえないが、これでどうやら占っているらしい。
そんな占い女を彼女はただ漠然と見つめていた。
興味があるのかないのか、わからない。
「――出ましたっ‼ 出ましたよ‼ お二人の相性‼」
占い女は目を見開き、言った。
「あなた達の相性は――、ボチボチです‼」
「…………」
占い女の約束通り、図書室は静寂に包まれた。
――まぁ、約束は守る女なのはわかった。
占い女に俺は冷ややかな視線を向けていたが、彼女はなんともいえない表情をしていた。
「まず男の方、あなたはここ一番大事なところで積極性が足りません。そしてもっと自分の欲望に忠実になりましょう」
「いや、俺には暴力行為は無理です」
「え? なに言ってるんです?」
会話がかみ合ってないが、これは俺も悪い。
「次に女の方、あなたはとても一途なようです。その気持ちを受け止めてくれる人に会えるとよいですね」
「……」
彼女はこれまた複雑な表情をしていたが、俺は見ないフリをしていた。
「はぁ~、また悩める子羊達の目を覚まさせてしまったです。うちはなんという罪深い女。それではまたどこかで会いましょう」
そう言い残して、占い女はスタコラ図書室から出ていってしまった。
出ていくときに短いスカートのせいでパンチラしたのに気づいたが、そこはスルーしておいた。
「騒がしいヤツだったな。後輩にあんなやべーヤツがいたとはね」
「うん。でも可愛い子だったね。なんかキラキラしてた、雰囲気が」
「でもあんな感じだと男はできなさそうだけどな。いくら可愛くても」
「そうかなぁ。あんな風にキラキラしてて、堂々としてる感じは憧れちゃうよ……」
俺にとっては、君がキラキラしてるように見えて素敵だよ。
そんな臭いセリフじゃないにしても、そうゆうことを伝えられればなと思う。
結果じゃない。
『伝える』という行為をしただけで、君は上位の存在である。
それに比べて、俺ときたらだ。
一体何をしているんだろうね。