ウソ
体育祭が終わり、俺は図書室にいた。
放課後の図書室はいつも以上に人はいない。てか、今日は誰もいない。
一日中体を動かした後、図書室に来ても寝てしまうのが関の山だろう。
普通の生徒は何かしら用がなければ来ないわけだ。
そんな日にも律儀に図書室に来て、雑務をこなすのが彼女なのだ。
「お疲れ。おしかったね、障害物競争三着だったっけ?」
「ん~、私にしては頑張れたかも。借り物競争どうだった?」
「俺もまぁまぁってとこだった。……二着だったよ」
「二着? すごーい‼ おしかったね」
俺の記憶が確かなら、障害物競争と借り物競争の競技時間はかぶっていない。
俺が競技中の彼女を見ているから間違いない。
「借り物内容が『イケメン』でさぁ、大変だったよ」
「そうなんだぁ。……それにしても足痛いなぁ。ゼッタイ明日筋肉痛だよ~」
――彼女は、俺が誰を連れてゴールをしたかは聞かなかった。
「そんなに疲れてるのにきっちり図書委員の仕事をするなんて、尊敬するよほんと」
「図書委員になったとき、先生から嬉しいこと言われちゃったから、しっかりやるの」
「なんて?」
「『あなたは何事にも一途で、一生懸命だから、安心して任せられるわ』って。そんなこと言われたら、しっかりやらないわけにはいかないもの」
「単純だなぁ」
「す、素直って言ってよ‼」
彼女は頬を膨らまして、『プイッ』という擬音が鳴っているかのように、顔をそらした。
俺はこうして、彼女と会話するだけでも満足だった。
こんな時間が、永遠に続けばいいなとも思っていた。
――わかってる。
そんな簡単に世界は出来てないんだろう。