正解
「悪いな、休憩中に」
「いいよ別に。ジュース一本おごりでいいよ」
「ちょ、金取るのかよ‼」
晴天の中、俺は山下と小走りをしながら、ゴールに向かっていた。
借り物競争。
お題は『イケメン』と来たわけで、俺の交友関係では山下一択だった。
俺と山下は二着でゴール。
一着のヤツは陸上部で足が速い上に、借り物は『メガネ』という難易度イージー。
負けは必至だろうよ。
「あらら、負けちゃったか」
「二着なら充分だ。まぁ助かったし、おごるよ」
「マジ? 単なる冗談だったんだけど」
日陰になっている校舎裏の自販機前。
俺と山下は炭酸片手に休憩する。
「あちー。六月半ばなのに、もう夏だなこりゃ」
山下は汗を拭いながら、そう漏らした。
周りには俺たち以外誰もいない。
俺は訊いてみたいことがあった。
「……お前さ、何で誰とも付き合わないの?」
「ん? いきなりどした」
「いや別に、なんとなく。モテるじゃんお前」
「……」
山下は神妙な顔をしながら俺に近づき、耳元で囁いた。
「お前が好きだから」
「…………えっ」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたのは初めてだろう。
いや、まぁ自分ではどんな顔をしているのか見れないけどさ。
てか、どうするよこれ。
耳元で囁かれたからか、なんかふわふわした気持ちになるわ。
おいおいおいおい。
新たなステージにいっちゃうんじゃないかこれ。
大丈夫なのか俺。
大丈夫か。
いや大丈夫だろ。
いやいやいやいや、でも――
「ごめん、冗談だよ。……だからそんなマジになって沈黙するのヤメてくれ」
……なんか俺のこと引いてない?
いやいや、あぶねぇ。新たなステージにいくとこだったかもしれん。
「――まぁいい、で、何でだよ? 好きな女でもいんの?」
「いや別に。単に付き合いたいと思う人がいないだけだよ。軽い気持ちで付き合うのも良くないだろ」
至極真っ当な言い分だ。
嘘をついているようにも見えない。
「じゃあいいなと思う子がいたら、付き合うのか?」
「ああ」
あの時の山下の言葉は、やはり嘘ではなかったわけだ。
「……まぁ、最近、気になってる人はいるけどな」
山下は目をそらし、頬を掻きながら、そう言った。
――誰?
そのひと言が喉まで出かかった。
俺にとって、それは訊かない方が良いことは、なんとなくわかっていた。
それでも、訊いておきたかった。誰の為かはわからない。
だから、山下の口から彼女の名前が出てきたことに、俺は動揺しなかった。
まったく関係のない俺でさえ、心が動いたわけだ。
当事者がそうなるのは、全くおかしくない。
では、なぜあの時彼は、彼女の想いに答えられなかったのか。
――軽い気持ちで付き合うのは良くない。
そうゆうことだ。
山下は人格者だ。でも不器用な男だったわけだ。
よくわかった。
こんな時、俺はどうするのが正解なんだろうかね。