墜落
そんなこんなで二ヶ月が経ち、六月も半ば。体育祭の季節がやってきていた。
俺はたまに放課後の図書室に出向き、彼女と雑談を交わす仲になっていた。
「私の嫌いな体育祭が近づいてくる……。種目何出るの?」
「俺は借り物競争」
運動が苦手な俺らにとって体育祭は鬱だ。
ここで山下みたく運動ができたりすればモテるんだろうな。
……いや、あとツラも良くないとだめか。
「私は障害物競争だけど、自信ないなぁ……」
「ちなみに去年は何の種目出たの?」
「……二人三脚」
そう言って自嘲気味にニコっと笑っていた。俺はその笑顔にデジャヴを感じた。
「二人三脚かー。確か男女混合だよね? 誰とペアだったの?」
わざわざ訊く俺。ちょっと嫉妬をしたのかもしれない。
交友関係も狭いから、どうせ知らないヤツの名前が出てくるだけなのに。
「山下君」
「……おぉ、山下か」
予想外の返答だったが、何食わぬ顔で言う俺。
――勝手な想像である。
その時に彼女は山下に惚れたんだろう。
山下は人格者だ。いいやつだ。
運動が苦手な彼女に対しても、真摯な対応で二人三脚をやり遂げたに違いない。
「山下となら結構いい線行ったんじゃない?」
「……うん。リードしてくれて、一着だったよ」
「あいつ運動もできて心もイケメンだもんなぁ。やっぱ女子はああいう男がいいの?」
「……どうだろう?」
そう言いながら、自嘲気味にニコっと笑う。
俺がそうゆうことを訊くのは反則だ。
俺は今まで自分の事が好きでも嫌いでもなかったが、少し嫌いになった。
そして、彼女が少し遠くなったような感覚がした。
もちろん、彼女は何も変わっていない。
ただ俺が堕ちただけだった。