告白
放課後の事である。
俺は友人Aと二千円を賭けた大勝負、校内かくれんぼ勝負をしていた。
まぁ、ヒマだった訳だ。
鬼は友人A、三十分以内に見つからなければ俺の勝ち。
さてどこに隠れたものか。
灯台下暗し。――俺は自分の教室のロッカー内に隠れていた。
自分らの教室に隠れるとは誰も思うまい。我ながら策士である。
――放課後のクラス内なので、当然誰も人はいない。
今頃クラスの皆は部活にいそしんでいるし、帰宅部はいそいそと帰宅中だろう。
にもかかわらず、そんな静寂を打ち消すように、教室の扉が開く音がした。
瞬間、ヤバイと思う俺。
当然、こんな放課後の教室に現れるのは、友人Aしかいないと思っているからだ。
ロッカーにはちょうど目線くらいに隙間があるので、そこから覗いてみると、同じクラスの女子がいた。
いつも本を読んでいる地味な女子。
友人Aではなかった安堵を感じながらも、放課後の教室に一体何の用だと俺は思った。
忘れ物? いやしかし、教室の窓際に立ってなんかもじもじしているし。
そんなことを考えていると、またもや教室に誰かが入ってきた。
「ごめん、待った?」
その声の主は同じクラスの山下だった。
どうやら待ち合わせをしていたようである。
「――ッ、ぜ、全然待ってないよ‼ 大丈夫‼」
そう言いながら山下から目を反らし、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
自身を落ち着かせるためなのか、自分の髪の毛をしきりに触っている。
「……」
この様子を見て俺は理解する。
――これは告白の現場だと。
山下はサッカー部のエースでイケメンだ。そしてクラスの中心的な存在で人格者である。
男の俺から見てもいいやつだし、モテるのも頷ける。
もちろん既に二人が付き合っていて、放課後の教室で待ち合わせをしていたという線もなくはない。
しかし、二人の間に流れる空気感が、どうにもそれを否定している。
「それで、話って……」
山下が照れくさそうに訊く。告られる雰囲気を感じているのだろう。
「……」
少しの静寂。
「……す、好きです、ず、ず、ず、ずっと前かられす……」
目にいっぱいの涙を溜めながら、か細い声で、しかしそれでも確かに伝わる声の大きさだった。
――その精一杯の告白に、俺の心は動いた。
正直、彼女は山下とはどう見ても釣り合わない。
おそらく、だけどもそんなことは、彼女自身わかっていることだろう。
それでも伝えることを選んだ彼女は、とても美しかったわけだ。
彼女の望んだ結果にはならなかったことは、確かに残念なのかもしれない。
今は誰とも付き合うことは考えていないという、彼の言葉は本当だろうし、落ち込むことはないんだろうと俺は思うぜ。
だから、胸を張ってほしいわけだ。
山下が教室から去った後、ひとり肩を落として泣かなくていいし、そしておそらく、誰かに泣き顔を見られないように、気持ちの整理も付かないうちに、早々と逃げるように教室を飛び出さなくてもいい。
君の告白で、心が動いた男が確かにここにいる。
まぁ、山下とは比べ物にならんほどの低スペック男子だけども。
「――はい、みっけ。二千円ゴチです」
……まさに青春を感じているときに、まったく空気を呼んでほしい。
でもまぁ、二千円で恋を買ったと思えば安いもんじゃないか、うん……。