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【閑話】絵を描くことが好きか?

 そんな感じで全力の1枚を完成させ、次はついに漫画のネーム(小説で言うプロットのようなもの?)をやるか、それより先に、漫画用の資料をつくりなおすか、と考えていた頃。

 Sさんと通話をしていたときのことです。


 その日、Sさんはとある理由で、まったく知らない人のために無料で絵を描いていました。


 それを聞いて、僕は言いました。

 

「知り合いのためならまだしも、なぜ全然しらない人のために無料で絵を描くの?」


 Sさんは答えました。


「何を描いても楽しいからだよ。私は絵を描くのが好きだから」




 このSさんの言葉に、僕は、とんでもない衝撃をうけました。


 僕も、絵を描くことが好きだと、そのときまでは思っていたからです。


 なぜなら、つい先日までは、嘔吐してもやめられないくらい必死にペンを握っていたのです。絵を描くために、たくさんあった趣味をほとんどやめた。これからも、いろんなものを犠牲にする覚悟もした。そこまでしたのだから、自分は絵を描くという行為が大好きなんだ、と思っていたんです。


 けど、よく考えたら。



「何を描いても楽しい」という感覚は、僕には、無い。


 お仕事の場合は、「楽しい」か「楽しくない」かは、別問題です。

 金銭をいただく以上、優先すべきは「自分の感情・主張」ではなく「お客様の理想」。

 依頼をくださった方の「こんな絵が見たい、欲しい」という気持ちを具現化するお手伝いをする。

 難しい内容もありますし、ご予算の都合や納期の関係で厳しい条件になることもありますが、そのなかでより良いものを作るにはどうするべきか模索していくのはやりがいもあります。


 でも、仕事じゃなかったら?

 ペンを持つだけでなんでも楽しい、とは思えません。


 小説を書いたときに気がついた、「なんでもいいじゃなくて、ワルツがいいんだ」という感覚を、絵でも味わうことになろうとは。

 

 

 絵を描くのは、時間も体力も精神も消費します。とても大変なことで、苦行だとすら感じます。いつだって「いける」と信じていたときにはもう戻れません。「いけてない」のが分かりながら、それを直視しなくてはならないのは、痛いです。


 あまりにも衝撃すぎて、僕は少し泣きました。2,3日は精神が不安定でした。

 3日ほどゆらゆらして、それから、僕は、開き直ることにしました。


「僕、絵を描くのも字を書くのも多分好きじゃないです」


 僕がやりたいのは、ワルツの絵を描こと。ワルツの字を書くこと。

 これは単純にワルツが好きなだけであって、絵や字をかく、という「行為」自体は特に好きではなかったようです。


 何十年か生きてきて、はじめて気がついたことでした。


 長い間思い込んできたことが覆ってしまって、驚きましたが、開き直ってみたら、心が軽くなった気がします。

 好きじゃなきゃ、やっちゃだめってことは無いんです。好きでなくても、そこにやる理由があるから、やるんです。


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そしてふたりでワルツを【小説版】
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