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第2話: モブキャラ卒業?いや、人生から卒業みたいで

 2人の少女の黒い翼と白い翼は天高く舞い上がり、旋回してはぶつかりあった。その度に赤い火花が散っている。それと同時に響いてくる金属音から、2人の戦いは武器まで持ち出した不穏なものへと展開していることが分かった。


「これは夢だ…きっと夢に違いない…」


 もしくはタチの悪いドッキリ。俺は自分に言い聞かせるように呟き続けた。だってこんなとんでも出来事、信じられるわけがない。しかしその考えを否定するかのように、俺を拘束する縄は、腕に深くめりこんでくる。あまりの痛さと、目の前で繰り広げられるありえない戦いに意識が混沌としてきた。


その時


「…しつこい箱入り娘め!

我が鉄槌をくらうが良い!」


 黒羽の少女がそう叫ぶと、彼女が突き出した右手から真っ赤な炎が放出された。まるでサーカスで繰り広げられる火吹きのような、まっすぐな炎…それが龍のように雄々しくうねりながら、白い翼の少女に向かう。しかし炎は、白羽の少女がふるった槍に弾かれ、あろうことか俺めがけて飛んできた。


 人生2度目の命の危機。通行人A、文字通り飛び火を浴びるってか!?冗談じゃない!


「しまった…!」


 少女たちの声が聞こえた。轟々と燃える炎が俺の目前に迫った。周りの空気は一瞬で熱され、皮膚はすでにじりじりと痛み始めた。今度こそ死ぬ…走馬灯を見ることもなく、俺の意識はそこで途絶えた。


 間違えなく死んだ。なんて人生の幕締めだ。


 確かに、どうせ死ぬならファンタジーの世界で華々しく散りたいと願ったよ。それにしてもこれはずさんすぎるだろ。何が何だか分からない。


 ふわりと、心地良い風が俺の頬を撫でた。どこからか甘い香りも漂ってくる。きっと、天国だ。天国の花畑にいるに違いない。


 そう思って瞳を開いた。すぐそこにまだあどけなさを残す女の顔があった。

空をうつしたような青い瞳に、透き通るような色素の薄い金髪、この世の人間とは思えないほど美しい白い肌。


「…天使ですか?」


 思わず問いかけると、天使は瞳に溜めた涙をポロポロとこぼしなさった。


「良かった…目が覚めた…!ごめんなさい、私のせいで…!」


 少女は咳き込むように言って顔を近づけてきた。良い香りだ。よく見るとこの子は、意識を失う前に見た白い翼の女の子その人だった。今は背中に大きな翼は見られないが、この端正な顔立ちは間違いない。


…俺はまだ、夢の中にいるのだろうか。


 辺りを見渡した。白を貴重とした、清潔感溢れる部屋の中だった。大きな窓は開いていて、外の柔らかい空気と陽光が部屋の中いっぱいに広がっていた。俺は天蓋付きの大きなベッドの上に眠らされていた。真新しいシーツはパリパリで、隣に手を伸ばせば、温かくてふよふよの…大きくて弾力のある、なんとも形容し難いものが…


「ひゃうっ!」


 俺の隣で寝そべっている天使が高い声をあげた。隠すようにして豊満な胸を抑えている。


あれ…


 俺は自分の手と、彼女の胸を見てフリーズした。今のはもしや…というか


「なんであなた俺と同じベッドに寝てるんですか!?」


「それはあなたが、私が殲滅の魔女の魔術をかわしたせいで意識を失ってしまったから…」


 天使は起き上がると、はらりと垂れた金髪を細い指で耳にかけ、頬を赤く染めながら再び自分の体を抱くように両腕を組んでいる。道端にいじらしく咲き誇る花のような可愛らしさだった。


「ずっと、一緒に添い寝してくれてたんですか…?」


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。さっきから仄かに香る甘いにおいは、この天使の女の子の香りだ。間違いなくこれは夢じゃない。つまりは先ほどこの目にした、魔法も何もかもが夢じゃないことになるのだが、今はそんなことどうでも良い。

 問題なのは、この、なんの取得も秀でた才能もない、モブキャラな俺が、女の子と同じベッドで眠っていたということだ。


「…少しの間だけ。メイドが、殿方はそうされると嬉しいからとうるさかったので。」


 よく言ったメイドとやら、顔も名前も知らないけど!


「…少し恥ずかしかったですが、おかげであなたはこうして目を覚ましてくださいました。

みんなを呼んで参りますね!」


 と言って飛び起きる天使は、いい加減なメイドの台詞を鵜呑みにしちゃうくらい馬鹿正直らしい。


「ちょっと待って、聞きたいことがあるんだ!

 君は一体何者なんだい?あの黒い羽の女の子はなに?それにここはどこなのかな…俺は何のためにこんな所へ連れてこられたの?」


 今頭に思いつく限りの疑問を一気に吐き出した。質問攻めすることに申し訳なさはあったが今回ばかりはやむを得ないだろう。


「…今は全てを教えてさしあげることは致しかねますが、少し整理して端的に教えますね。」


 彼女はそう前置きして、言葉を続けた。


「ここはレルドリア国南寮、イーディアル城の中です。私は第5王女ルーゼ・レルドリア。

 あなたは先ほど相見えた殲滅の魔女によって、異世界からこの世界に召喚されてしまったのです。」


 やはりここは日本じゃない。それどころか、アニメではお馴染みの異世界というわけか。その上、今目の前にいる女の子は、一国の王女様だという。


「…しかし、あの殲滅の魔女はこの国の転覆を目論む謀反者。つまりは悪いやつなのです。

 なので、彼女が最強の使い魔を召喚することを聞きつけた我が国の兵団は、彼女の隙をついて、彼女が召喚した最悪の使い魔であるあなたを、捕らえたのです。」


「それで俺は十字架に貼り付けにされてたんですね?」


 ルーゼは頷いた。


「部下の先走りをお許しください。いきなりあなたを殺してしまうなんていけないこと…なので私が責任をもって、きちんと救い出そうと思ったのですが…こんなことになってしまって。」


「それは良いんですよ、火傷もしてないし、助けてくれてありがとうございます。

…でもルーゼさん。俺は平凡な大学生で、なんの力もないんです。最強最悪の使い魔なんて滅相もない、勘違いなんです!」


 俺は力強く訴えかけた。異世界転移なんて、幼いころからずっと憧れていたことだ。ラノベを読んでは妄想にふけり、もし自分がそうなったらどうしようかとシミュレーションしたこと100回以上。それがこうして現実になった。おまけに可愛い女の子と2人きり。それでも俺には、何の力も存在しない。現にさっきだって殺されかけたんだ。最強の使い魔と呼ばれる存在にはかけ離れすぎている。


「あなたは使い魔なんです。」


 ルーゼはそうとだけ告げた。その瞳は先ほどまでとなんら変わりない。俺・使い魔説を微塵も疑っていない様子だ。だとしたら、俺は本当に最強の力を秘めているのだろうか?今までは眠っていた力が、この世界に召喚されたことによって覚醒とかしちゃうのだろうか!?期待をこめてルーゼを見つめる。


 俺、モブキャラ卒業できるんですか?


「……あなたは、最強・最悪の使い魔。なので、審議をもった上で、礼節に基づき処分しなければならないのです。」


「……処分?」


「ええ。処刑です。」

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