駅前にて
ほんのりBLっぽいですので、ご注意を。
「もぉ~、遅いぃ~。あたし何時間待ったと思ってるのよぉ」
「ごめんごめん」
駅前には、いろんな人間が居る。
そんなことは分かっている。
バカップルもいるけれど、浮浪者だっているさ。
オタクくさいやつも、もちろんいるさ。
だけど、そんなのは問題はない。
俺には、ほとんど関係ないし、迷惑を・・・まぁちょっとはかかるけど・・・。
とにかく、色々なヤツがいる。
今は、どうでもいい。
問題は、目の前でアイス食ってるコイツだ。
・・・にしても、うまそうに食べるよなぁ・・・。
俺が、ジッと見ていたのを気にしたのか、こっちを見て、
「食べたい?」
「・・・遠慮する」
なぜ、あれだけ食べといて、アイスが入るんだ?
むしろ、そもそもなぜ、俺が!!コイツとデートをせにゃならん?
女の子とならいざ知らず・・・、コイツと・・・。
◆◆◆
「ありがとうございました」
俺は、呆然としていた。目の前の光景が信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
目の前のコイツと圧倒的な差で負けたことに・・・。
ボーっとしている間に、表彰式、閉会式も終わってしまったらしい。
「キリ、帰るよ」
里美に引っ張られて、立ち上がったものの、動けない。
少なくとも、俺は本気でやったハズだ。
それなのに、なんで・・・?
「これ、書いて」
目の前にメモ帳とペンがあった。
訳がわからない。
視線をあげると、そこには、今最も見たくない顔があった。
「メアド、書いてよ」
「・・・なぜに?」
「俺のメアド渡しても、片桐ちゃん送ってくれそーにないし?」
「・・・」
確かに、そうだな。
でも、書きたくない。
「別に、片桐ちゃんじゃなくてもいいけどさぁ・・・」
そういって、ちらりとあいぼんを見つめている。
誰が、テメーなんかとデートさせるか!!
メモをひったくって書き込んで、乱暴に渡した。
「うん。素直でよろしい」
満足そうに笑う。
うるさい。
回れ右をして、さっさと帰ろうとしたら、
「ちょっと待って。はい、コレ」
渡された紙を見ると、メアドとその上に"拓也"とだけ書かれていた。
家に着いた途端、狙ったかのように携帯がヤツのメールを受信した。
携帯はしっかり働いて欲しいけどさぁ、こーゆーときはサボってもいいよ・・・。
"デートはいつにする?"
いきなり、それかい!!
挨拶も何もかもをすっ飛ばして、そこにいくんかい!?
すぐにでもデートをしたいらしい拓也をどーにかなだめて、冬休みまで待たせた。
学校帰りとか、制服とかで会いたくなかった。
誰かに会ったら、ごまかしきかねーし・・・。
そして、恐怖の冬休みが到来して、今、デートなるものをしている。
10時に待ちあわせて、映画を見て、近くの喫茶でめしを食って、今に至る。
本当は、途中でトンズラこいたろうと思っていたのだが、映画をおごってもらい、悪くて実行できない。
女におごれよ、男じゃなくてさぁ・・・。
ウーロン茶をすすりながら、こっそり溜め息をつく。
そーいや俺、今は女だった・・・。
しかも、親の用意しやがった服はどー見ても女だ。
むしろ、こんな格好した男がいたら・・・。
ヤベェ、今、自分を全否定するとこだった。
・・・、とにかくなんとかなんないかなぁ、このミニスカ・・・。
なんだか、泣けてくる・・・。
自分はとっくに食べ終わっていて、
しょうがないからウィンドウから見える町の様子を眺めていた。
冬休みに入ったばかりだというのに、町はもう、クリスマス一色だ。
赤と緑のコントラストが目に染みる。
拓也は、アイスをもう食べ終わったのか、音がスプーンの音がしなくなった。
そっと、視線を前に向けると、そこには、知らない顔をしたヤツがいた。
ウィンドウの外を悲壮な眼で見つめている。
彼の視線を追ってみると、そこには、
少し茶色がかった髪を肩まで伸ばしている女がいた。
後ろ姿しか見えないが、かなりの上玉だろう。
ふいに彼女がこちらの方を満面の笑顔で振り向いた。
かわいらしい、女の子らしい笑顔で、心臓がドギマギした。
金属の音がすぐ近くでした。
振り向くと、ヤツが落としたスプーンを拾っていた。
「知り合い?」
何事も無かったかのように、またアイスの征服にとりかかったヤツに聞いてみた。
「・・・ちょっと、知り合いに似ていただけ」
「・・・へぇ」
ウィンドウの外では、さっきの女の子が男と並んで歩いていた。
「次は、マリーに行こうか」
さっさと会計に行って、外に出た。
12月のもうそろそろ下旬といったこの時期は、さすがに寒い。
速攻でトンズラここうと思っていたから、防寒は上着一枚だけ。
あ~、寒っ。
ブルンと身震いしてヤツの隣を歩く。
冷え切った俺の手に暖かいものが触れた。
ヤツの手だ。
「なっ・・・」
振り解こうとしたら、素早く両手を掴まれ、
「強がりもいいけどさ、寒いだろ?俺の手はあったかいんだからさ、手袋だと思って掴まってろよ」
いつになく、真剣な言葉と顔に、俺は何も言えなかった。
事実、寒すぎて、手に感覚などなくなっていたから。
「・・・」
手を繋いでマリーという店に着いた。
中は暖房が効いていて、とても暖かい。
自然と手を放し、店の中を見て回る。
中には、かわいい女物のアクセサリーが並んでいた。
あのぉ・・・。
お前、女物の髪飾りをつけるのが趣味なのか?
そういや、結構ロンゲだし・・・。
まさか、女装趣味が!!
妖しげにちらりとヤツの顔を見ると、ある一点をじっと見ていた。
そこは、小さなコーナーで、メガネのアクセしか置いてなかった。
はて、こいつメガネなのか?
一度もメガネ姿をみたことがないけどなぁ・・・。
メガネコーナーの方に行き、見本のメガネをかけてみた。
「どうだ?」
後ろを振り向いた。
少し驚いたような顔をして、こっちをみつめているヤツがいた。
あまりにも長い間、じっと見るから、恥ずかしくなって、メガネを取ろうとした。
「・・・とても、似合っている」
外そうとした手は、空中で掴まれ、思わず顔をあげた。
ヤツの顔は、真剣と言うよりは、哀しそうで。
何も言うことが出来ず、ただ、俺は立ち尽くした。
どうすればいいのかわからない。
ただ、さっき見た、喫茶の時と同じ、知らない顔。
少しだけ、どこか、恐怖を誘う、そんな表情。
「・・・ごめん」
ぱっと、手を放し、横を向く。
おちゃらけて、軽くて、とてつもなくウザイ顔は、どこにもなくなっていた。
どうすればいいのか、その自分よりも大きな人間を、俺は見上げた。
きっと、ヤツは悲しい状態なんだと思った。
メガネが、悲しいのかな・・・?
外して、もとあった場所へ戻した。
そういえば、あいぼんもメガネだけど、こいつ、最初はあいぼんの所に擦り寄ってたよなぁ?
あ~、訳がわからん。
ヤツは終始無口のまま、さっきのメガネのアクセを買って、外に出た。
どうすればいいのか、わからず、そっと様子を伺う。
買ったばかりの紙袋を大事そうに抱えて、表情は見えない。
「片桐ちゃんは、メガネ?」
「・・・、授業の時だけ」
先程の様子とは違い、いつものウザさパワーが帰ってきていた。
「あ~、良かった。
買った後だけど、片桐ちゃんメガネじゃなかったら、どうしよっかなぁ、って。コレ」
「どーゆー意味だ?」
「今日の記念!!に、片桐ちゃんへのプレゼント」
「はぁ?」
「何のために買ったと思ってたの!!」
「・・・自分のため?」
「いやいやいや。いくらオレがカワイイからって、女物はちょいなぁ」
いや、俺、男ですから。
「そもそも、オレメガネじゃないし」
・・・さいですかい。
「って、ことでプレゼントフォーユー!!」
いや、いらないから。
断ろうと、声を出そうとした瞬間、ヤツの動きが止まった。
「っ・・・」
視線を追って、振り返ると、そこには、さっきみた女の子に似ている子が居た。
茶色がかった髪を肩まで伸ばして、ふちなしメガネをかけた。
その子も、こちらをみて、いや、正確にはヤツを見て、固まっていたが、しばらくして後ろを向いて走り出した。
ヤツは少し寂しそうに笑っている。
「知り合い・・・だよな?」
「・・・クラスメイトだよ」
こちらを見ていないヤツの寂しい顔は、確かに彼女に向けられている。
「好き、なんだろ」
「・・・違うよ。オレが好きなのは、片桐ちゃんでしょ」
「好きじゃなきゃ、なんでそんなに寂しそうな顔してる?」
「寂しそうな顔なんて、してない」
「告ってフラレタ?」
「だから、違うって」
「違うのは、そっちだろ?それに、別に告ったわけじゃ、ないよな?」
「・・・」
「そうだろ?本当はこのメガネのアクセだって、あの子のために買ったんだろ?」
「・・・」
「あの子、傷ついた顔してた。あの子も、お前のことが好きなんだろ」
「そんなことは、ありえない」
「どうして?」
「あいつは、オレを避ける」
「・・・恥ずかしいだけなんじゃないのか?
俺だって、別に恋愛豊富とかじゃないけどさ、そーゆー時ってあると思う。
自分ばかりが好きで、それを知って欲しくて、けど、怖くて。
それで、軽蔑されたらどうしようって、恥ずかしくなる」
「・・・」
「追いかけろよ、あの子が好きなら」
「無理だよ、今更」
「無理じゃない!!
お前の思いは別に誰かに拒絶されたわけじゃないだろ?
贅沢なんだよ!!」
「オレは・・・」
「追いかけろよ」
「・・・」
意を決したのか、俺に背中を向けて
「片桐ちゃん、ゴメン」
走っていった。
一人、残された俺は、
「・・・謝るなよ・・・」
一人、歩いている。
知らないと思っていたヤツの顔を思い出した。
俺は、ヤツのあの顔を知っていた。
正確には、似ている顔を知っていた。
かつての、あの子に恋をしていた、俺の顔。
そして、今日見た映画の主人公の顔。
映画の中では、ヒロインにどんなに恋焦がれても、フラレテしまった。
しかし、現実は映画ではない。
あの子と、ヤツは、二人だけしか知らない物語を創るのだ。
無理矢理、デートに付き合わされて、結局は俺だけひとりか・・・。
なんだかなぁ・・・。