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ハッピーエンドじゃ終われない  作者: りゅう
1年生
9/44

駅前にて

ほんのりBLっぽいですので、ご注意を。

「もぉ~、遅いぃ~。あたし何時間待ったと思ってるのよぉ」

「ごめんごめん」

駅前には、いろんな人間が居る。

そんなことは分かっている。

バカップルもいるけれど、浮浪者だっているさ。

オタクくさいやつも、もちろんいるさ。

だけど、そんなのは問題はない。

俺には、ほとんど関係ないし、迷惑を・・・まぁちょっとはかかるけど・・・。

とにかく、色々なヤツがいる。

今は、どうでもいい。

問題は、目の前でアイス食ってるコイツだ。

・・・にしても、うまそうに食べるよなぁ・・・。

俺が、ジッと見ていたのを気にしたのか、こっちを見て、

「食べたい?」

「・・・遠慮する」

なぜ、あれだけ食べといて、アイスが入るんだ?

むしろ、そもそもなぜ、俺が!!コイツとデートをせにゃならん?

女の子とならいざ知らず・・・、コイツと・・・。


◆◆◆


「ありがとうございました」

俺は、呆然としていた。目の前の光景が信じられなかった。

いや、信じたくなかった。

目の前のコイツと圧倒的な差で負けたことに・・・。

ボーっとしている間に、表彰式、閉会式も終わってしまったらしい。

「キリ、帰るよ」

里美に引っ張られて、立ち上がったものの、動けない。

少なくとも、俺は本気でやったハズだ。

それなのに、なんで・・・?

「これ、書いて」

目の前にメモ帳とペンがあった。

訳がわからない。

視線をあげると、そこには、今最も見たくない顔があった。

「メアド、書いてよ」

「・・・なぜに?」

「俺のメアド渡しても、片桐ちゃん送ってくれそーにないし?」

「・・・」

確かに、そうだな。

でも、書きたくない。

「別に、片桐ちゃんじゃなくてもいいけどさぁ・・・」

そういって、ちらりとあいぼんを見つめている。

誰が、テメーなんかとデートさせるか!!

メモをひったくって書き込んで、乱暴に渡した。

「うん。素直でよろしい」

満足そうに笑う。

うるさい。

回れ右をして、さっさと帰ろうとしたら、

「ちょっと待って。はい、コレ」

渡された紙を見ると、メアドとその上に"拓也"とだけ書かれていた。


家に着いた途端、狙ったかのように携帯がヤツのメールを受信した。

携帯はしっかり働いて欲しいけどさぁ、こーゆーときはサボってもいいよ・・・。

"デートはいつにする?"

いきなり、それかい!!

挨拶も何もかもをすっ飛ばして、そこにいくんかい!?

すぐにでもデートをしたいらしい拓也をどーにかなだめて、冬休みまで待たせた。

学校帰りとか、制服とかで会いたくなかった。

誰かに会ったら、ごまかしきかねーし・・・。

そして、恐怖の冬休みが到来して、今、デートなるものをしている。

10時に待ちあわせて、映画(ラブストーリー)を見て、近くの喫茶でめしを食って、今に至る。

本当は、途中でトンズラこいたろうと思っていたのだが、映画をおごってもらい、悪くて実行できない。

女におごれよ、男じゃなくてさぁ・・・。

ウーロン茶をすすりながら、こっそり溜め息をつく。

そーいや俺、今は女だった・・・。

しかも、親の用意しやがった服はどー見ても女だ。

むしろ、こんな格好した男がいたら・・・。

ヤベェ、今、自分を全否定するとこだった。

・・・、とにかくなんとかなんないかなぁ、このミニスカ・・・。


なんだか、泣けてくる・・・。


自分はとっくに食べ終わっていて、

しょうがないからウィンドウから見える町の様子を眺めていた。

冬休みに入ったばかりだというのに、町はもう、クリスマス一色だ。

赤と緑のコントラストが目に染みる。

拓也は、アイスをもう食べ終わったのか、音がスプーンの音がしなくなった。


そっと、視線を前に向けると、そこには、知らない顔をしたヤツがいた。

ウィンドウの外を悲壮な眼で見つめている。

彼の視線を追ってみると、そこには、

少し茶色がかった髪を肩まで伸ばしている女がいた。

後ろ姿しか見えないが、かなりの上玉だろう。

ふいに彼女がこちらの方を満面の笑顔で振り向いた。

かわいらしい、女の子らしい笑顔で、心臓がドギマギした。


金属の音がすぐ近くでした。

振り向くと、ヤツが落としたスプーンを拾っていた。

「知り合い?」

何事も無かったかのように、またアイスの征服にとりかかったヤツに聞いてみた。

「・・・ちょっと、知り合いに似ていただけ」

「・・・へぇ」


ウィンドウの外では、さっきの女の子が男と並んで歩いていた。


「次は、マリーに行こうか」

さっさと会計に行って、外に出た。

12月のもうそろそろ下旬といったこの時期は、さすがに寒い。

速攻でトンズラここうと思っていたから、防寒は上着一枚だけ。

あ~、寒っ。

ブルンと身震いしてヤツの隣を歩く。

冷え切った俺の手に暖かいものが触れた。

ヤツの手だ。

「なっ・・・」

振り解こうとしたら、素早く両手を掴まれ、

「強がりもいいけどさ、寒いだろ?俺の手はあったかいんだからさ、手袋だと思って掴まってろよ」

いつになく、真剣な言葉と顔に、俺は何も言えなかった。

事実、寒すぎて、手に感覚などなくなっていたから。

「・・・」


手を繋いでマリーという店に着いた。

中は暖房が効いていて、とても暖かい。

自然と手を放し、店の中を見て回る。

中には、かわいい女物のアクセサリーが並んでいた。


あのぉ・・・。

お前、女物の髪飾りをつけるのが趣味なのか?

そういや、結構ロンゲだし・・・。

まさか、女装趣味が!!

妖しげにちらりとヤツの顔を見ると、ある一点をじっと見ていた。

そこは、小さなコーナーで、メガネのアクセしか置いてなかった。

はて、こいつメガネなのか?

一度もメガネ姿をみたことがないけどなぁ・・・。


メガネコーナーの方に行き、見本のメガネをかけてみた。

「どうだ?」

後ろを振り向いた。

少し驚いたような顔をして、こっちをみつめているヤツがいた。

あまりにも長い間、じっと見るから、恥ずかしくなって、メガネを取ろうとした。

「・・・とても、似合っている」

外そうとした手は、空中で掴まれ、思わず顔をあげた。    


ヤツの顔は、真剣と言うよりは、哀しそうで。

何も言うことが出来ず、ただ、俺は立ち尽くした。

どうすればいいのかわからない。

ただ、さっき見た、喫茶の時と同じ、知らない顔。

少しだけ、どこか、恐怖を誘う、そんな表情。

「・・・ごめん」

ぱっと、手を放し、横を向く。

おちゃらけて、軽くて、とてつもなくウザイ顔は、どこにもなくなっていた。

どうすればいいのか、その自分よりも大きな人間を、俺は見上げた。

きっと、ヤツは悲しい状態なんだと思った。


メガネが、悲しいのかな・・・?

外して、もとあった場所へ戻した。

そういえば、あいぼんもメガネだけど、こいつ、最初はあいぼんの所に擦り寄ってたよなぁ?

あ~、訳がわからん。

ヤツは終始無口のまま、さっきのメガネのアクセを買って、外に出た。

どうすればいいのか、わからず、そっと様子を伺う。

買ったばかりの紙袋を大事そうに抱えて、表情は見えない。

「片桐ちゃんは、メガネ?」

「・・・、授業の時だけ」

先程の様子とは違い、いつものウザさパワーが帰ってきていた。

「あ~、良かった。

買った後だけど、片桐ちゃんメガネじゃなかったら、どうしよっかなぁ、って。コレ」

「どーゆー意味だ?」

「今日の記念!!に、片桐ちゃんへのプレゼント」

「はぁ?」

「何のために買ったと思ってたの!!」

「・・・自分のため?」

「いやいやいや。いくらオレがカワイイからって、女物はちょいなぁ」

いや、俺、男ですから。

「そもそも、オレメガネじゃないし」

・・・さいですかい。

「って、ことでプレゼントフォーユー!!」

いや、いらないから。

断ろうと、声を出そうとした瞬間、ヤツの動きが止まった。

「っ・・・」

視線を追って、振り返ると、そこには、さっきみた女の子に似ている子が居た。

茶色がかった髪を肩まで伸ばして、ふちなしメガネをかけた。

その子も、こちらをみて、いや、正確にはヤツを見て、固まっていたが、しばらくして後ろを向いて走り出した。

ヤツは少し寂しそうに笑っている。

「知り合い・・・だよな?」

「・・・クラスメイトだよ」

こちらを見ていないヤツの寂しい顔は、確かに彼女に向けられている。

「好き、なんだろ」

「・・・違うよ。オレが好きなのは、片桐ちゃんでしょ」

「好きじゃなきゃ、なんでそんなに寂しそうな顔してる?」

「寂しそうな顔なんて、してない」

「告ってフラレタ?」

「だから、違うって」

「違うのは、そっちだろ?それに、別に告ったわけじゃ、ないよな?」

「・・・」

「そうだろ?本当はこのメガネのアクセだって、あの子のために買ったんだろ?」

「・・・」

「あの子、傷ついた顔してた。あの子も、お前のことが好きなんだろ」

「そんなことは、ありえない」

「どうして?」

「あいつは、オレを避ける」

「・・・恥ずかしいだけなんじゃないのか?

俺だって、別に恋愛豊富とかじゃないけどさ、そーゆー時ってあると思う。

自分ばかりが好きで、それを知って欲しくて、けど、怖くて。

それで、軽蔑されたらどうしようって、恥ずかしくなる」

「・・・」

「追いかけろよ、あの子が好きなら」

「無理だよ、今更」

「無理じゃない!!

お前の思いは別に誰かに拒絶されたわけじゃないだろ?

贅沢なんだよ!!」

「オレは・・・」

「追いかけろよ」

「・・・」

意を決したのか、俺に背中を向けて

「片桐ちゃん、ゴメン」

走っていった。

一人、残された俺は、

「・・・謝るなよ・・・」

一人、歩いている。


知らないと思っていたヤツの顔を思い出した。

俺は、ヤツのあの顔を知っていた。

正確には、似ている顔を知っていた。

かつての、あの子に恋をしていた、俺の顔。

そして、今日見た映画の主人公の顔。

映画の中では、ヒロインにどんなに恋焦がれても、フラレテしまった。

しかし、現実は映画ではない。

あの子と、ヤツは、二人だけしか知らない物語を創るのだ。


無理矢理、デートに付き合わされて、結局は俺だけひとりか・・・。


なんだかなぁ・・・。 

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