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ハッピーエンドじゃ終われない  作者: りゅう
1年生
8/44

大会3

「何、またボーっとしてんの?」

いつの間にか、目の前に里美の顔があった。

市ノ瀬はすでにいなかった。

「もう、試合始まるからさ。早く行くよ、もう」

俺は、乱れた心のまま、場についた。

けれど、目の前の札に俺の頭は無かった。


頭から過去が放れずに、ずっとつきまとう。


試合はすでに中盤にさしかかっていた。

俺の手元に札は少なく、相手はかなりもうとっている。

勝機は・・・、絶望的だ。

先程、あいぼんが試合を終わっていた。

あいぼんは札の束を持っていなかったので、負けたらしい。

しかし、先輩は勝っていた。

札の束をもって、記録係りのもとに行っていた。

俺は、ここで負けるだろうけれど、後の二人が勝てば、ポイントは3になる。

決勝に出れるだろう。

そんなことをぼんやりと考えていた、その時。

塚本さんが終わったらしく、頭を下げている。

塚本さんの陣地に、札がある・・・。


負け。


その文字が、大きく俺にのしかかる。

ああ、ダメだ。

もう、市ノ瀬とは過去のことなんだ。

今は、目の前の札に集中する。

それだけでいい。

後のことは、後で考えればいい・・・。


◆◆◆


俺が、試合をようやく終えたとき、周りに試合をやっていた人たちはいなかった。

代わりに、たくさんの人が、俺たちの試合をみていた。

中盤にはすでに10枚以上の差がつけられていたが、なんとか盛り返すことができた。

最後は残り、お互いの陣地に一枚ずつでかなりの接戦で。

相手が気を緩めていたのかどうかわからないが、何とか1枚差で勝つことができた。

試合が終わり、お互いに礼をした瞬間。

辺りから、拍手が起こった。

その大きな拍手の中、気恥ずかしく思いながら俺は札をとり、記録係りの所へ行った。

「おめでとうございます」

記録係りの人にそういわれて、俺は嬉しかった。

そして、思った。

やっぱ、記録つけんのに、勝ったヤツがやるのが当然だよなって。

負けの方には大きくバッテンがつけられるんだぜ。

自分で書くなんて、やだよなぁ・・・。


荷物の置いてある俺の帰る場には、顧問と里美たちが笑顔で迎えてくれた。

「あたし、キリを殺さなくてよくなって、良かった。まだ、犯罪者になりたくなかったし」

そーいや、そんなこと言ってたね・・・。

っつーか、マジで殺す気だったんだ・・・。

なんか、俺、ほんっとーに勝ててよかった。

じゃねぇと、冗談抜きで電車に突き落とされてたかも。

しかも、自殺ってことで・・・。

「おめでとう、片桐さん」

命の危険を感じているときに、後ろからいきなり声をかけられた。

振り向くと、茶髪(もろ染めてる)に無造作できっちり髪を整えている、いかにも俺は軽いぞ~って、主張してる風な男が声をかけてきた。

はて、俺、こいつと知り合いだったけ?

「オレ、次に君らと対戦する高校の選手。まぁ、つまりは優勝を争うってこと?

オレ的には、優勝とかどーでもいいんだけどねぇ、部長がうるさいしねぇ」

つまりは、こいつと俺は知り合いじゃないわけか。

なるほど、だから見覚えなかったんだな、この顔。

「おっ、そーだ。なぁなぁ、こーしねー?

俺と対戦したヤツが俺に負けたら、デートしない?

君ら全員かわいーしさ、そしたら断然オレ、やる気でちゃうんだよね」

そりゃ、おめーの勝手の都合だろ?

男とデートなんて・・・。

うっわ、考えただけでも空恐ろしい。

吐き気してきたぜ。

「特に好みなのはこの子かな?」

そういって、あいぼんの手を掴んで、強引に引き寄せる。

あいぼんは不意をつかれて、何もできずにいた。

「おい、やめろよ。いやがってんじゃん」

「片桐さんには関係ないよ。俺とこの子の間に割り込まないでくれるかな?」

「やめろっつってんだよ、このドアホウ。そんなにデートしたいなら俺がしてやるよ、勝てたらな!!」

そいつの手とあいぼんの手を引き離す。

"無関係"―――――――。

その言葉は俺が一番嫌いな言葉だ。

それを聞くと、俺は冷静でいられなくなる・・・。

「そーだよ、あいぼんには、もう彼氏がいるんだからね」

里美が俺に続いていったが、どちらかというと俺にダメージが大きかった。

そーだよね、あんなにドキドキして俺が好きになっても、もー人のものなんだよね。

あー、くっそ、片思いかよ・・・。

「・・・ふぅん。

気が強い子、結構好き。っつーか、もろ好みだよ・・・」

なぜか、俺の手を今度は握っていた。

そのナンパのわりに、真剣な瞳が俺をとらえて、離さない。

「そりゃ、どーも」

手を引き剥がそうとするが、なかなかこいつは強くて、不可能だった。

「クス・・・。じゃ、終わったらメアド教えてくれよ。連絡とれないしね」

そういって、手を放していってしまった。


「お前達、どこ行ってたんだ?」

微妙に遠くから、顧問がやってきた。

こちらのことにずっと気づいていなかったから、当然、あんな男のことも知らない。

全体的に雰囲気が重くなっているのにも気づかずに、

「次の試合は、S高校とに決まったぞ。で、決勝戦だから、オーダーを提出するんだが・・・」

そういって、何やら紙切れを出した。

「誰か、鉛筆持ってないか?」

おいっ!!

てめーで持ってろや!!

「・・・」

無言で先輩がペンを差し出した。

「別に、大将、副将・・・といった順番でなくてもいいらしい。

まぁ、じゃんけんでもあみだでもいいから決めてくれ」

そいういって、先輩に紙を渡した。

って、おい!!

先輩にペン借りたのに、あんたが書くんじゃないのかよ!!

「んー、じゃぁ、適当にじゃんけんで決めるかい?」

いかにもめんどくさいといった感じに先輩が言う。

「じゃ、負けた人が大将ってことで」

「そうだね」

「いや、私は五将をもらうから」

と、さっさと先輩が紙に名前を書き込んでいる。

「じゃんけんほい」

俺以外の人間が、なぜかグーを出していた・・・。


◆◆◆


「ねーねー、順番ってどう決めたの?」

目の前には、とびっきりウザイやつ。

「あっ、もしかしてそんなに俺とデートしたかった?」

ちげーよ。

誰が好き好んで男となんかと・・・。

「いやぁ、俺ってば愛されちゃってるぅ」

ブチンッ。

俺の中で、何かがきれる音がした。

「・・・うるせー。順番はただの偶然だ。じゃんけんで負けただけだ。」

できるだけ、声を小さくして言った。

それでもヤツはこりずに、

「・・・ふぅん。偶然、ね・・・。じゃ、君と俺は運命の糸で結ばれているのかな?

ほら、偶然って、必然ともいうじゃん?」

「・・・普通はいわないし。

それに、お・・・・私の運命の糸は確実にあなたとだけは結ばれてないね」

何か、もうあきらめた。

なに言ってもダメだ、こーゆータイプ・・・。

「もう、すねちゃダメダメ。嫌よ嫌よも好きの内ってね」

いや、好きになれそうにないよ。

どんなに頑張っても無理。

少なくとも君が男である限りは一生ムリだね。

「片桐さん・・・」

「?」

いきなりすっと、真剣な声で呼ばれ、俺は顔をあげた。

「俺さ、本当に君のこと、好きになりそう・・・」

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!?????????

「あのぉ・・・」

「うん。君の事、好きだよ」

「寝言は、寝てからいうべき言葉ですけど・・・」

「寝言じゃないよ。マジだよ」

そういって、いきなり手を掴んでそこに、きっ、キスしやがった!!

「・・・ざけんじゃねぇ」

手を振り払って、顔面めがけてコブシを振るうと、あっさりとよけられた。

「ジョーダン、ジョーダン」

にししと笑いながら両手を軽くあげている。

「っつーかさ、別にいいじゃん、キスぐらい。減るもんじゃないしさ」

「減る!!」

「へぇ~、何が?」

男としてのプライドが!!

などと、いえるわけもなく、

「・・・」

黙りこむしか道はなかった。

「そこの二部の大将二人!!ふざけるのはやめなさい、試合をはじめます!!」

「すみませ~ん」

「・・・すみません」

全面的にこいつが悪いのに・・・。

何で、俺まで怒られるんだよ・・・。

ああ~、くそ。

平穏が欲しい・・・。

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