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ハッピーエンドじゃ終われない  作者: りゅう
1年生
5/44

大会

「起きろっ。起きろってば!!」

「・・・里美・・・?」

「何、いきなり寝惚けてるの? 電車乗った途端寝たかと思えば、いきなり苦しみだすし・・・。」

「大丈夫?」

次々と覗き込む顔は、どれも優しいもので・・・。

「・・・えっと・・・、ありがとう。なんでもないよ。ただ、夢見が悪かっただけだから・・・。」

まだ、心配そうにしているが、それぞれ自分のやっていたことに戻っていった。

「『きりたちのぼる・・・』、はいっ、茜」

「・・・『む』?」

「正解。じゃ、次は・・・」

電車から見える空は何処までも青く、美しく・・・そして、優しい。

そう、あの時の彼女のように。

俺の夢想に過ぎなかったかもしれないけれど、

『我慢しなくて、いいんだよ。』と、言われたような気がしたんだ。

ずっと、欲しかった。

ずっと、求めてはいけなかった。

コトバ・・・。

君にはなんでもなかったことかもしれないけれど、何気ない君の言葉が、あの時、確かに僕を救ってくれたんだ。

「『みをつくしてやこい・・・』、はいっ、里美」

「・・・『わび』?・・・」

「ぶーっ。『なにはえ』でした」

・・・、せめて、しっかり覚えておこようよ、お前ら・・・。

君たち、電車の中であまり騒ぐんじゃないよ。」

・・・先輩、一人遠くに座って、他人のふりしないでください。


◆◆◆


会場に着いたのは、開会式直前だった。

どーして、余裕な時間に駅に着いたのに、こんなギリギリなんだよ、あいぼん!!

先輩も、道知っているなら、誘導してくださいよ!!

「君たち、見てるとおもしろいから」

・・・なんだかなぁ・・・。

「おぅい、対戦が発表されたぞ~」

間の抜けた声が響く。

顧問の宮本だ。

「先生、来るの遅いです」

「やぁ~、ちょっと渋滞してねぇ」

っつーか、先生。

あんた、マイカーじゃなくて、電車で来いや!!

電車にゃ、渋滞なんつーもんないから。

「八木は48、片桐は52、広川は61、塚本は59、浜崎は63だ」

はい?

何ですか、その数字。

呆然としている俺の様子に気づいてか、塚本さんが。

「この数字はね、自分の場の番号だよ。試合の場に、数字の書かれた紙が置いてあるでしょう?」

よく見れば、畳が敷いてある場所に、札と共に紙がある。

「自分の数字の場へ行って、対戦するのよ」

へぇぇ。

って、ちょっと待て。

俺、今日は団体戦って聞いたんですけど・・・。

「対戦は1対1だけど、チームの個人の勝ち数で決勝にでるチームが決まるの」

ふぅん。

じゃ、何回戦えばいいんだ?

「さっき、開会式で言ってただろ!!」

後ろから不意打ちで殴られた。

殴られたかわいそうな俺の頭をなでながら、後ろをみると、里美が

「午前中に2回、午後に2回!!試合の時間によって、昼休みはなし!! 各自勝手に昼飯を食べること」

わかったよ。

むしろ、頭殴んなよな。これ以上莫迦になったら、責任とってくれる?

「ほら、さっさと場に着け!!」

顧問、お前にだけは言われたくない!!


◆◆◆


「札をあけて、準備をしてください」

大会のお偉いさんらしき人が言った。

俺の対戦相手はミニスカの女の子。

どこか、場慣れしているようで、さっさと札が閉じてあったゴムをとって混ぜ始めている。

俺も、そっと札を混ぜるのを手伝って、十分混ざったと思って、手を止めた。

それから、札を25枚数えて取り、相手に合わせて札を置いていく。


ちなみに今出ている大会というのは競技かるたの試合。

100枚中50枚が無作為に選ばれて、それを自分と相手に25枚ずつ持つ。

畳の目に合わせて、既定の広さに三段にわけて並べる。

広さの目安は自分の肘を真ん中に置き、左右に倒した広さである。

並べ方は自由で、自分の好きな配置にできる。

で、読まれた札を取り合い、相手の札をとったら自分の札を一枚渡す。

札が先に無くなった方が勝ちというシンプルな勝負。


なぁ、知ってるか、こういう感じ。

試合とかさぁ、すっごい緊張するんだよ。

初めてだと、余計に!!

「あのぅ、一段ずれてますよ・・・」


◆◆◆


「今から、暗記時間20分とります」

暗記時間?

なんだ、それ?

周りを盗み見してみると、一生懸命札を見てる人とか、席立っている人とか、色々。

とりあえず、札を覚えればいいんだな。

・・・。

10分くらい経ったけど、飽きた。

なんつーか、全部覚えれるわけないじゃん。

50枚全部だぜ。

しかも、場所と名前!!

人間、諦めが肝心だよな、な?

はぁ~、家帰ったら、何しようかなぁ・・・。

「それでは、始めます」

「「「お願いします」」」

いきなり、皆、一同礼!!みたいに、頭下げてる。

慌てて頭を下げたときには、相手は違う相手に頭を下げていた。

後から聞いた話だと、「始めます」って言われたら、対戦相手に頭を下げて、次に読む人に向かって、頭を下げるんだって。

しょーがないよな、知らなかったし・・・。

「なにわずに・・・」

こうして、初の大会が始まった。




◆唐突にキリの百人一首、ワンポイント!!

「村雨むらさめの露もまだひぬまきの葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮れ」

<意味>

ざぁーっと、通り過ぎたにわか雨の露もまだ乾かないうちに、まきの葉のあたりに、早くも霧が立ちのぼっている秋の夕暮れよ。

<キリから一言>

これは、一枚札と呼ばれているものの一つだね。

秋の夕日が赤く染まるころ、にわか雨がやってきて・・・。

まきの葉に霧が立ちのぼるかわからないけど、俺は好きだな。

秋は、感傷的になるけど、その分俺たちはちゃんと生きてきたって感じるんだ。


「難波江なにはえのあしのかりねのひとよゆゑ みをつくしてや恋ひわたるべき」

<意味>

難波の入り江のあしの、刈り取った根のひと節のような、旅の短い一夜、あなたと過ごした、そのたった一夜のために、私はこれから「澪標」という言葉のように、この「身を尽くし」て、恋を続けるのでしょうか。

<キリから一言>

百人一首に一番多いのが、こういう恋をうたった詩だね。

「みおつくし」という一つの言葉に二つの意味

「澪標」と「身を尽くし」をあらわしている掛詞が使われてるね。

一晩という短い時間だったけれど、それでもあなたに恋をしてしまった。

ずっと、私はあなたに恋し続けるのでしょうか?忘れることもできずに・・・。

って言う感じかな?

恋というのは人生に何度でも訪れる奇跡のひとつだと俺は思う。

その数ある奇跡の中で、たったひとつの愛を君に捧げることができればいいなって、思うな。


「なにわずに咲くやこの花冬篭り 今を春べと咲くやこの花」

<意味>

難波津にこの花が咲いたよ。冬の間はこもっていた花が、いよいよ春だと、この花が咲いたよ

<キリから一言>

これは、なぜか、"競技カルタ"をやる時に最初に読まれるうたなんだ。

冬をこえてようやく春だよと、花が教えてくれた。

ようやく競技が始まるんだよって、お知らせしてくれているのかな?

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