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ハッピーエンドじゃ終われない  作者: りゅう
2年生
43/44

カルタ部男子だって、僧正遍照イコールで思いつかねぇよ!

「なぁ、悪。もしかして、具合悪い?」

そんな何気ない俺の優しさに溢れた一言から、受難は始まった。


ある日の部活中でのこと。

悪と対戦をしていたのだが、いつもより札への反応のキレが悪かった。

ちらっと悪の方を見ると、心なしか顔色が悪い気がする。

ちなみに、普段は対戦相手の顔など見ない。なぜならば、顔を見るということは、他にも見えてしまうものがあるわけで。

想像してほしい。

競技カルタの対戦は、正座をして、自分の札、相手の札を取りやすくするために、前かがみに構える。服装はその時によってまちまちなのだが、たいてい部活での練習では、上はセーラー服のままで、下だけハーパンに変えることが多い。衣替えも終わり、半袖のセーラー服。さらに言うと、冬服ではあるはずの襟と襟の間を隠す布(胸当てみたいなの?)がない。

ここまで言えば、健全な男性諸君ならわかってくれるだろう。

そう、谷間が見える。

隠すことなく、惜しげなく、柔らかそうな谷間が。

そうです。対戦相手の顔を見るイコールいろいろと見てしまうとまずくなるものが見えるのです。

だから、普段は相手の顔は見ずに、相手の札と手の動きを見ている。

いや、今は女子だからね。

女子同士で胸の触りあいとかしているクラスメイトとか見るからね。

谷間を見たぐらいなんともないんだけどね。女子だからね。(大事なので、二回言いました)

はっきりいって不可抗力。

しかし、俺も健全な男の子。

あらぬ部分が反応しても困るので、(対戦中は前かがみになってるから問題ないって?いやいや、問題ありまくりだよ!)見ません。

と、話がわき道にそれてしまったが、悪は大丈夫だろうか?

極力、たわわな実を見ないように悪の顔色を窺った際に発せられた言葉。


「うるさいわよ」


冷たいお言葉ありがとうございます。

こちらをにらむ悪であったが、上目遣いになっていて、かわいい。

さすが、魔性の女。眼鏡をはずさなくても十分に魅力的かもしれない。

これ以上、何か言ったら、確実に怒られるのは目に見えている。俺は黙って、札へ視線を戻す。


「悪は今日は蝉丸の日だからしょうがないよー」


里美がなにやらフォローを入れる。

蝉丸の日?なんだそれ。

訳がわからず、里美の方を見る。

里美と塚本さんが一緒に対戦しているので、塚本さんの様子も見えたのだが、塚本さんも納得していた。


「蝉丸の日なら仕方ないですね」


塚本さんにも通用する、蝉丸の日。

どうやら、何かの隠語らしい。

ちなみに、蝉丸というのは、伝説的な盲目の琵琶の名手と言われる人物で、百人一首の


”これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関”


を詠っている人物でもある。

なぜか非常に覚えやすいこの歌は、中学時代の冬休み明け百人一首大会で大人気の歌だった。

と、そんなことはどうでもいいが、その蝉丸と悪の具合の悪さプラスなぜか不機嫌はどんな関係があるのだろうか?気になって、試合に集中できずに終わってしまったのであった。


◆◆◆


部活も終わり、畳の上でくつろぐ部活メイトに気になって仕方のなかった蝉丸について聞いてみる。


「蝉丸の日って、何?」

「何?キリって、蝉丸の日知らないの?」


畳に寝っ転がりながら、里美が驚いたという風に言う。

何、知ってて当たり前という感じをだしているんだ。俺が知らないだけで、カルタやってる奴なら知ってる常識みたいなものなのか?


「乙女の日だよ。悪は重いから、期限悪いの」


里美がさらっと、爆弾を投下した。

乙女の日って、あれだよな。

あの月一でくる、女子特有のあれ。

そりゃ、俺が知らなくてもしょうがない。だって、俺はそれがないから。男の子だもん。(キモイ)

気恥ずかしさに顔が赤くなるのを感じながら、俺は単純に疑問に思ったことを口に出す。


「って、なんでそれで蝉丸なんだ?」


乙女の日イコール蝉丸と結ぶものがわからない。

里美と塚本さんが顔を見合わせて、きょとんとした。ちなみに悪は、不機嫌を隠さずに貧乏ゆすりをしている。そんなに気分がよくないなら、外の空気を吸うとか、帰ればいいのに。


「そういえば、あの日、キリさんいなかったかもしれないですね」

「あー、キリいなかったのか!納得」


二人は納得したらしく、こちらを向く。悪は、プリントを取り出して、なにやら書いている。


「百人一首に、”をとめ”あるじゃん?」

「ああ」


”をとめ”というのは、六歌仙の一人である僧正遍照が読んだ歌で、百人一首にある歌であり、正確には


”天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむ”


である。


「で、乙女の日っていうとすぐわかるから、その隠語として読んだ人の名前にしたわけ」

「へぇ…、ってちょっと待て!蝉丸違うだろ」


危うく流されそうになったが、違う。俺は百人一首の読んだ人全員を覚えているわけではないが、授業で出た分くらいは覚えている。その記憶が、違うと訴えている。


「わかってるよ、それくらい。なんとかって、坊主が詠んでるくらい。でも、蝉丸の方が言いやすいじゃん」


いやいやいや、言いやすいのはわかるけど。確かに、僧正遍照は坊主ではあるけれども、れっきとした別人だからな!


「それだと、キリさんには理解できないと思いますよ…」


すかさず、フォローをいれる塚本さん。それによると。

俺が入部する前のカルタ部で、まずは百人一首に慣れてもらおうと、坊主めくりをしていた時のことだ。


坊主めくりというのは、百人一首の読み札の絵柄を使ったゲームで、札を順番にめくっていき、最終的に撮り札が一番多い人が勝ちというシンプルなゲームだ。しかし、ただめくるだけではつまらない。絵柄で坊主をめくると、自分の札をすべて没収され、姫を引いた人がその没収された札をもらうことができる。例外として、坊主でも蝉丸だけは、なんとすべての札をもらうことができる。没収された札だけではなく、その場にある人の手に渡っている札すべてをもらうことができるのだ。大人数でやると意外と盛り上がる。特に、蝉丸が終盤まで出ていないと燃えるんだよな。


と、そんなことは今はどうでもよくて。

カルタ部三人で坊主めくりをしていた際に、里美が”をとめ”を引き、札を没収された恨みからか、坊主なのに乙女って違くないと言い出したことから、雑談は始まった。乙女といえば、乙女の日は重いから辛いだの、人前で乙女の日っていうのは恥ずかしいだのと。そこで、人前で堂々と話せる隠語をカルタ部っぽく作ればいいんじゃないかという話になり、”をとめ”を読んだ僧正遍照が候補に挙がった。しかし、百人一首を知っている男子からはすぐに”をとめ”イコール乙女の日ってわかってしまい、恥ずかしいとなる。そこで、坊主つながりで、蝉丸の日にすればいいという結論に至ったと。

うん。

僧正遍照の日って言いづらいのはわかる。

乙女の日って人に知られるのは恥ずかしいというのもわかる。

特に男子に知られたくないというのもな。

俺だって、知ってしまったらどうすればいいかわからないしな。

けどな。

けれどもな。

僧正遍照の日イコール乙女の日って、百人一首知ってる男子だからって思いつくわけねぇだろ!連想しねぇよ、そんなこと!


と、騒いでいたからだろうか。悪が不機嫌さを隠さずにこちらを睨みつける。


「さっきからうるさいわよ!明日提出の課題が終わらないじゃない!」


どうやら、悪が取り出したプリントは宿題だったらしい。そんなものは家でやれと言いたいが、そんなこと口が裂けたって言えやしない。なぜかって?

単純に悪が怖いからだよ!

考えてもみな?眼鏡はずしたら、抵抗する意思など関係なく、悪に惹かれる。抗いようのない魅力だ。しかし、その力は男にだけ発揮される。

今、眼鏡をはずされて何か命令されたら、抗える自信がない。

そして、そのことで俺が男なんじゃないかって疑われるのが困るのだ。

だから、怖い。ようやく、俺の居場所を見つけたのに。いつか失うとわかっていても、今、ここで失いたくはないんだ。

不機嫌な悪は、睨みつけているためか、どこかSっぽい魅力を感じる。眼鏡あっても十分かもしれない。


「茜、この問題わかった?」

「えっと…。はい、ここは…」


文系特進クラスの社会の進度は理系より早い。俺は、ちんぷんかんぷんな歴史の問題の答えをBGMに帰り支度を行っていた。


蝉丸の日の女子って、怖い。特に、悪。

お読みいただき、ありがとうございます。

しばらく、忙しい日々が続きますので、不定期更新となります。申し訳ありません。


ちなみに、カルタ部にとって、僧正遍照の日イコール乙女の日って常識なんですかね?

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