女子の話ってきわどい。
二学期が始まって、クラスメイトとの仲も良好になって。いいこと尽くしのようなこの環境で、問題があった。それは、俺が本当は男だということをみんなが知らないことで起こった問題だ。
それは、着替えと恋バナだ。
俺は、女子の着替えを見るのは忍びないので、いつもトイレの個室で着替えている。
学校自体が女子高だから、女子更衣室がないのだ。だから、みんな教室で着替える。二年になってくるとみんな大胆で、男の先生がいる前でも着替えたりする強者がいたりするのだ。それが目のやり場に困るのは当たり前のことだが、それ以上に困るのは。
「片桐さんって、着替えの時いつもいないけど、どうしてるの?」
隣の席の角田さんからそんな質問を受けてしまった。
正直にトイレで着替えていることを話すと、どうしてと聞かれる。
本当は男だからです、なんて言えるわけもなくて。
「…私、胸がなくて恥ずかしいから。ほら、みんなスタイルいいから」
胸があったら、むしろ恥ずかしいが。
それを聞いていた周りの女子がこちらを一斉にみた。
「片桐さん、あなたスタイルいいわよ!」
「胸がない方がTシャツ合うし、肩こりが少なくていいじゃない!」
「だいたい、その細い体でスタイルよくないなんて思ってるなんておかしいわよ!」
次々と出てくるその文句に俺は何も反論できない。
スタイルいい?どこが?
男にしては、貧相な体。筋肉も落ちてきて、やせてしまった脚。胸筋もほぼなくて、平らに近い。いや、ボディビルダーのようになりたいとは思ってないけどさ。ああいう体って見せるためのもので、使えない筋肉だしね。
「私、スタイルよくないよ。筋肉だって全然ないし…」
そういって、足を見ると、みんなの視線が何やら痛い。
「本気で言ってる?」
「だとしたら、怒るよ、わたし」
「あたしも怒る」
そういって、俺の足を見ようとスカートを容赦なくめくられる。
ちょっ、それ痴漢!いや、痴女か?
ハーパンを履いているので問題はないが、この行動には問題があると思う。女の子同士でスカートめくりってなんなんだよ。(いや、実際は俺は女じゃないけど、便宜上は)
スカートをめくるだけでは飽き足らず、足を直接触られて、俺はひっと情けない悲鳴を上げた。
触り方がなんとなくいやらしかったからだ。
「適度に筋肉がついた足」
「細すぎず、太くない足」
「形もいい足」
ぶつぶつと人の足について語り合う様子は、魔女のようで怖い。
唯一俺の足を触っていない角田さんに救いを求めるように視線を向けるが、にっこりと笑われて。
「片桐さんが悪い」
なんて言われてしまった。
「胸が大きい方がいいだろ!」
もはや助けを期待できない俺は、そう叫んで三人の手から逃れるように後ろに下がる。
三人が俺の胸に注目し、そっと息を吐きだした。
「確かに男子は胸が大きいのが好きって言うわよね」
「大きければいいってわけでもないけど」
「でも、さすがに適度な大きさは欲しいわよね」
ポンっと、誰からともなく肩をたたかれ、生暖かい視線を頂いた。
「これからに期待しなさい」
うん。期待も何も、これから先大きくなっても困るからな。
「…って言っても、大きくていいことなんてないわよ~」
角田さんが自分の胸を見ながら言う。
角田さん、自分で言うくらいに胸がでかい。なんだろう、片手で覆うことができないくらいだと思う。触ったらさぞかし柔らかくて…。駄目だ。クラスメイトをそんな目で見るなんて駄目だ。俺は今、女子だ。女子がそんないやらしい目で女子を見たらダメだ。
「あ~、肩こるしね」
「それにTシャツが似合わないし、男子のいやらしい目もあるし」
と、胸が大きいとそれはそれで大変ですという話題になる。あまりに肩がこるから、一人で部屋にいるときは、胸を机の上にのせているだとか、柄Tを着ると、キャラクターが横に伸びてかわいくなくなるとか。あとは、やっぱり一番の悩みは、胸が大きいと太って見えたり、バカに見えたりすることらしい。巨乳イコール頭が空っぽと思われるのはどうも嫌なんだと。まぁ、確かに見た目だけで判断されるのは嫌だよな。
そんな女子話をどうすることもできず、とにかく聞いていると話は怪しい方向へと発展していく。
ずばり、初体験についてだ。
初めてはやっぱり痛いのかとか、どういう流れでそうなったのかとかそんな話。
俺も16歳。気になるお年頃です。でも、これは聞いてはいけない気がする。
だんだん話が生々しくなっていくことに恐れをなした俺は、逃げることを選択した。
「ちょっと、用事あるから」
そういって、慌てて俺は話の輪から抜け出し、教室から出て、トイレに行く。
一番奥の個室を陣取り、ドキドキする胸を抑えつける。
男側でそういった話をしたことがある。興味があって、コンビニでAVコーナーをチラ見したことだってある。けど、あんな生々しい話を聞くのはルール違反な気がして。
俺がもし、本当に女で不安だとかそういったことから聞くならいいと思うけど、実際は女と偽っている男で。女の秘密の園を内緒で覗くのは、極力しないようにしている。友達同士で他愛のない話ならともかく、おしゃれがどうだとか、芸能人の何々君がカッコいいとか、かわいいから真似したいとか。そんな話ならいいと思う。けど、性に関するデリケートな話は、プライバシーの侵害をしているようで。
トイレの蓋に座って、休み時間を過ごすことにした。
とにかく、今日の話題はあかんやつだ。
ボーっとしていると、トイレに集団で女の子たちが入ってきた気配がした。女の子ってなぜか、トイレに用事がないのに、集団でいったりするんだよね。それが仲良しの証みたいに思ってるのかな?
どうも、その感覚がよくわからない。
お化粧直しでトイレに入る、消臭スプレーをかけるためとか目的がある場合もあるが、基本的に、ただ手を洗う場所の前のスペースでおしゃべりに興じるのだ。そんなところで話すよりも、教室で話していたって変わらないと思うのに。クラスが違って教室に入れないなら、廊下で話せばいいし。
わざわざトイレまで移動して、話して何になるのだろうか?
男の場合、用事がなければ一緒にトイレに行こうなんてしない。
まぁ、気になる子と一緒にいたりしたときに、さりげなくお前どっか行ってくれとか話すときは連れしょんするけどさ。基本的に一人トイレだ。
だいたい、女子がトイレの時間が長いのは、用事もないのにみんなで行くから狭くなって、本当に用事がある人も並んだりしてしまうのではないだろうか?
なんて思っていると、少しだけ声が聞こえ始めてきた。最初は普通のトーンで話していたため、一b何奥の個室にいる俺のところまでははっきりとした声は届かなかった。しかし、興奮しているのか、何を言っているのかわかってきてしまった。
そして、それを聞いたことにより、俺は後悔というか、女子への思いが複雑になるのだった。
一言でいうならば、うん。女子って怖いね。




