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ハッピーエンドじゃ終われない  作者: りゅう
1年生
4/44

追憶

ゴールはすぐ目の前だった。

あと、たったの8mだった・・・。


前日からの疲れと、つきまとうプレッシャーで、ありえないことが起きた。

一瞬、自分でさえも理解できなかった。

その時感じたのは、両手足に走った痛みと、前を走るいくつかの大きな背中。

その後のことは、よく覚えていない。

ただ、後で、記録として手元に紙がやってきたから、どうやら、走りきったらしい。


・・・何事もなかったかのように、また、いつもの日々が始まった。

いや、始まるはずだった。

授業を聞いて、放課後に部活。

けれど、全然違ってた。

俺は、普通に過ごしているのに、周りの奴らの目が違う。

この前までは、頼んでもいないのに、期待とかそういう目で見てたのに、今は隠しようも無い、落胆の目。

走るたびに、俺はどうしようもなく苦しくなった。

そして、その日から、部活をサボりだした・・・。


◆◆


「キリ!!お前いい加減部活来いよな!!」

クラスメイトの陸上部員・山本が、ここ一週間ずっと、言ってきている。

「・・・別に、俺がいても、いなくても同じじゃないか」

「そんなこと・・・」

何か言いたそうな山本を振り切って、教室を出て行った。 


◆◆


「キリ、今日調子悪いじゃん」

「どうしちゃったよぉ?」


ゲーム仲間が馴れ馴れしく話しかけてくる。

確かに、何をやっても、失敗ばかりだ。

ゲームは得意ではないが、一度も勝てないのは、初めてだ。

画面に大きく"GAME OVER"と表示される。

「ちっ・・・」

乱暴に立ち上がると、椅子が倒れた。

「何、いらついてんだよ?」

「別に」

原因はわかっている。

山本の、あのもの言いたげな目が、まぶたに焼き付いて、はなれない。

他の陸上部員は、1、2回俺のところへ来て、あきらめた。

しかし、山本だけは諦めずに、一日に何度も言ってきている。

「くそっ・・・」

ほおって置いたカバンを持って、出口に向かった。

「キリ?」

「悪い、帰る」

「おいおい、負け続けてるからって帰るかよ」

「部活、あるから」

「やめるんじゃなかったっけ?」

「や、・・・やっぱり、体なまるしさ」

「ふん、まじめ君め」

「さっさと、行っちまえ!!」


時計は5時を指そうとしていた。

6時までだから、まだ間に合う。

ずっと、サボってたこと謝って、それから。

それから、また、やらせてもらおう。

はやる心を押さえつけて、学校へ走った。


しかし、思いとは裏腹に、校庭には誰もいなかった。

今日は、部活が休みなのか?

・・・いや、違う。

休みならば、山本は誘ったりしないだろう。

ミーティングかな?

とりあえず、運動場の隅にる部室へ行き、ドアに手をかけたとき・・・。

「・・・っにしても、片桐のヤツ、本当つかえねーよなぁ」

「ホントホント。 何が、インターハイ出場確実だよ?予選で負けてんじゃん。」

「や、でも、こける前まではぶっちぎりで一位でしたよ?」

「はぁ?」

「んなの、こけてたら意味ねーっつーの。」

「そーそ。お前でもやらんぜ、あんなの。」

「ひっでー、オレ基準?っつーか、小学生でもないって。」

「ホント。それっくらい、基礎中の基礎っつーことだよ。」

「はぁ・・・」

「一人すまして、オレ達を莫迦にしてっから、こーなんだよ。」

「いー気味。」

「ついでに、辞めて欲しいですよね、部活。オレ、毎日毎日、飽きちゃいますよ。」

「山本。お前、たまにはいーことゆーじゃん」

「さっさと辞めろって、感じだな。」

三人の笑い声だけが、響いていた・・・。


何を言われたのか、理解できなかった。

否、したくなかったんだ・・・。

足がすくんで、動けない。


俺は、すましていたわけじゃない。

ただ・・・。

わからなかった。

みんなの賞賛の受け方、答え方。

笑うのは、不自然な気がして、何もできなかった。


足音が、だんだんこちらに向かってくる。

三人の笑い声と共に。

その、薄いドアが開けられて・・・。


少し驚いた顔の先輩方と、

そして。


「キリ・・・」


動揺、困惑、そして・・・。


「・・・」


何も言うことができず、ただ、その場から走り去った。

同情の言葉も、憐れみも、批判も。

何も聞きたくなかった。

体育館と校舎をつなぐ渡り廊下の段差で足がもつれ、倒れこんだ。


「・・・かっこわりぃ・・・」


心臓がやけに早く脈打っている。

こぶしを握り締め、地面を見つめる。

立ち上がろうと、顔を上げたとき、目の前に手があった。

知らない女が、こちらを心配そうに見ている。

同情なんて、いらない。

心配そうにしているその裏で、嘲笑っているんだろう?

手をシカトして、立ち上がり、その場から、立ち去ろうとした時。

「どうして、そんなに苦しそうに走っているの?」

体が止まって、動くことが出来なかった。

「気のせいだったら、すみません・・・。ただ、・・・すごく・・・・・・寂しそうに見えます。」

俺の中で、何かが切れる音がした。

今まで、ずっと我慢して・・・、出してはいけないものが、頬を伝って、流れ落ちてきた。

「・・・」

何も言わず、一直線に家に走った。

途中、誰かにぶつかった気もするが、止まらなかった。

部屋に飛び込み、布団にもぐりこむと、ひたすらただ、泣いてしまった。

そして・・・・。

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