そんな頃の松下君。
今日は秀と町に遊びに来ていた。と言っても、新しいスパイクが欲しかっただけなのだが。
自分に合ったものが一番いいし、好きなブランドだってある。なんとなく、秀とは好きなスパイクが似通っているし、早い奴のアドバイスなど聞けたらラッキーだからね。
あ、もちろん、店員さんで詳しい人がいれば重宝するよ?だって、プロだからね。
一緒に昼飯を食べた後に、大型店のスポーツショップに行った後、このあとどうするかとプラプラしていた。
お目当てのシューズがあったのだけれども、試着してみるとどうもしっくりこず。一度保留にした秀。あ、おれは買ったよ?だって、すごく走りやすそうだったからね。
高校生の足なんてたかがしれてる。一番行きやすいスポーツショップに行ってしまったおれたちは、手持ち無沙汰になってしまった。このまま解散してもいいのだけれども、せっかくだからとウインドウショッピングなどをしてみる。
本当は女の子としたいけどね。でも、めんどくさいんだよね。女の子って無駄に長いし、悩むし。で、どっちがいい?なんて聞くくせに、本当はもうどっちがいいなんて自分の中で決まってて。おれがせっかく悩んでこっちがいいなんて言っても、違う方を買ったりするんだから、正直めんどくさい。だったら聞かずにさっさと買えよって思う。あ、そんなこと言わないけどね。心の中で思うなら自由だろ?
文句なしのイケメンの秀と、そこそこイケてるおれと二人だと、女の子の視線が集まってくるのが肌で感じられる。これは、時と場合によっては快感だったりする。遊び相手を探したいときとか都合がいい。
まぁ、秀はそんなことしないから、一方的に女の子に連絡先を聞かれたり、渡されたりするだけだけど。それを見るのも一興だし、連絡先聞いた子で面白そうな子は、後日おれだけで遊べばいいし。
そんなこんなであの服よくねとか話していると、秀がトイレへと旅立った。
この表現はおかしくない。だって、この後秀は40分近く帰ってこなかったから。
女子トイレと違って男子トイレは普通、そんなに込まない。こんでもせいぜい10分もすれば用は済んでしまう。大の方じゃなければだけどな(笑)
あまりに遅い秀の帰りに焦れたおれは、トイレの近くに行ってみる。
すると、そこには面白い光景が広がっていた。
なぜか秀と片桐さんが二人で仲良さげに話しているのだ。もっか片思い中の相手を見つけて、おれのことを忘れてしまったのか。この間のことがあるから一人にしておけないとか秀が一緒にいるのだろう。おれへの連絡を忘れて。
一言、メールでおれに連絡をくれれば、すぐに様子を見に行ったのに。こんな面白そうなことを知らずに過ごした10分間がえらく損した気分になった。
乱入するのも面白そうだけど、うちのエース様の恋模様を観察しているのも楽しい。というか、あの秀がどんな風に女の子にアプローチするのかぶっちゃけ興味がある。
しばらく、観察していると、秀並みにかっこいい奴が現れた。どうやら、片桐さんの連れのようで、片桐さんに何やら話しかけると、その間に秀が割り込んだ。
周りの雑音と単純に距離があって、内容が聞こえなかったが、秀が呆れたような、それでいて憤慨しているようなそんな表情を見せている。めったに怒ることのない秀が起こっていること自体レアなのだが。そのあとの行動の方がおれには意外だった。
怒っていたとは思えないほど、片桐さんににこやかな笑顔を向けて、去っていったのだ。
おいおいおい!何をそんなに怒っていたのか知らないけどな。それを発散しないで帰るってストレスになるぞ。そこでかっこつけなくていいだろ?
こちらに向かってくる秀に片手を振って、おれの存在をアピールした。
「…悪い。待たせてしまったな」
おれが見ていたのに気づいていただろうに、それを責めることなく、声をかける秀。表情はないのに、かえって怒りの強さを感じるようで。
「で、何がそんなに気に食わないんだ?お兄さんが聞いてやろう」
なんておどけてみせた。そうすると、秀は呆れたようにおれを見て、ため息をついた。
「…どうせ見てたから知ってるんだろう?」
「見てたのは途中からだし、話は聞こえてねぇよ。どうせ、噂の彼氏と対面して、なんか思うことがあったんだろ?」
おれはなんでもお見通しだぜという風に切り返す。伊達に女の子との経験は豊富じゃない。女の子と遊んできたおれのアドバイス欲しいだろ?
「あのときのことなんだ。場所を変えよう」
やっぱり、例の事件のことで何かあったのだろう。大方、あんなことがあったばかりなのに、片桐さんを一人待たせた彼氏に何か言ってやったが、納得のいかない答えが返ってきたのだろう。
こんなケースは初めてだが、なんとかおれが秀の気持ちを静めてやろう。一応、親友だしな。
秀の家にお邪魔して、事の次第を聞く。
ナンパ男を撃退して、一緒に楽しくお話して。で、彼氏が着たら、あの事件のことを知らなかったと。
ふむ。で、そのことについて片桐さんは話して欲しくなさそうな感じだったから、それ以上何も言えずに帰ることしかできなかったという話だ。
「…確かにデリケートな話だし、人には話せないよな。そんなことを聞くなんて、デリカシーなさすぎだよな」
なんて、落ち込んでいる。あれは彼氏に怒っていたのではなくて、自身に怒っていたらしい。
「あのさー、ぶっちゃけお前が悩む必要ないからな。そりゃ、二人の問題だし、お前が入り込めないかもしれないけどさ。おれからしたら、片桐さん、彼氏のこと信用できてないんじゃない?」
だってそうだろ?町に出てこれるくらい回復してるなら、心の整理はついてるはず。それなのに彼氏に話してないって、おかしくね?きっと、不安なんだろうな。嫌われたりしないかって。
なんだろうな。ドラマとかでストーカー被害にあった女性は、汚れたと思って、うまくその後の自分と付き合っていくことができなくなったりするってあるしな。現実としては、片桐さんは未遂だったわけで決して汚れてなんかいない。でも、それは現場を見ていない彼氏に言ったところで、どこまで信じてもらえるかはわかならいし。言いたくないことの一つかもしれない。できれば知られずに、そのままでいたいとか、いつかは言いたかったとかいろいろあるかもしれない。でも、おれって意地悪だからさ。
どんな馬の骨か知らない彼氏の味方などしてやらない。
おれは、おれなりに秀のことが気に入っているし、できれば片桐さんとくっついて欲しいとも思う。
片桐さんのことを話している時のこいつの顔は、恐ろしく幸せそうで。堅物のこいつにこんな顔させるなんてますます面白い。付き合ったらどうなるか、想像できないから、ぜひそうなってほしい。
まぁ、部活に身が入らないようになるなら、別れさせるけどな。
だから、あえて、おれは信用できないから言えなかったんだって方向にもってく。
「だって、そうだろ?一番信頼して、心の傷をいやして欲しい存在って彼氏だろ?支えてもらえるって思えないから、言えないんじゃないか?」
「…そうだろうか…。仮にそうだとしても、それは二人の問題だから、俺が入っていいわけじゃない」
「それは正論だけど、いつもそれが通用するとは限らないぜ?」
「そうだけどな。でも、俺が悪かったのは間違いない」
頭の固いこいつは、かたくなに自分のせいにする。ま、たしかにそうだけど。そういう問題じゃない。
「あのな、秀。彼氏にも言えないことを偶然だけど、お前は知ってる。だからさ、支えてやれるのってお前しかいないんじゃないか?」
その言葉に秀の目がにわかに輝く。
「…そうだろうか?」
期待の入った言葉におれは強く肯定した。
「そうだよ」
納得したかのような秀は、片桐さんを支えることを決意したようだ。
これで面白くなりそうだな。
おれは、そんな風に思った。




