俺に彼氏ができたらしい。
ほんのりBLある、かもです。
夏といえば、陸上だろう。
暖かい気候は、身体を温めて、心を燃やす。なんとなく、走りやすい季節だし、なんといっても大会がある。全国大会に、全国選抜と大行事が続く。俺自身が大会に出なくても、見てるだけで十分楽しい。
いや、本音をいえば走りたいのだが、勝負はしたくない。そんな複雑なお年頃なのだ。
というわけで、俺は麻衣として秀に誘われて全国大会の見学に来ていた。本当は大と一緒にと言われたのだが、麻衣(俺)と大(俺)が同じ場所にいるなど不可能だから、丁重にお断りした。
いや、女装したくて麻衣として来たわけじゃないよ?一応、俺は中学の時に全国大会に出場しているので、知り合いが多いのだ。その中で大として見に来たら、いろいろと聞かれそうでめんどくさいからだ。今、どこの高校にいるなんて聞かれたって答えられない。俺だって、考えてるのだ。
え?だったら、テレビで見ればいいって?
いやいやいや。今年の大会は隣の県という近い立地なのに、行かないわけにはいかないじゃないか。生の熱気を感じてこその陸上だろう。
ニマニマしながらコースを眺めていると、
「楽しそうだね」
と、隣から声がかけられる。
横にいたS高陸上部員の松下君だ。S女は全国まで駒を進めることができなかったため、俺はS高の応援席に一緒にいさせてもらっているのだ。本当は制服でくるべきなのだが、母親プロデュースの女装でいる。
「はい。楽しみですから」
笑顔で俺は答える。実際、楽しみすぎて仕方ないのだ。ちなみに、麻衣=大という構図を抱かせないために、秀やS高生の前では敬語キャラでいくことに決めている。
「彼氏の活躍を楽しみにしてるの?」
どこかからかうような声音で松下君が話しかける。
「彼氏?」
「あれ?秀の彼女じゃないの?」
なにやら勘違いをされていた。秀はイケメンだからもてるのだが、彼女がいるからと女子の誘いを悉く断っているという話を聞いた。S女に彼女がいることが有名で、秀から今日紹介をされたときに、S女という話を聞いたのでてっきりそうだと思ったとのこと。
S女の彼女って、もしかして悪のことか…?
俺が聞いていないだけで他に彼女がいるのかもしれないが、知らないものは知らないのだ。
「いえ…」
そう言うと、松下君がなぁんだと言うふうにため息を吐いた。
「ちぇ、あの秀の彼女をようやく見れたと思ったのに…」
そのふて腐れた態度はいっそ清々しい。
「あの…?」
「うん、あの!モテモテのくせにそれを鼻にかけない秀のこと」
「あぁ…」
顔も整っていて、そこそこ偏差値の高いS高でも成績上位で、陸上のエースの、ね。嫉妬のターゲットが歩いてるようなヤツだな、改めて考えると。確かに、そんなヤツの彼女は一目見てみたい。
納得して、思わず声が漏れる。
「あれれ?女子なのに珍しい反応!」
「え?」
「普通女の子なら、秀様になんてこと言うの!…くらい言うよ?」
そういうものなのか?
松下君は、手を前に祈るような形で組んで、立ち上がり、甲高い声をあげた。
どうでもいいが、女子のマネうまいな。
「片桐さんって、面白いね」
そう言って、座る松下君。
「松下君ほどじゃないですよ」
思わず苦笑する俺。女子として接されるのはちょっとむず痒いが、話しやすい。
「あっ、ズレちゃった」
そう言って、左足の制服のズボンをたくし上げ、靴下を脱ぎ始める。そこには、ガチガチにテーピングで固めた足首があった。それが、微妙に緩んでいる。
巻直そうとしているが、これは足に負担のかかる巻き方だ。これは一から巻き直した方がいい。
「テーピングの替えありますか?」
「え?あるけど」
「貸してください」
カバンから出したテーピングの替えを引ったくり、彼の足元に膝をついてテーピングを丁寧に外す。
あーあ、キツく巻きすぎて跡ついてるし、血が止まってたっぽいぞ?
「え?何するの?」
何やら呟いているが、無視。こーゆーのはちゃんとしないとクセになるからな。
足首をしっかりと固定し、キツくなく、緩くない適度な力加減で巻いていく。テーピングはあくまで補助で、痛みを忘れるための役割を持ってるワケじゃない。
「これでよし」
十分に余裕を持って巻き直し、ハサミで余分なテープを切る。
確認するように松下君が立ち上がり、軽く地面を蹴る。
「すごいよ、片桐さん!全然痛くない」
うん、自分でもうまいと思うよ。伊達に怪我をしてきたワケじゃない。
というのも、俺はてっぺんを目指すために練習のし過ぎで、足を壊す寸前まで酷使した経験がある。その時、適当なテーピングは毒でしかないと学び、最適なテーピングを練習した。
「テーピングはちゃんとしないとクセになりますよ」
満足した俺は、椅子に座り直した。
「もしかしてさ、運動部のマネージャーだったりする?」
「えっと、あの、…似たようなもの、ですかね?」
「そこで疑問形なの?」
笑われたのだが、仕方ない。俺はマネージャー経験ないし、麻衣(本物)がどうかも知らないし。
しばらく笑った後、松下君があーと、何か納得したように声をあげた。
「…もしかして、秀のため?」
「へ?」
どういう結論で秀が出てきたのかわからず、変な声が出た。
「納得。あーあ、せっかくいい子だと思ったのに、秀のファンかぁ」
勝手に納得されて、困惑する。
「あの…?」
「隠さなくていーよー。秀と仲良くて、秀の手に落ちてなくて、テーピングもうまい。陸上見る上でのマナーもできてる優良物件がうまく落ちてるワケないよね」
うん。仮にも選手だったのだから、マナーは知ってるつもりだ。だが、俺は秀(男)に気はない!
「別に秀のこと、好きってワケじゃ…」
「女の子で秀のこと嫌いとかレアすぎでしょ?」
「人間的に嫌いというワケじゃ…」
「え?男として論外?カッコよくない?」
「カッコいいとは、思いますが…(男として悔しいくらいに)」
「何?…あ!そーゆーことかぁ」
突然、なにやら納得した松下君。俺としては今の流れが意味不明だ。
「彼氏がもういるのかぁ。そりゃ、秀に傾かないワケだよ」
「へ?…いや、ちが…」
「いーよいーよ、隠さなくて。恥ずかしいんだね、青春だぁ」
もう、こちらの言うことを聞かないコイツを放置することに決めた。
これが、のちに後悔の元となることを俺は知らない。
「そろそろおしゃべり止めろよ」
いつから居たのか、後ろから秀が松下君の頭をこづく。
「秀、お疲れ様」
うるさい松下君を黙らせてくれたお礼も兼ねて、声をかける。
午前中に決勝へと駒を進めた秀は、クールダウンを終えたらしい。首に掛けたタオルで汗を拭う姿が様になっていて、ちょっと悔しい。
「秀ー、おめ!」
松下君が笑いながら勝利を祝うと、次々と声をかけられていく秀。
その姿はひどく懐かしく、俺の胸がどこか傷んだ気がした。
「どこ行くの?」
「ちょっと、お手洗いに行ってきます」
「今、昼休憩で混んでると思うから、外の行った方がいいよ?」
「…ありがとう」
そっと席を離れる俺に気づいた松下君が声をかけてくれた。
因みに、トイレ、便所なる単語は女子が使ってはならないらしい。(鈴木さん談)
外の空気を吸いに、俺は会場の外にあるトイレへと歩き出した。
お読みいただき、ありがとうございます。
今後、水曜、土曜更新したいと思ってます。
もし、よろしければ、お付き合いください。




