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ハッピーエンドじゃ終われない  作者: りゅう
2年生
28/44

俺に彼氏ができたらしい。

ほんのりBLある、かもです。

夏といえば、陸上だろう。

暖かい気候は、身体を温めて、心を燃やす。なんとなく、走りやすい季節だし、なんといっても大会がある。全国大会に、全国選抜と大行事が続く。俺自身が大会に出なくても、見てるだけで十分楽しい。

いや、本音をいえば走りたいのだが、勝負はしたくない。そんな複雑なお年頃なのだ。


というわけで、俺は麻衣として秀に誘われて全国大会の見学に来ていた。本当は大と一緒にと言われたのだが、麻衣(俺)と大(俺)が同じ場所にいるなど不可能だから、丁重にお断りした。

いや、女装したくて麻衣として来たわけじゃないよ?一応、俺は中学の時に全国大会に出場しているので、知り合いが多いのだ。その中で大として見に来たら、いろいろと聞かれそうでめんどくさいからだ。今、どこの高校にいるなんて聞かれたって答えられない。俺だって、考えてるのだ。

え?だったら、テレビで見ればいいって?

いやいやいや。今年の大会は隣の県という近い立地なのに、行かないわけにはいかないじゃないか。生の熱気を感じてこその陸上だろう。

ニマニマしながらコースを眺めていると、

「楽しそうだね」

と、隣から声がかけられる。

横にいたS高陸上部員の松下君だ。S女は全国まで駒を進めることができなかったため、俺はS高の応援席に一緒にいさせてもらっているのだ。本当は制服でくるべきなのだが、母親プロデュースの女装でいる。

「はい。楽しみですから」

笑顔で俺は答える。実際、楽しみすぎて仕方ないのだ。ちなみに、麻衣=大という構図を抱かせないために、秀やS高生の前では敬語キャラでいくことに決めている。

「彼氏の活躍を楽しみにしてるの?」

どこかからかうような声音で松下君が話しかける。

「彼氏?」

「あれ?秀の彼女じゃないの?」

なにやら勘違いをされていた。秀はイケメンだからもてるのだが、彼女がいるからと女子の誘いを悉く断っているという話を聞いた。S女に彼女がいることが有名で、秀から今日紹介をされたときに、S女という話を聞いたのでてっきりそうだと思ったとのこと。

S女の彼女って、もしかして悪のことか…?

俺が聞いていないだけで他に彼女がいるのかもしれないが、知らないものは知らないのだ。

「いえ…」

そう言うと、松下君がなぁんだと言うふうにため息を吐いた。

「ちぇ、あの秀の彼女をようやく見れたと思ったのに…」

そのふて腐れた態度はいっそ清々しい。

「あの…?」

「うん、あの!モテモテのくせにそれを鼻にかけない秀のこと」

「あぁ…」

顔も整っていて、そこそこ偏差値の高いS高でも成績上位で、陸上のエースの、ね。嫉妬のターゲットが歩いてるようなヤツだな、改めて考えると。確かに、そんなヤツの彼女は一目見てみたい。

納得して、思わず声が漏れる。

「あれれ?女子なのに珍しい反応!」

「え?」

「普通女の子なら、秀様になんてこと言うの!…くらい言うよ?」

そういうものなのか?

松下君は、手を前に祈るような形で組んで、立ち上がり、甲高い声をあげた。

どうでもいいが、女子のマネうまいな。

「片桐さんって、面白いね」

そう言って、座る松下君。

「松下君ほどじゃないですよ」

思わず苦笑する俺。女子として接されるのはちょっとむず痒いが、話しやすい。

「あっ、ズレちゃった」

そう言って、左足の制服のズボンをたくし上げ、靴下を脱ぎ始める。そこには、ガチガチにテーピングで固めた足首があった。それが、微妙に緩んでいる。

巻直そうとしているが、これは足に負担のかかる巻き方だ。これは一から巻き直した方がいい。

「テーピングの替えありますか?」

「え?あるけど」

「貸してください」

カバンから出したテーピングの替えを引ったくり、彼の足元に膝をついてテーピングを丁寧に外す。

あーあ、キツく巻きすぎて跡ついてるし、血が止まってたっぽいぞ?

「え?何するの?」

何やら呟いているが、無視。こーゆーのはちゃんとしないとクセになるからな。

足首をしっかりと固定し、キツくなく、緩くない適度な力加減で巻いていく。テーピングはあくまで補助で、痛みを忘れるための役割を持ってるワケじゃない。

「これでよし」

十分に余裕を持って巻き直し、ハサミで余分なテープを切る。

確認するように松下君が立ち上がり、軽く地面を蹴る。

「すごいよ、片桐さん!全然痛くない」

うん、自分でもうまいと思うよ。伊達に怪我をしてきたワケじゃない。

というのも、俺はてっぺんを目指すために練習のし過ぎで、足を壊す寸前まで酷使した経験がある。その時、適当なテーピングは毒でしかないと学び、最適なテーピングを練習した。

「テーピングはちゃんとしないとクセになりますよ」

満足した俺は、椅子に座り直した。

「もしかしてさ、運動部のマネージャーだったりする?」

「えっと、あの、…似たようなもの、ですかね?」

「そこで疑問形なの?」

笑われたのだが、仕方ない。俺はマネージャー経験ないし、麻衣(本物)がどうかも知らないし。

しばらく笑った後、松下君があーと、何か納得したように声をあげた。

「…もしかして、秀のため?」

「へ?」

どういう結論で秀が出てきたのかわからず、変な声が出た。

「納得。あーあ、せっかくいい子だと思ったのに、秀のファンかぁ」

勝手に納得されて、困惑する。

「あの…?」

「隠さなくていーよー。秀と仲良くて、秀の手に落ちてなくて、テーピングもうまい。陸上見る上でのマナーもできてる優良物件がうまく落ちてるワケないよね」

うん。仮にも選手だったのだから、マナーは知ってるつもりだ。だが、俺は秀(男)に気はない!

「別に秀のこと、好きってワケじゃ…」

「女の子で秀のこと嫌いとかレアすぎでしょ?」

「人間的に嫌いというワケじゃ…」

「え?男として論外?カッコよくない?」

「カッコいいとは、思いますが…(男として悔しいくらいに)」

「何?…あ!そーゆーことかぁ」

突然、なにやら納得した松下君。俺としては今の流れが意味不明だ。

「彼氏がもういるのかぁ。そりゃ、秀に傾かないワケだよ」

「へ?…いや、ちが…」

「いーよいーよ、隠さなくて。恥ずかしいんだね、青春だぁ」

もう、こちらの言うことを聞かないコイツを放置することに決めた。


これが、のちに後悔の元となることを俺は知らない。


「そろそろおしゃべり止めろよ」

いつから居たのか、後ろから秀が松下君の頭をこづく。

「秀、お疲れ様」

うるさい松下君を黙らせてくれたお礼も兼ねて、声をかける。

午前中に決勝へと駒を進めた秀は、クールダウンを終えたらしい。首に掛けたタオルで汗を拭う姿が様になっていて、ちょっと悔しい。

「秀ー、おめ!」

松下君が笑いながら勝利を祝うと、次々と声をかけられていく秀。

その姿はひどく懐かしく、俺の胸がどこか傷んだ気がした。

「どこ行くの?」

「ちょっと、お手洗いに行ってきます」

「今、昼休憩で混んでると思うから、外の行った方がいいよ?」

「…ありがとう」

そっと席を離れる俺に気づいた松下君が声をかけてくれた。

因みに、トイレ、便所なる単語は女子が使ってはならないらしい。(鈴木さん談)

外の空気を吸いに、俺は会場の外にあるトイレへと歩き出した。

お読みいただき、ありがとうございます。

今後、水曜、土曜更新したいと思ってます。

もし、よろしければ、お付き合いください。

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