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ハッピーエンドじゃ終われない  作者: りゅう
2年生
22/44

眠気に勝てなかっただけなんだ。

なんだかんだと時間は過ぎて、文化祭前日となっていた。

あの後、実行委員会でも先輩や里美、悪、塚本さんとも特に何も言われず、慌ただしい時間だけが過ぎていった。本当に誰にも言っていないみたいで、安心した。


「みんな、今までありがとう。明日は当日だから、最後の頑張り、頑張ろうぜ!」

王子のありがたいお言葉に、クラスメイトの顔は大半がハートになっている。うん。相変わらず王子はすごいね。俺じゃ、こうはならないや。

今日は午後からずっと文化祭の準備に追われ、なんとか放課後までに準備が終わった。店番のシフトも組んであるし、当日は結構暇かもしれない。

文化祭一週間前から、王子の部活も準備優先となり、とにかく仕事がはかどった。そして、女子はか弱いという俺の認識は覆ることになった。去年は1年生は展示のみとなっていたので、そんなでもなかったが、今回は教室を大きく区切ったり、机を重ねたりなど重労働があった。この重労働、一応男でもある俺がやることになると思ったのだが、王子のみんなが一生懸命準備してくれるとうれしいな、の一言で仕事を奪い合うように女子が頑張った。あまりの鬼気迫った感じは、若干引いてしまったのは内緒だ。好きな人の一言で人は変わるってホントだよな…。

いや、一生懸命頑張る姿はかわいいけどさ、今までサボってたり、やる気がない姿を見た後だと、なんとも言えないなって思う。最初から最後まで頑張ってくれた一部女子は、文句なしにかわいいんだけどね。さすが世間じゃお嬢様学校と言われてるS女は実は顔面偏差値が高い。俺は素朴な感じのかわいい子が好みだ。なぜか大半が化粧してるけど、すっぴんのがいいと思う。まだ俺たち高校生なんだしさ?


クラスが解散しても、俺はまだ忙しい。文化祭実行委員の仕事が残っているからだ。

チマチマつくった飾りを中央階段に飾り付け、宝塚階段の装飾もする。と言っても、宝塚階段については、何度も貼って位置を確認しているから問題はない。いや、問題があるとするならば、ダブル眼鏡だろうか…。視力が低い生徒が集まってしまったらしく、宝塚階段の装飾を見るためのベストポジションから一番きれいに見えるかの確認で、視力が足りない!とか誰かが言い出して、眼鏡を二つつけて見ているという問題行動。うん。視力を補うためとはいえ、傍目から見れば完全におかしい人だ。

そんなこんなでようやく全部の準備が終わったのは、夜9時を回ってからだった。普段は7時完全下校なのだが、特別に遅くまで残っていいことになっている。えっ?完全下校時間が早いって?ここが、伝統ある女子高なのだろう。なんと校則で、特別な事由のない限り、夜8時以降の外出を禁じていたりするのだ。守っている奴の方が少ないと思うのだが、そういった理由で完全下校が早い時間なのだ。


家に帰ると、拓也からの毎日メールが入っていた。ホント、マメだよな。俺も彼女とかできたら真似しようかな。

どうやら、明後日の一般公開に彼女の恵ちゃんと一緒に文化祭に来てくれるらしい。うん。ものすごくどうでもいい。何?自慢?

適当に返して、センターに問い合わせをすると、王子からもメールが入っていた。

ふむふむ。幼馴染として、一緒に文化祭を回ろうと。俺に弾除けになってほしいということだろう。いや、俺適当にサボる予定だったんだけどな…。

断ろうと思ったのだが、クラスの女子の反応を考えると同情してしまう。あんな集団に追いかけられるのは気の毒だ。どうしようか…。

そんなことを考えて返信を迷っていたら、いつの間にか寝てしまっていた。うん。別にわざとじゃないよ?王子があきらめてほかの人と回るのを期待したとかじゃ決してないからな。眠気に勝てなかっただけだ。


文化祭。校内発表を迎えた。アクシデントといえば、王子が俺と一緒に本気で周りたがっていたらしく、断ることもできないまま校内を歩き回った結果。2年はもちろん、1年のかわいい子たちにも嫉妬の目線にさらされ続けたことだろうか?器用に王子に羨望の視線、俺に突き刺す視線を使いこなす女子たちには戦慄した。女の知りたくなかった一面を知った瞬間でもあった。

こう、女の子ってもっとふわふわしてて、守ってあげたくなるような感じじゃなかったっけ?顔がかわいい子が睨むと、その分ギャップで怖い。というか、王子は一応女だろ?なんで女が女に懸想してるような感じになってるの?

待ち遠しかったクラスの当番の時間になって、王子と別れて持ち場に行った。俺は、走り幅跳びのコーナーが任されていた。ここは、来場者に立ち幅跳びをしてもらって、その記録をはかる体験付きで、進行とメジャーの係で2人組で行う。ちなみに、走り幅跳びの記録は男子8.9m、女子7.4mで、立ち幅跳びの世界記録は3.47mである。

進行役の鈴木さんとは、練習などで話しているため、それなりに話せる女子である。王子がいなくても準備をサボらずに頑張ってくれた数少ないクラスメイトの一人だからかもしれないが。

「片桐さん、王子と周ってた聞いたけど、本当?」

「え?うん。そうだけど…」

「…片桐さんって強いよね。王子と実行委員やったり、一緒に周ったり…。怖くないの?」

「?確かに女子の視線は痛いけど、それだけだし…。どうして?」

人がちょうど途切れたところで、鈴木さんと雑談に入ったのだが。彼女の顔がなにやら影を負っているような気がする。

「視線もそうだけど…。噂が怖くない?」

「噂?」

「片桐さんは王子に色目を使ってる、顔はかわいいけどそれだけ、性格悪い…とか言われてるのよ」

着かず離れずの状態を保ってきた俺は、噂など知るはずもなく、突然のカミングアウトに軽くめまいを覚える。色目って…。女子に使ってどうすんだ?いや、俺は女子に使うべきなのか…。というか、だからクラスで準備を手伝ってくれない人が多かったのか。性格悪いは否定しないが、顔がかわいいはうれしくない!

「もちろん、私は思ってないよ?ちゃんと話せば普通だし」

フォローありがとう。なんか、目に熱い汁が…。

「…もともと浮いてたけど、んな噂が…。女子怖いな」

「…それだけ?」

「へ?」

「根も葉もない噂を流されて…。これじゃ、いじめと一緒じゃない」

そういって、彼女は目を伏せた。俺を心配してくれている…?

「なんていうかさ、ありがとう。私のこと、ちゃんとわかってくれてる人がいるからさ、…その大丈夫だよ?」

実際にはそんな噂に気が付いてないし。中学の頃のように、仲良かった奴からの手のひらを返したような悪意や、憐れみなんかと比べたら、ろくに知りもしない有象無償の悪意などどうでもいいものだ。

鈴木さんの手が震えているのが見えた。

「…片桐さんだから、王子の側にいられる資格があるんだね」

そう言った鈴木さんは、目に今にも零れ落ちそうな涙が浮かんでいた。

えっ、どういうこと?俺、何かしたか!

まるで、王子が好きで、でも側にいられない自分が嫌だというように鈴木さんが言っているように聞こえた。あの王子大好きな怖い集団の一部に鈴木さんがなってしまうことが嫌だと思いつつ、でも、悲しんでいる彼女を放っておくことができなかった。

「あのさ!…その、うまく言えないけどさ。誰が誰の側にいるのに、資格って必要?少なくとも王子はさ、そんなこと考えるような奴じゃないと思うよ」

「強い片桐さんに、私の気持ちなんかわからないよ!」

鈴木さんは我慢できないという風に、叫んで走り出してしまった。

叫び声につられたのか、クラスメイトが何人か顔を出した中に、王子がいたので、

「王子、ここは任せた!」

と、強引に王子にこの場を任せて、俺は追いかけたのだ。

後で、王子のファンクラブがうるさそうと思ったのは、冷静になった後だった。


人ごみの中スピードをうまく出すことができず、どうにか追いついたのは、人がまばらになった中庭であった。鈴木さんは、涙があふれていて、とにかく落ち着かせるために、人のいない方向へと一緒に歩いた。

文化祭中に立ち入り禁止になっている校舎裏に行き、ベンチに鈴木さんを座らせた。落ち着いてきたのか、鈴木さんはハンカチで涙をぬぐって、赤い目でこっちを見ていた。

「…急にごめんなさい。片桐さんは、悪くないのに、うらやましくて…」

鈴木さんは、少しずつ話してくれた内容はこんなものだった。

王子と鈴木さんは、幼馴染という関係で、家の立地上、中学校は違う学校になった。小学校の時は王子は普通に女の子をしていたらしい。ただ、そのころから背が高くて、男の子と間違われていたようだが。学校が分かれた後も、たびたび二人で会って遊んでいたが、ある時、王子の中学の同級生にそれを見られて、王子に近づくなと言われた。しかし、仲良しの友達と遊べなくなるのはおかしいと無視していたら、噂が流された。それが、鈴木さんの学校にも届き、いじめに発展したという。そこから、怖くなって王子と会うことがなくなり、いじめも徐々になくなっていった。高校で王子と再会しても、いじめが怖くて近寄れず、また、何も言わずに離れてしまった自分に王子と話す資格がないと思ったと。そして、王子の幼馴染として噂にもめげずに仲良くしている俺がうらやましかったと。だから、俺に近づいて、王子の情報を得ようとしていたと。

「ごめんなさい」

そういって、また、涙を流す鈴木さんは、なんというか、潔く思えた。

学校中が敵になるという感覚は俺にもわかるし、怖くなるのもわかる。学校の宣伝で使われるような功績を残した部活で失敗して、失望された視線に耐えられなかった。今なら、俺が調子に乗っていたから、ちゃんと部活メイトと信頼関係を作れなかったから、居場所をなくしたとわかる。学校中から敵視されているように思えて、怖かった。それでも、俺は新しい部活で仲間を作ることができた。まぁ、俺の勘違いで最後は…。あっ、なんか涙がでそう。

と、そんなことはどうでもいい。とにかく、今は王子と鈴木さんの関係だ。

「なぁ、王子と仲良くして、噂を流されるのが怖いのはわかる。でもさ、突然いなくなったときの王子の気持ちもわかる?」

一条さんは、突然いなくなった俺を心配してくれていた。怒ることなく、ただ、片桐麻衣に伝言を残した。それは、とてもさみしいことだと思う。今度会ったときは、俺として会いたいと思う。俺が原因ですれ違ってしまったのだから、謝りたい。そして、ちゃんとあの時の続きをしたいんだ。

「王子にどう思われてるかわからなくて、怖いと思うけどさ。鈴木さんは王子が好きなんだろ?だから、気にしてさ。どうなるかわからないけど、王子だって鈴木さんのこと気にしてたよ。さっきだって、心配そうに鈴木さんが走ってく姿を見てたよ。…だからさ、ちゃんと話し合おうよ?」

鈴木さんは、黙って俺の言うことを聞き、静かに泣きながら、つぶやいた。

「…王子に会わせる顔なんか、もうないよ」

「それを…」

「そんなことない!」

俺が言葉を紡ごうとしたら、後ろから叫び声が響いた。振り返ると王子がいて。

「…噂のこと、知ってたよ。だから、俺のこと避けるのもしょうがないと思った。…高校でまたあって、話したいと思った。だけど、また、噂で引き裂かれるのは嫌でそれで…。ごめん。俺が勇気がなかっただけなんだ」

鈴木さんが泣いている間に、王子に連絡をしておいて、正解だったみたいだ。王子からも、鈴木さんからもお互いを思ってるって、そう感じたから。

「王子…。私こそ、ごめんなさい…。王子とずっと話したかった!」

二人は近づきあっていく。

…俺がここにいたら、駄目だよな?

ぽつぽつと二人で話し合う姿にもう、大丈夫だと思って、ほかに誰か来ないように、校舎裏の入り口に俺は座り込んだ。そうして、二人を待っているうちに、眠ってしまったようで。

「…キリ、起きろよ」

そういって、王子に起こされた。傍らには鈴木さんがいて、二人が仲直りしたことがわかった。それはよかったと思うのだが。

「こんなところで眠れるって、すごいな」

「風邪ひきますよ?」

呆れながら笑う二人に、まぁ、いいかと思いながらも、ちょっとムッとする。

しょうがないだろ、眠気に勝てなかっただけなんだから。

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