入部
6月になった。
俺は、今でも尚、この女子高に通い続けている・・・。
一応、言っておくけどなぁ、好きで女子高行ってるわけじゃないぞ、断じて!!
そりゃ、周りが女子ばっかで、ハーレム状態だけどさぁ・・・。
こんだけ女子が居ると、逆に怖いんだよ!!!!
いつ男だってばれるかわからねーし・・・。
って、今はそんなのは、この際だーでもいい。
肝心なのは、部活だよ、部活!!
「片桐、お前だけだぞ。まだ、部活を決めてないのは。」
「・・・はい」
「明日には決めておけよ」
「・・・はい」
今日も、放課後に担任(男)に呼び出され、いつもと同じセリフのやり取りをした。
明日もきっと、同じやり取りをするのだろう。
三年間、部活に所属強制って、なぁ・・・。
運動部入ったら、ズルイし、文化部って、根暗そうだし・・・。
はぁ~、どうしよ・・・。
職員室から出て、窓から入ってくる赤い光の眩しさに眼を細めていると、
「片桐・・・麻衣!!っさんだっけ?」
ふいに後ろから話しかけられ、振り返ると。
すぐそこに、広川里美がいた。
「久しぶり。入学式以来だね」
「・・・あぁ」
「いきなりで悪いんだけどさ、まだ部活決まってないやつって、あんた?」
「・・・そうだけど・・・?」
「ちょっと、付いてきてよ」
「・・・はぁ?」
反論する間もないまま、しっかりと腕をつかまれてしまった。
って、おい!!
腕つかむまでならいいけど、しっかり胸に抱えるな、ひっぱるな~!!
この腕から逃れようとすると、逆にもっと強く胸に押し付けられ、抵抗をあきらめた。
これ以上、逆らったら、俺の理性の方が危ないよ・・・。
「里美、ついてくから。ついてくから!!だから、手を放せ!!」
里美に言われるがままについていくと、目の前に、信じ難い光景が広がっていた。
もう、あの日から二度と、それには近づかないと、そう誓った・・・。
「かるた部へ、ようこそ!!」
学校唯一の畳の上に、"百人一首"と呼ばれる、世にも恐ろしい、というよりも、
今、この世で一番見たくないものNo.1に輝き続けている物体が広がっていた。
「俺、帰る」
Uターンして、もと来た道に戻ろうとしたら、後ろから制服の襟
(この学校はセーラー服だ) を引っ張られ、情けなく後ろへ倒れてしまった。
「何すっ・・・」
しこたま打ってしまった頭をさすりながら、
後ろへ振り返ると、邪悪面した里美が、ドスを利かした声で、
「ちょっとぐらい、寄ってけ」
と囁かれ、そのあまりの怖さに、一も二もなく、首を縦にふっていた。
しょーがねぇじゃん・・・めっちゃ怖かったんだからよぉ・・・
「じゃぁ、改めて紹介するね」
いきなり雰囲気を変えて、話しかけてきた。
「今、二年生は帰っちゃっていないけど、一年生の紹介するね」
催促される手に従って、中に入った。
中には、やたら背の高い優しげな顔立ちの女と、メガネの地味な女と、
何やら変な笑みを浮かべている中年男がいた。
背の高い女の方を示して、
「こちらが"塚本 茜"さん。私と同じ5組だよ」
よろしく、とばかりに頭を下げられて、つられて俺もお辞儀した。
「で、こっちが"八木 愛乃"さん。同じく5組。通称あいぼん!」
地味女が会釈しながら、
「よろしくね」
と言っていた。
少し、低めの声だ。といっても、里美ほどではないが。
里美はアルトだが、こいつはメゾといったところだろうか?
「はぁ・・・」
ほとんど上の空で答え返した。
「あのさぁ、ちょい質問していいか?」
俺の目は、塚本さんに向かっていた。
「いいよ?」
里美がそう、いったので
「あんた、身長いくつ?」
「・・・167だけど・・・?」
一般女子の声の高さだ・・・って、そんなことはどうでもいい。
その瞬間、俺はほとんど絶望していた。
俺よりもはるかに高い身長が、167・・・(ちなみに俺は158だ)
170くらいあると思っていたのに・・・。
まるで、俺が激チビ!!みたいじゃねぇかよ!!
はぁ・・・、ヘコムなぁ・・・。
俺の目標まで彼女+10㎝か・・・。遠いなぁ・・・。
「じゃ、そゆことで・・・」
回れ右してそのまま帰ってしまおうとすると、里美がすでにドアの前にいた。
「何、いきなり帰ろうとしてんのよ!?」
「いや、もう用事ないし・・・」
「用事が、ない・・・?」
後ろから、やけに沈んだ声が響き、思わず振り返ってしまった。
目の前であのメガネ地味女・・・・、じゃなくて、八木さんがうずくまって、肩を震わせていた。
「本当に、・・・もう、帰ってしまうの・・・?」
そういって、顔を上げた彼女の眼には、大粒の涙が浮かんでいた。(なぜか、メガネをはずしていた)
そんな彼女の様子を見た瞬間、俺の胸に衝撃が走った。
この気持ちは、喜びとかそんなのじゃない・・・。
もっと、狂おしい痛みと激しい感情の・・・もしかすると・・・恋!?
いや、違う。
俺は、もうメガネ女は好きにならない、って決めたじゃねぇか・・・。
もう一度、そっと彼女の顔を見ると、俺の意思とは関係なく、自然と吸い込まれるようだ。
「・・・帰っていいけど、この紙に名前を書いて・・・?」
何だろう、・・・この気持ちは?
なんつーか、彼女のためなら、なんでも聞いてしまいそうな・・・。
彼女から渡された紙に、言われるがままにサインした。
そして・・・。
「ナイス、あいぼん!!」
遠くで里美の声が響いていた。
でも、そんなの関係ない。
彼女が、全て、だ・・・。
「これで、麻衣もかるた部の一員だね」
シャットアウトされていた、意識が急激に現実に引き戻され、里美の方を向くと、
中年男が、いつの間にか、俺がサインした紙を持っていた。
よく見ると、その紙には、"入部届け"と書いてあった。
「なっ・・・、ちょっ・・・、俺、入らな・・・」
「残念でした。もう、受理済みだよ」
八木さんが、メガネをかけながらこちらを見ていた。
その顔には、笑みさえも浮かんでいる。
先程感じた、感情など、欠片も残っていなかった。
・・・だっ、だまされたーーーーーー!!
今更、全てが後の祭りであった・・・。