えっ?何?どうすればいいの?
ただいま、降り過ごした駅に戻るため、電車に乗っております。
はい。時の流れは速いもので、文化祭1週間前、つまり、大会の日です。
全員起きていたにもかかわらず、なぜか一駅降り過ごしたかるた部5人。俺たち2年は話に夢中で先輩は気づいていたのに何も言わなかったのだ。俺?俺は降りる駅とか知らなかった。全部人任せです。
「キリはずっと、外眺めてたのに言わなかった!これは全部キリのせいよ!」
「そうね。キリは大会当日なのに全然気合が足りないようね」
里美と悪は俺に何か恨みでもあるのだろうか?電車の中でプレッシャーを与えられています。いや、駅の名前を憶えていなかった俺が悪いのか?たとえ、里美と悪が話にヒートアップして、塚本さんがなだめていたのだとしても。
うん。俺、悪くないよな?えっ、やっぱり俺のせいなの?
「また降り遅れるよ、君たち」
先輩の一言でホームに降りて、会場へと向かう。どうやら会場は去年と同じ武道会館らしい。まぁ、普通の会場では、何十人も一度に収納できる畳の部屋はないから、場所が限られるのだろう。ちなみに、柔道の試合で使用される畳っぽいけど畳じゃないものが敷かれているのだが、何となく汗臭いような気がするのは気のせいだろうか?
会場の控室(出場者全員同じ部屋)で制服を脱いで、Tシャツ、短パンになり、ジャージを着る。うん。更衣室なんて気の利いたものはないため、男女同じ部屋でみんな制服の下に着てきている。安心して着替えられる仕様だ。俺たち弱小部には関係がないが、強豪は部活Tシャツを着ているところが多い。
去年の覇者、F高は背中の部分に、”欲しがりません、勝つまでは”と、戦時中のあの文句が書かれている。
で、なぜそんなことを気にしているかというと、部費が足りないので部活Tシャツなどつくれない。ならばせめて仲間とわかるような感じにしようと提案された。ここまではいい。みんな同じTシャツでも買うのかと思えば。
「せっかくイメージカラーが決まったんだから、その色を着ようよ!」
「そうね。かるた戦隊なんて決めたものね」
「私は青を着ればいいんですよね?先輩はどうしますか?」
「私は、その戦隊に入りたくないんだけど…」
「じゃ、先輩は博士ですね!」
「私たちの指示者ですもんね」
「えっと、君たち?」
「「先輩は白ですね!」」
「…」
という感じの会話が上から里美、悪、塚本さん、先輩、里美、悪、先輩、里美&悪、先輩で繰り広げられ、有無を言わさず先輩も巻き込まれた。俺?しっかりと抗議したけど、受け入れられるはずないじゃんか。先輩すら負けたんだから。女3人集まれば姦しいというけれど、里美と悪は2人でも十分に騒がしい。
というわけで、去年のクラスTシャツがピンクだったため、それを着ている。はっきり言おう。恥ずかしい。デザインは表は9HRという文字が葉っぱとともに描かれており、まぁ普通。問題は裏。ドラゴン〇ールみたいなドラゴンが雄々しく猛っている。それもいい。だが、ラメってるんだよ!洗濯して、だいぶキラキラは落ちたが、なんとなくまだラメラメしてる気がして落ち着かない。
じゃあ、普通のピンクのTシャツを着ればいいって?俺が試さないと思ったか!!俺が持ってるくすんだピンクのTシャツ(男物)を最初着る予定だったが、里美から却下されたのだ。曰く、もっと女子っぽいのを着ろと。戦隊モノでピンクといえば紅一点。つまり、一番かわいくあれということだ。
激しくどうでもいい!というより、ほんとは黒一点だ。かわいくなどなれはしない。
「キリちゃん、久しぶり!ピンクなんてかわいいね」
後ろから拓也が現れた。
「…うれしくないし」
「強がってるところもかわいいよ」
「…」
俺の人生で女子にかわいいなどと面と向かって言えたことなどない。恥ずかしすぎていえるはずもない。それをさらっと言えるこいつはたらしだ。彼女がいるくせに一応女子扱いの俺にそんなことを言っていいものか?
「恵はありのままの俺が好きって言ってくれてるからいいんだよ。かわいい子にかわいいって言わないのは、それは罪だよ」
意味不明だ。
「拓也じゃん!久しぶりー」
「あら、ラブラブでごちそうさま」
「おっ、お久しぶりです」
「里美ちゃんに、愛乃ちゃんに、茜ちゃん。久しぶり!みんな相変わらずかわいいね」
実はこいつらあのデートもどきをたまたま見つけて、尾行していたらしく、俺がフラれて恵ちゃんと付き合うようになったと勘違いしている。そもそも本当にたまたまだったのか怪しいのだが。で、なんとなく拓也と仲良くなってしまったかるた部2年生である。
「みんな、文化祭準備で忙しかったんだってね。せっかくだから俺見に行こうかな?ついでに俺のところも見に来てよ!秋にやるからさ。キリちゃんに連絡するからさ」
うん。勝手に俺を連絡係に任命するのやめようか。というか、行きたくない。ほかの高校の文化祭って制服での参加って決まってるじゃん?休みの日まで女装する趣味はないんだよ!!
「予定が空いてたらいーよー」
「イケメンのお友達、紹介してよね」
「えっと、みなさんが行くなら行きますね」
「OK!楽しみにしてるよ!じゃ、またね」
おい!俺の意思はどうなる!?
歯がきらりと光りそうな笑顔で去っていく拓也を呼び止めようとすると、里美に肩を掴まれる。
「キリ、どこ行こうとしてるのよ。制服ちゃんとたたみなさいよね」
そういわれて見ると、さすが女子というべきか。里美も悪も塚本さん、先輩も制服をたたんでバックへと入れていた。俺はついつい脱ぎっぱなしでいたのだが。
「しわになりますから、たたんだ方がいいですよ?」
いつもなら上にある視線が、座っているため上目遣いになっている塚本さんに思わず、胸が高鳴る。
「えっと、ありがとう?」
そういって、胸の高鳴りをごまかして、制服をたたんでバックへ入れた。そういえば、ここは男子もいるから制服を出しっぱなしというのもよくないよな。女子の制服とか、触りたくなる気持ちはわかるつもりだ。
「里美ちゃん、おはよう」
聞き覚えのある声に俺は性懲りもなく固まってしまった。そういえば去年の大会でも会ったんだから、今日会う可能性もあるとわかっていたのだが、忘れようとしていて、本当に忘れていたみたいだ。
「みかちゃん!おはよう」
元気いっぱいに里美が挨拶を返したのは、かつての俺の天使・一ノ瀬みかさんだった。そうして、なにやら里美と一ノ瀬さんが話を交わした後に、わかれるかと思いきや。
「麻衣さん、でしたよね?お久しぶりです。ちょっとお話したいことがあるのですが…」
一ノ瀬さんがなぜか俺に話しかけてきた。ギリギリと音がしそうに固まった体を無理やり動かして彼女を見つめる。時計を気にして、迷ったように目を動かした後、
「時間がないので、お昼にまた来ますね。
里美ちゃん、また後で会いましょうねー」
と言って、去っていった。
トタトタと小走りで去っていく背中に俺は何も言えずに見送ってしまった。
えっ?何?俺に話って?もしかして、男だってばれてる?
「おぅい。そろそろ宮本先生も着いたから会場に移動するよー」
先輩の声に返事をして、貴重品をもって会場へと移動した。
もちろん、俺の心中は穏やかではなかった。
えっ?何?どうすればいいの?




