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ハッピーエンドじゃ終われない  作者: りゅう
1年生
12/44

閑話・あいぼんのお道具箱3

「気がつきましたか?」

天井が目に写る。

「ここは?」

「部室です。いきなり倒れたので、心配しましたよ」

俺は、起き上がりながら、時計を探した。

「・・・何時?」

「4時です。皆は、帰りましたよ」

「そうか。・・・面倒かけて、すまない」

「いいですよ。その間、しっかり勉強してましたから」

「すまない・・・」

「いいんですよ。・・・それより、先輩どうしたんですか?ずいぶん・・・うなされていました」

「いや、・・・その・・・」

「その?」

真剣にこちらを見ている。

ごまかしは、通用しないだろう。

軽く、ため息をつく。

「・・・怖いんだよ。スタートラインに立つのが。・・・皆、こっちを見ていて・・・」

「"自分は自分。他人は他人。どんなに頑張ったて、誰も誰にもなれないんだから。だから、他人なんて気にするな"・・・昔、先輩に言われた言葉です」

「・・・そーだっけ?」

「記録が伸びなくて、先生にも友達にも言われて、本気で陸上をやめようとしていたときに言われました」

「・・・」

「最後の大会、県の決勝までいきました。結局、その先にはいけなかったけど。けれど、後悔はありません」

「・・・」

「先輩は、後悔したからここに来たんですよね。でしたら、後悔しないように、もう一度、・・・頑張るべきです」

「・・・ありがと」


正直、まだ怖いと思う。

けれど、後悔しないために。

俺が、俺であるために。

もう一度、走りたいと思った。


 二週間みっちり、練習して、ついに決着の日が来た。


「はよ」

「おはよう」

先回りしようと思ってたのに、すでに秀がいた。

「アップは?」

「俺はいい。秀は?」

「オレも、走ってきた。じゃ、行こう」

校庭には、顧問が立っていた。

「400の一本勝負でいいんだったよな?」

「はい」

「じゃ、位置について」

内側に俺が。外側に秀がつく。


怖くないといったら、うそになる。

けれど、今は秀と走りたい気持ちが一杯で・・・。


「準備はいいな?用意」

手の音と共に、走り出す。


前には、アイツの背中。

決して追いつくことが出来ないと思っていた、俺を置いていくモノ。

けれど。

今は、違う。

俺は、立って走っている。

追いつける。


「・・・まいった」

「それは、俺のセリフだ・・・」

すぐ横で秀が肩で息をしている。

顔を見合わせて、二人で笑い出した。

「二人とも、よくやったな。特に片桐!!ブランクがあったとは思えなかった」

「ありがとうございます」

頭を下げたと同時に、俺たち以外いなかったはずの運動場から声が聞こえた。

陸部の後輩たちだ。

「?・・・どういう」

「全中大会ベストスリーの"内山秀"と"片桐大"の勝負は、見るだけでも勉強になるからな」

抜け目の無い顧問だ・・・。

「いつでも、練習にきていいぞ」


秀と共に外に出る。

「そーいや、秀って何高行ってんの?」

「K高」

ゲッ、県内1,2を争う進学校じゃねぇかよ・・・。

こいつ、本気で勉強できる・・・。

「大は、M高だろ?」

「はい?」

「違うのか?M高に受かったって聞いたけど」

「ああ・・・まぁ・・・」

確かに受かったけどさぁ。

行ってないっつーか、なんつーか・・・。

「あのさ、S女のお前のイトコに、謝っといてくれないか?」

「なんで?」

「いや、前、お前と間違ってその・・・。とにかく、怖がらせてしまったんだ。口も聞いてくれなかったしさ」

いやぁ、そのぉ、怖いっていえば怖かったけど。

正体ばれたくなくて、黙ってただけなんだよなぁ・・・。

「お願いするよ」

「ああ」

「・・・本当そっくりで・・・」

そりゃ、まぁ、本人だし?

全然似てないとか言われても困るなぁ・・・。

「いや、・・・お前の方がかわいいよ」

それ、フォローじゃないから。

っつーか、むしろケンカ売ってんのか?

「どうい・・・」

「あーーーーー!!」

なにやら、妙に寒気を感じて声のした方向を向くと・・・。

さっきまで俺の頭があった辺りに、ものすごいいきおいで何かが飛んできて、地面に刺さった。

それは、包丁だった。

「キリ!!あんた、何勝手に人の彼氏に手ぇだしてんのーーー!!」

そこには、あいぼんがいた。

胸元から次々と凶器を取り出して、投げつけてくる。

「俺は、大で・・・」

「問答無用ーーー!!」

ナイフとトンカチが同時に飛んでくる。

「あい・・・」

秀が絶句している。

生命の危機を感じて、俺は走り出した。

「こら!!逃げるな!!」

だったら、その手の凶器をどーにかしてくれ!!

武器は尽きることなく、胸元から出てくる。

全速力でとにかく、逃げ出した。


◆◆◆


後日、あいぼんの胸元の不思議について尋ねてみた。

「あいぼんのアレ?

あたしにもよくわかんないけど、皆"四次元胸元"って呼んでるよ。

ドラ○もんみたいでしょ」


秀があいぼんの誤解を解くまでの三日間、死ぬ気で逃げ続けた。

そして、未だ、あいぼんの胸元はなぞのままである・・・。


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