閑話・あいぼんのお道具箱3
「気がつきましたか?」
天井が目に写る。
「ここは?」
「部室です。いきなり倒れたので、心配しましたよ」
俺は、起き上がりながら、時計を探した。
「・・・何時?」
「4時です。皆は、帰りましたよ」
「そうか。・・・面倒かけて、すまない」
「いいですよ。その間、しっかり勉強してましたから」
「すまない・・・」
「いいんですよ。・・・それより、先輩どうしたんですか?ずいぶん・・・うなされていました」
「いや、・・・その・・・」
「その?」
真剣にこちらを見ている。
ごまかしは、通用しないだろう。
軽く、ため息をつく。
「・・・怖いんだよ。スタートラインに立つのが。・・・皆、こっちを見ていて・・・」
「"自分は自分。他人は他人。どんなに頑張ったて、誰も誰にもなれないんだから。だから、他人なんて気にするな"・・・昔、先輩に言われた言葉です」
「・・・そーだっけ?」
「記録が伸びなくて、先生にも友達にも言われて、本気で陸上をやめようとしていたときに言われました」
「・・・」
「最後の大会、県の決勝までいきました。結局、その先にはいけなかったけど。けれど、後悔はありません」
「・・・」
「先輩は、後悔したからここに来たんですよね。でしたら、後悔しないように、もう一度、・・・頑張るべきです」
「・・・ありがと」
正直、まだ怖いと思う。
けれど、後悔しないために。
俺が、俺であるために。
もう一度、走りたいと思った。
二週間みっちり、練習して、ついに決着の日が来た。
「はよ」
「おはよう」
先回りしようと思ってたのに、すでに秀がいた。
「アップは?」
「俺はいい。秀は?」
「オレも、走ってきた。じゃ、行こう」
校庭には、顧問が立っていた。
「400の一本勝負でいいんだったよな?」
「はい」
「じゃ、位置について」
内側に俺が。外側に秀がつく。
怖くないといったら、うそになる。
けれど、今は秀と走りたい気持ちが一杯で・・・。
「準備はいいな?用意」
手の音と共に、走り出す。
前には、アイツの背中。
決して追いつくことが出来ないと思っていた、俺を置いていくモノ。
けれど。
今は、違う。
俺は、立って走っている。
追いつける。
「・・・まいった」
「それは、俺のセリフだ・・・」
すぐ横で秀が肩で息をしている。
顔を見合わせて、二人で笑い出した。
「二人とも、よくやったな。特に片桐!!ブランクがあったとは思えなかった」
「ありがとうございます」
頭を下げたと同時に、俺たち以外いなかったはずの運動場から声が聞こえた。
陸部の後輩たちだ。
「?・・・どういう」
「全中大会ベストスリーの"内山秀"と"片桐大"の勝負は、見るだけでも勉強になるからな」
抜け目の無い顧問だ・・・。
「いつでも、練習にきていいぞ」
秀と共に外に出る。
「そーいや、秀って何高行ってんの?」
「K高」
ゲッ、県内1,2を争う進学校じゃねぇかよ・・・。
こいつ、本気で勉強できる・・・。
「大は、M高だろ?」
「はい?」
「違うのか?M高に受かったって聞いたけど」
「ああ・・・まぁ・・・」
確かに受かったけどさぁ。
行ってないっつーか、なんつーか・・・。
「あのさ、S女のお前のイトコに、謝っといてくれないか?」
「なんで?」
「いや、前、お前と間違ってその・・・。とにかく、怖がらせてしまったんだ。口も聞いてくれなかったしさ」
いやぁ、そのぉ、怖いっていえば怖かったけど。
正体ばれたくなくて、黙ってただけなんだよなぁ・・・。
「お願いするよ」
「ああ」
「・・・本当そっくりで・・・」
そりゃ、まぁ、本人だし?
全然似てないとか言われても困るなぁ・・・。
「いや、・・・お前の方がかわいいよ」
それ、フォローじゃないから。
っつーか、むしろケンカ売ってんのか?
「どうい・・・」
「あーーーーー!!」
なにやら、妙に寒気を感じて声のした方向を向くと・・・。
さっきまで俺の頭があった辺りに、ものすごいいきおいで何かが飛んできて、地面に刺さった。
それは、包丁だった。
「キリ!!あんた、何勝手に人の彼氏に手ぇだしてんのーーー!!」
そこには、あいぼんがいた。
胸元から次々と凶器を取り出して、投げつけてくる。
「俺は、大で・・・」
「問答無用ーーー!!」
ナイフとトンカチが同時に飛んでくる。
「あい・・・」
秀が絶句している。
生命の危機を感じて、俺は走り出した。
「こら!!逃げるな!!」
だったら、その手の凶器をどーにかしてくれ!!
武器は尽きることなく、胸元から出てくる。
全速力でとにかく、逃げ出した。
◆◆◆
後日、あいぼんの胸元の不思議について尋ねてみた。
「あいぼんのアレ?
あたしにもよくわかんないけど、皆"四次元胸元"って呼んでるよ。
ドラ○もんみたいでしょ」
秀があいぼんの誤解を解くまでの三日間、死ぬ気で逃げ続けた。
そして、未だ、あいぼんの胸元はなぞのままである・・・。




