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ハッピーエンドじゃ終われない  作者: りゅう
1年生
10/44

閑話・あいぼんのお道具箱1

札と札の合間の緊張の静寂の瞬間。

その空間を切り裂いたのは、 待ち受けていた声ではなく、聞きなれた機械音。

一定方向からのバイブレーターの音。

誰かの携帯がなっているのだろうけれど、常日頃からおかしいと思っている。

だってそうだろう?マナーモードとかバイブになるけどさぁ、マナーっつったら、無音にするべきじゃねぇ?

緊張の解けた場で、そんなどうでもいいことを考えながら、前のめり気味だった体重を 後ろに戻しつつ、顔を上げた。

試合と言うのは、対戦相手と向かい合って座るので、当然の如く相手が見える。

ちなみに今日の相手はあいぼんだ。

ここまでは、至って普通なのだが、問題は胸だ。

いや、彼女が貧乳だとか言うつもりは全くない。むしろ巨乳だ。

って、いまはそんなこと、どーでもよくないけど・・・いい!!

その二つの豊かな膨らみが、凄い微震を起こして 揺れている。

見るな。見ちゃいけない。とは、思いつつ、目は釘付けになってしまっている。

だってさ、しょうーがないだろう・・・。俺だってその、

健康的な16歳男児なんだからよ・・・。

「私だわ」

と、おもむろに胸元に手を突っ込んで・・・。

「おい、片桐?どこ行く?!」

「便所!!」

へと、駆け込んだ。個室に閉じこもり、トイレットペーパーを大量に巻き取る。

その間にも、鼻からは血が垂れている。

おい、見えたよ、見えた!!その・・・、ブラがさぁ・・・、チラッと。

ピンクというか、赤いというか・・・。いや、むしろ、今の俺の手のほうが赤いよなぁ・・・。

なんとか、鼻血を処理して、戻った。

手前では、胸元から出したと思われる携帯で喋っているあいぼん。

奥では、真剣に札を覚えている塚本さん。

腹が減ったのか、購買で売ってそうなパンに噛り付いている里美。

そして、暇そうにしている顧問。

通話の邪魔にならないように、元の場に戻って座り込んだ。

さっきと同じ座り方をしたら、あの光景が思い出されて、

体育座りに直して、天井を見上げた。

「ちょっと、待ってね」

あいぼんの声が響いた後に、

「キリ、膝が擦りむけてるわ」

いつの間にか俺を見下ろす形であいぼんがいた。

そして、またおもむろに胸元に手を突っ込む。

ちょっ・・・。 待てや!!なんつーか、さっきよりも絶景というか・・・。

今度はなんとか目を瞑り、それ以上見ないようにした。

だって、見たら悪いだろう・・・。

「はい。おしまい」

気がつくと、膝にバンドエイドが貼られていた。

「ありがと・・・」

「どういたしまして」

にっこりと微笑んで、あいぼんがまたまた胸元に手を・・・。

「おい、片桐。お前どこ行くんだ!!」

「便所!!」

の個室へ駆け込み、トイレットペーパーを大量消費した。

グラビアとかでよく見る谷間を生で拝んじゃいましたよ!!

っつーか、ヤバイ!!このままじゃ血がなくなる・・・。やばっ、また血が出てきた。

結局、トイレットペーパー(新品)をまるまる一本使ってしまった。マジでやべぇよ。出血多量で死ぬ・・・。 心持ちゲッソリしながら、外へ出たら、里美たちがいた。

「今日は部活、おしまい!!さ、帰るよ」

里美が俺の荷物を押し付けて、歩いていく。

助かった。これで今日は生きて家に帰れる。のろのろと三人の後をついていく。

いつものように三人はおしゃべりに 夢中だ。正門が見えてきた。

しかし、今日はめずらしく、学ランを着た背の高い男が立っている。

誰かを待っているようだけど、よく女子高の前に立てるよなぁ・・・。感心する、うん。

にしても、誰まってんだろ?

「あっ、しゅう~」

あいぼんが、叫んだ。すると、今まで下を向いて待っていた男がこちらを見る。

「・・・内山・・・秀・・・?!」

回れ右をして、走り出そうとしたら、誰かに襟を掴まれた。

「な・・・」

「どこ行く気?今日はあいぼんの彼氏を見せてもらう日じゃない」

いや、そんなの知らないし。っつーか、放して。俺、アイツに会いたくないから。

逃げようとしたが、ズルズルと引きずられて・・・。

ご丁寧に荷物を塚本さんが持っていた。

「彼氏の"内山秀"。なんか、キリは知ってるっぽいけど・・・」

「・・・陸上の大会で見たことがあって・・・」

下を向いて、できるだけ声を変えて。

「・・・ふぅん、そう」

何も言わないから、どうやら気づいていないらしい。

「じゃ、右からいくわね。塚本茜、広川里美二人とも、同じクラス。で、最後が片桐・・・」

興味なさげにしていた秀が、いきなり俺の顎に手をかけ、無理矢理上を向かせた。

確信をもてる。絶対に、バレタ・・・。

「まさ・・・」

秀が、何かを言う前に、振り払って、駆け出した。放置されていた荷物を途中で取り、とにかく逃げた。

「待て、大!!」

すぐ後ろで秀の声が聞こえてきた。どうやら、追ってきているらしい。

待てといわれて、待つバカがいるもんか!!

更にスピードを上げようとしたときに、制服が首にまとわりついてきた。

どうやら、襟を掴まれたらしい。

「ぐえっ」

と、色気の無い(あったら大変だ)声を出して、豪快にこけた。秀もつられてこけたようで、背中に重さを感じた。

「やっと・・・、見つけたぞ、大!!今日こそ、決着をつけるぞ」

地を這って逃げようと試みるが、かなり無駄だった。向こうはかたや170以上の大男、こっちはせーぜー160のチビ。

あ~あ~、今日から俺は変態のレッテル貼られるよ・・・。

「!!ちょっとー、何やってるの!!!はなれなさいーーーー」

少し、ヒステリックに叫びながら、あいぼんの声がして、背中の圧迫感が和らいだ。

「邪魔するな、あい!!オレは大と・・・」

「その子は、大じゃなくて"麻衣"だよ、いとこの」

里美が大声でいった。

そーいや、俺、今、麻衣だっけ。

「え・・・?」

秀が、冷静に俺を見下ろして、ある一点を凝視して固まった。

「・・・お・・・んな?」


◆◆◆


「・・・すまない」

本日何回目かの謝罪の言葉。

あの後、近くのコンビニの店内のテーブルを陣取っている。

向かい側には秀が、その横にいつの間にかメガネを外したあいぼん。

俺の横に里美、その横に塚本さんが座っている。

秀は本当にすまなそうに下を向いている。

その隣であいぼんはまだヒステリックに秀を睨んでいる。

まぁ、しょーがないよなぁ。勘違いとはいえ、はたから見れば、女を押し倒したように見えるし・・・。

季節限定のドリンク(秀のおごり)を飲みながら、こっそり溜め息をついた。

「それで、陸上のライバルだったその、"大"って人と間違えて、そんなことしたの」

「ああ・・・」

まだまだ、あいぼんの詰問は続きそうだ。

・・・にしても、まぁだあきらめてなかったのかよ、こいつ。

確かに、こいつとの決着はまだついてなかったけどよぉ、俺が陸上やめて一年過ぎたぜ?

ちらりと、秀をみて、また溜め息をつく。

あいぼんの彼氏が、よりにもよってこいつかよぉ。

確かに背は高いし、顔はいいし、運動できるし、頭も・・・。

あっ、なんかヤになってきた。俺が男として失格みたいじゃん・・・。

あ゛~、ムカつく!!睨んでるあいぼんも、やっぱかわいーしさぁ。

「・・・本当にすまなかった」

そういって、痺れを切らしたように立ち上がって、

「あい、ちょっと・・・」

二人で外に出て行った。

今まで黙っていた里美が、

「本当にそんなにクリソツなんだね、大と」

「・・・・ああ」

むしろ、本人だし。

「そんなに似ているのでしたら、ぜひ一度あってみたいですね」

「そーね。あたしも久しぶりに会いたいかも」

ほぼ毎日会ってるから・・・。

「あれ、あいぼん。内山くんは?」

「帰った。ねぇ、キリ。あなた"大"って、人の連絡先、知ってるわよね。教えなさい♪」

笑顔だけど、目が笑ってねぇよ!!

っつーか、無理!!俺だし・・・。むしろ何故に?!

「しゅうがどぉーしても、話したいんだって。だから、早く教えなさい」

ジリジリと迫ってくるあいぼんに目をそむけた。

そうしないと、なぜか口走りそうだったから。

俺が、大だって。

だいたい、秀が俺と話したいってことは、勝負したいってことだろ。

「知らない・・・」

「知ってるでしょ?あたしの話、よく聞いたっていってたじゃん」

「さぁ、教えなさい」

なんで、里美まで攻撃に加わるんだ?!

助けを求めて周りに目を走らせると、塚本さんと目があった。

「二人とも、座った方がいいですよ。周りの人たちが見ています」

ド接近していた二人は、一度まわりを見て、座った。

本当に、周りの人の注目を集めていたらしい。

「あいぼんさんは、内山さんの連絡先を知っていますよね」

「ええ」

「キリさんは、どうしても"大"さんについて教えたくないようですから、内山さんの連絡先を教えたらどうでしょう?」

「イヤ」

「・・・・あいぼんさん」

困ったような笑顔を浮かべた塚本さんをみて、恥ずかしいようにそっぽを向いた。

それから、負けたというように、笑顔を浮かべて、塚本さんの方を見て、

「わかったわよ」

そういって、胸元に手を入れ、紙とペンを取り出した。

あいぼんも、里美も、塚本さんには弱いのだ。

「アリガト」

声に出さずにいうと、塚本さんはにっこりと微笑んだ。

「はいっ」

渡された紙には、電話番号がのっていた。

ハートが散っているかわいらしい紙だ。

「教えたんだから、今日中に"大"って人に連絡させなさい!!わかった?」

「・・・はい」

「じゃ、今すぐ帰って、"大"に伝えなさい」

まだ、飲み終わっていない俺のジュースをゴミ箱に投げ捨てられた。

もったいねぇ・・・。

「さぁ、早く!!」

何を怒ってるんだよ、あいぼん。

しょーがないので、さっさと帰ることにした。

でもなぁ、秀に連絡って、勝負したいってことだろう?

やだなぁ、ふけちまおうかなぁ・・・

「そうだ、キリ。明日しゅうに聞くから。"大"から連絡あったかって。なかったら・・・、わかってるわよね?」


家に帰り、やけに少女趣味に変えられた部屋へ荷物を投げ込み、ベッドに寝転ぶ。

そんなすぐに電話する気にはなれなかった。

真っ白な天井に、秀の顔が浮かぶ―――。


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