堕ちた姫は神聖都市に
「かぐや姫?」
「そうです。かぐや。彼女は神聖都市ルヴェールで家具屋を開いているそうですよ」
かぐや姫だけに家具屋……しょうもない駄洒落だな。うん。
「おぉー!じゃあ、早速行こっか!」
「今日は遅いので明日にした方がいいですよ。嗚呼、そうだ。貴方にはこれを。この店の名刺的な物です。持ってて損はありませんよ。これは信頼できるお客様にしか渡していないので」
「ありがとう。後でじっくり見るよ」
「今すぐが良かった…」
ヘンゼルがついて来いと言わんばかりの目を向けたので俺達はついていった。アリスは当然嫌がったが引っ張って無理やり連れて行かれていた。
部屋でさっき貰った名刺を見る。
『不思議でおかしなお茶会 店長 クロック』
たったそれだけ。表に書かれていた。裏を見てみると何やら文章が書いている。
『心優しき聖女は何もかもを受け入れる。心凍りし聖女は何もかもを拒絶する
壁の前で唱えればきっと道は開く』
これの意味はさっぱり分からなかった。でも、あの時アリスが言っていたのはこれだったんだろう。そう思えた。
「名刺なのに営業時間書いてないんですね」
横にいるエインセールが言う。確かに店に必要な事が書いていないがこの店の事を考えれば普通なのかもしれない。
「まぁ、いいだろ」
◇
「シンデレラの故郷、ルヴェールだぁ!」
次の日、ルヴェールについてすぐアリスはそうはしゃいで駆けていった。目的はかぐや姫と親指姫にローズリーフの事を聞くんだけど。
「アリスさん、慕ってるシンデレラさんの故郷だからかテンション高いですね」
「まぁ、いいじゃん。楽しそうだし」
ゆっくりと歩く俺達の前に2人組の赤い外套の女が早足で横切った。危ねーな。ぶつかったらどうするんだよ。
やべっ、アリスを追いかけるの忘れてた。早くしないと人混みに紛れて分からなくなる。
「アリス!待てよ!」
アリスに気がいっていたから俺は気づかなかった。俺に向けられた強い視線に。
「あの人……昨日の」
◇
アリスはある店の前で止まっていた。その店は古風というかなんか和やかな感じの店だった。
「アリス、やっと見つけた……」
「あ、やっと追いついた。ねぇねぇ、これが帽子屋の言ってた所じゃないの?」
「そうかもな。まぁ、入ってみるか」
「うんっ」
これが本当にかぐや姫の経営してる家具屋だったら吃驚だな。
「いらっしゃいませー。かぐやの家具屋へ。何をお探しですか?」
「……」
その挨拶に絶句した。本当にあってたし。ていうか、もう俺には駄洒落にしか聞こえないし。
かぐや姫(仮)はこの辺りでは見たこともない
「いや、俺達はかぐや姫を探しに……「わ、私を探しに!?月の者ですか!?帰ってください!私は帰りたくありません!!」はえ?月の者?」
「月の者ってどういう事?私はシンデレラを慕ってる。こっちはその従者だよ。全員人間だから、月の者じゃないよ」
「シ、シンデレラ様のお友達……。大変申し訳ありませんでした!!私、なんて無礼な事を!どうか首をお刎ね下さいませ!!」
いきなり座り込み頭を下げて物騒な事を言い出すかぐや姫。怖いよ、この人。
「いやいや、刎ねない、刎ねない。ていうか、なんでそんなに月の者を怖がるの?」
「私は一度、月の者により遠い異国の地に堕ろされ、そして数年の年月が経ち、迎えられ、羽衣により物思いの心を消され、月の都へ帰ったのです。
ですが、ある時羽衣が取れて、私は物思いの心を思い出しました。そして、もう一度地上に自ら堕ちたのです。それからここで家具屋を開きひっそりと暮らそうと思っていました。ですから、月の者が怖いのです。
でも、シンデレラ様やアマーリエ様はそんな私を受け入れてくれました」
「なーるほど。で、かぐや姫。ローズリーフって持ってない?」
「ろーずりーふ?」
アリスの質問にかぐや姫は首を傾げた。うーん、知らないのか。なんて説明したらいいのか。
「えーとですね、赤い花びらの様なものです」
「赤い花びら?なら、これでしょうか?以前、家具を仕入れた時に一緒に頂いたのですが」
かぐや姫はカウンターから、小さな赤い花びらを取り出した。それは正しくローズリーフだった。
「これ、ちょーだい!アリス的にもシンデレラにも必要なの!!」
「大切なものなので、そう簡単に譲れないですね……」
「お願い!いばらの塔を探索するために必要なの!」
「いばらの塔って聖女 ルクレティアのいるあの?」
流石にルクレティアの事は知っていたみたいだった。かぐや姫は食いついてきた。
「いばらの塔で呪いに見舞われたルクレティアを助けないといけないんだよっ!」
「そうなんだ、だからそのローズリーフをくれ……!」
アリスは必死な顔で訴える。俺も訴える。かぐや姫は考えている。
「わ、分かりました。ですが、実は先客がいるんです。これを欲しいという方々が」
「嘘!?」
「だから、その方々と琴で競い、勝った方に差し上げます」
「何で?考えるって言ったんだからくれるんじゃないの?」
「姫、落ち着いてください。話を聞いている限りだと琴とやらであの方々に勝てばローズリーフは我が手に」
その時後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ってみるとさっき俺の前を横切った2人組の女がいた。しかも外套を外している。
「ふふっ、そうなんだー。じゃあ、琴で勝負しよ?アリス」
「いいよ、その勝負受けて立つ」
その2人組の女は昨日お茶会へ来たリーゼロッテとその従者だ。声が似てるから多分そう。
「お2方には今から一刻だけですが琴の練習をして頂きます。基本的な事を教えた後、楽譜はお渡しするのでその曲を練習して下さいね。練習時間が終わった後、同時に弾いて頂きます。そしてお上手な方にこのろーずりーふとやらを授けます」
◇
お茶会、隠し部屋では。
「帽子屋、アリス達にかぐや姫の事教えて良かったのか?」
「別にいいんじゃないんですか?欲しい情報はちゃんとあげましたし」
アルクの問いにフォークをクルクル回しながら答える帽子屋。真面目に答える気はないのか。
「この店は、お代さえ払えばだいたいの事はします。ですから、店の規約には反してないのでいいんです。
欲しい物があるのなら是非お茶会に来てくれるとありがたいですねぇ。オズヴァルトの方でもいいんですが……、それではこの店の売り上げが減ってしまう」
「誰に言ってんだよ、おい」
「まーまー、いいじゃないですか。少しくらい謎があった方が良いものです」
「あっそ」
狩人は隠し部屋から出て行った。一人取り残された帽子屋はまだクルクルとフォークを弄ぶ。
「謎なんていつか解けるんです。まるでアイスのようですね」




