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アリス、お代を払う

「先に聞きますがお代はいつ貰えるのでしょうか。貴女はよく滞納するので」


「うぐっ。お、お代は今日払うわよ。いくら欲しいの?」


 体を強張らせながら答えるアリス。帽子屋は曲げていた細長い指を1つ伸ばした。


「では、この店に無い花を下さい。今回はそれで許します」


「ほんと!?やったー!「その代わり」……?」


「そこの従者とは別行動です。従者には別の事をしていただきます」


「は?」「え?」


 俺達は同時に素っ頓狂な声を上げた。俺だけ別ってどういう事?何、ここにいないといけないの?


「従者にはここで店の手伝いをしてもらいます。人手不足なので」


「何で?何で何で?一緒じゃないの?」


「これもお代の一つですよ」


「むーっ!なら、仕方ないや。あたし一人で探す」


 そう言ってアリスは俺を置いて部屋を出て行った。何故かエインセールもついていく。え、結局置いていかれるんだ。酷くない?俺はアリス(とエインセール)の後ろ姿が見えなくなったら、帽子屋の方を向いた。帽子屋は先程とは打って変わった最初に会ったようなニコニコとした笑顔を見せていた。

 そういや、こいつ紺色の……燕尾服って言うんだっけ、そんな服着てるんだよなー。


「そういやお前、ライツそっくりだな、服装とか。それに、グレーテルとヘンゼルって言えば同じ名前のやつがルチコル村にいたっけ」


「そうなんですが、全くの別人です。色々と知識不足だったもので」


 さらっと凄いこと言ったな。おい。ていうか、ノンノピルツの人は学者肌じゃないの!?

 俺はここで仕事か。はぁ……。上手く出来んのかな。


「では、こちらに着替えてください。一応制服なので」


 渡された服は帽子屋の服そっくりだけどなんか違ってた。まぁ、気にしないけど。



 一方、アリスは真っ昼間からエインセールがいる事も知らずにノンノピルツの街を走っていた。帽子屋は掴み所がない。だから何を仕出かすか分からないので早目にお代を払わないと次はどうなるか想像すると恐ろしい。

 ある程度走って適当な所で立ち止まった。


「どこへ行きますか?ルチコル村ですか?」


「そーねぇー、ルチコル村でもいいけどー……っていたんだ」


「はい、何かお手伝いしたいと思いまして」


「そっか、ありがと。ならあのお店にないとびっきりの花を用意しなくちゃね♪」


「そうですね!」


 二人は意気投合して、ハイタッチした。するとアリスが倒れた。


「アリス!やっと見つけた!!」


「ネ、ネリー!?」


 頭が激しく揺らいだのはアリスのペット兼使い魔 ネリーが頭に直撃したからだ。アリスは頭をさすりながら起き上がる。


「あ、そーだ!ネリー、今エインセールとこんな事言ってたんだけどーー」


 アリスはエインセールと話していた事、そしてお茶会であった出来事をネリーに話した。


「ーーふむふむ。そういう事ならこれはどう?」



 その頃、お茶会では。何故か(・・・)大繁盛していた。おやつの時間なのでまぁまぁ繁盛はするがそこまでは中々ないらしい。


 可笑しいだろ。繁盛し過ぎだろ。グレーテルやヘンゼルですらそこで一休みしてるじゃねーか。帽子屋は全然仕事してない。ていうか、ここいないし。俺?俺はアルクの所で皿洗いしてる。接客なんて無理だし。会計打てないし。料理も出来ないし。その結果皿洗いだとよ。


「はいはーい。1名様ですねー!こっちにどーぞ!!」


 グレーテルの陽気な声が聞こえる。元気だなぁ、おい。ヘンゼルはいつもは雑貨屋の方を担当してるらしいがカフェの方に無駄に人が入るのでそっちを手伝っている。いや、でもよく二人だけで切り盛りできるな。


「手、止まってる。早くしな」


 料理を作りながらアルクが催促する。その傍らには作ってる最中と思われる紅茶が。お前もすげーな。


「お、おお、悪い」


 皿洗いって意外ときついな。手が痛いよ。水仕事は苦手だ。


「あれー、アリスがイチオシの店って言ったわりにはアリスいないじゃない」


 何処かで聞き覚えのある声がした。それもこっちに近づいてきてる。厨房に誰かが入ってきた。


「なーんだ。誰かと思えばアリスの騎士じゃない」


「イ、イザベ「お忍びで来てるのよ。黙りなさい」……はい」


 聞き覚えのある声と思えばイザベラだった。しかもいつもの真っ赤なフリフリドレスじゃなく赤黒っぽい外套を羽織って。なんでもアリスに勧められてお忍びでわざわざ来たそうで。


「まぁ、いいわ。では、御機嫌よう」


 外套を翻してイザベラは出て行った。それからは誰も来なくてただひたすらに食器を洗ってた。


なんだかんだで夕刻、客足が少し遠のいてきた頃。(送られてくる食器の数が少なくなってきたから)急にアルクがこっちに近づいてきた。


「もう少ししたらあんたの仕えてる姫(アリス)と逆の事を考えているLittle Red Riding Hoodが来る」


 小声で言われたその意味がよく分からなかった。誰が来るんだ?アルクは話を続ける。


「いいか。グレーテルの声が低く、間延びしていない声の時。それが聞こえたら、そこの下にある戸棚を開けて何か探してるフリをしな。絶対に顔を見てはいけないよ」


 元々低い声が余計低くなって、怖い。ていうか、顔をずいって近づけないで。


「わ、分かったから。離れろー!」


「2名様ね。こっちにどうぞ」


 その時、グレーテルのさっきからとは打って変わった低い声で接客をした。俺は急いで下の戸棚を開けて、何かを探している風にカチャカチャと音を鳴らした。

 コツコツと2つの靴音が近づいてくる。少ししたらそれがピタッと止まった。


「アルク、久しぶり。……あれ?あんな人いたかしら?ヘンゼルじゃないわよね?」


「あぁ、こいつは私の知人だ。たまたま会ったので手伝ってもらおうとな」


「そうなんだ」


「姫、帽子屋の所へ行きましょう」


「そうだね。ふふっ、じゃあね。狩人さん(アルク)


 そのまま、Little Red Riding Hoodとその従者は奥へ行った。行き止まりのはずの。しばらくするとアルクが「もういいぞ」と言った。


「はぁ……。危なかったな。あいつ……赤ずきん(リーゼロッテ)はおっちょこちょいだから何を仕出かすかよく分からない」


「それって……」


「私はあの子の知人だよ。まず、お茶会(うち)はお代さえ払えばだいたいの事はする。誰の味方でもない。中立の立場として」


 そうか。だから、ここは良くも悪くも重宝されてるのか。誰の配下でもないから、こんなにフリーに出来るんだ。オズヴァルトみたいだな。

 リーゼロッテがパタパタと走って出て行った。もう用事が終わったのか。早いな。その後ろを急いで女の子が走っていく。あれがリーゼロッテの騎士か。でもなんかリーゼロッテ怒っていたようにも見えたけど。



バタンッ!!



 勢い良く乱暴に扉が開いた。店内にいた全員がその扉を開けた主に視線を向けた。そこにはネリーを乗せながら肩で息をするアリスとエインセールがいた。馬鹿デカい生け花?を持って。


「帽子屋、ちゃんと持ってきたよ!!」



 店が閉店時間になり閉店し、俺達はまたあの隠し扉の奥にある部屋に呼びだされていた。今度はグレーテルやヘンゼル、アルクも一緒だ。


「さて、持ってきてくれた花。見せてください」


「ふっふー、私達が選んできたのはこれよ!」


 アリスが自慢気に後ろにある生け花を見せる。それは色とりどりの花が咲いていて、季節を無視していた。形はハートみたいな形をしていてより一層可愛らしかった。でも、なんでこの時期に咲いてない花があるんだ?


「なるほど。造花ですか。……大正解です。丁度、店前に飾る用のものが欲しかったんですよね~」


 え、何。その為だけに俺働かされてたの?帽子屋の私情ぶっこんでんじゃん。アリス達だってノンノピルツを走り回っただろうし。


「その為に私達は必死に探したのですかー……」


 隣にフヨフヨ浮くエインセールが言う。そんなに疲れたのか。


「さて、お代も貰った事だし、ローズリーフの在り処をお教えしましょうか。ローズリーフの在り処、それは……」


 ローズリーフがあればルクレティアのいるいばらの塔を探索する事が出来る。それは俺達保守派にとっては1つでもあればとても嬉しい。


「知らないという事を僕は知っています」


「は?」「「え?」」


 知らないという事を知っているって知らないんだよな。俺達の苦労は本当になんだったんだ?ていうか、もしリーゼロッテがローズリーフを聞きに来ていたのならこれで怒っていたのも頷ける。


「あ、後、もう1つ。かぐや姫がローズリーフに似た何かを持っていたって事は知ってます。行く価値はあると思いますよ」


「「「かぐや姫?」」」

Little Red Riding Hoodは日本語で赤ずきんといいます。

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