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真夜中のhighway

少しオトナな表現があります。

ブンガクの範疇だと思っていますが、

嫌な方はスルーしてくださいね。

ずいぶんと長く生きてきた気がする。

この年になるまでずっと、

出会いと別れはペアになっているんだと

思ってきた。

でもたとえ別れが訪れる事が必然だとしても、

たくさんの男と出会って過ごした日々は、

ちょっとした勲章だとさえ、

思っている。

好きモンだとか、尻軽だとか、

言いたい奴は言えばいい。

あたしはいつでも、真剣に愛してきた。

たとえ3日の恋にだって、

命かけてきた自信がある。


翔平と出会った時もやっぱり、

あたしは男と別れたばかりだった。

何年も売れないミュージシャンやってる、

夢の話しかできない男だった。

夢でお腹はいっぱいにならないから、

あたしが稼いで貢いだ。

洗濯をして掃除をして、

あったかい食事を用意して、

帰ってくるかどうかも分からないのに、

毎日待っているあたしのことが、

いつしか鬱陶しくなったらしい。

見返りを要求したことなんか一度もないのに、

あたしはいつもこうやって重たがられる。


仕事から帰ったら、アパートはもぬけの殻で、

あたしが持ち込んだ電化製品まで、

キレイさっぱりなくなっていた。

何もない部屋であたしは、

1時間ほどワンワン泣いて、

それから、男の携帯に電話をかけた。

慌ててたのかうっかりなのか

番号はまだ変えてはいなかったようで、

留守電メッセージが流れた。

あたしは今までと同じように

「ありがと。楽しかったよ」ってだけ入れて

電話を切った。

それからあたしは

自分の携帯をその場に置いて、

アパートを出た。

メモリーを消す必要なんてない。

男の分しか、入ってなかったのだから。


翔平はその男以上に、

世の中をなめた奴だった。

どうやらあたしは、そういう男に弱いらしいのだと、

最近になってようやく気付いた。

働けないから働かないのか、

叶える気もない夢を語って、

安い酒を煽っているだけの、

どこからみてもバカな怠け者が、

大きな磁力であたしを引き付けた。


じめじめした狭いアパートの

きのこが生えそうな布団の上で

翔平に抱かれながら、

暗くて深い穴の中に

一気に吸い込まれていくような感じに包まれて、

あたしは何度も絶頂に達した。

そして本当に吸い込まれていくことに

なっちゃったんだ。


あたしたちは、ささいな欲望を満たす為に、

短絡的な行動に走り、

人を殺めてしまった。

その場をただ逃げ出すしか出来なかった。

戻るところなんてない。


盗んだ車で高速に入り、

あてもないまま飛ばし続ける。

音楽をかける余裕もなく、

降りしきる雨がフロントガラスを叩く音だけが、

BGMになっていた。

そんな状況でもあたしは、

ハンドルを握る翔平の

頼りない所在無げな横顔を見ながら、

ひとり高まっていた。


「翔平だけ、ひとりで逃げな」

夜明けのサービスエリアで

薄いのに苦いコーヒーを飲みながら、

あたしは口を開いた。

翔平はあたしを片目でちらっと見て、

髪をかきあげる。

「お前はどうすんのさ」

「あたしは・・・」

あたしは、今までと同じように

この恋にエンドマークをつけるだけのことだ。

今度はちょっと大きな

エンドマークになりそうだけどね。


ここがどこなのか気にもしなかったけど、

ほんのりと潮の香がする。

近くに港があるのか、

ボーっと、汽笛が聞こえた。


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