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04

『あんなものが浮かぶなんて、冗談でしょ……?』

 モニター越しにこの光景を見ているらしいリナも、唖然とした様子であった。

 ウィンターは、作戦開始前に聞いていた、未確認兵器の存在を思い出していた。そう、噂レベルではあったが、新兵器があるという話があったはずだ。十中八九、あれのことなのだろう。しかし。

 ――よく隠し切ったな。

 突然の新兵器登場に呆然とする一方で、ウィンターはそんなことを考えてもいた。あれほどのサイズであれば、目につきやすい。となると、存在が示唆される程度では済まされず、もっと情報が漏れそうなものだ。よほど巧妙に隠蔽したとみえる。

 では、そんなに大事にされていた兵器がなぜ姿を現したか。冷静になった頭で思考を続け、ウィンターはこの未確認兵器への対応を決めた。

「……オペレーター。本作戦の目標は、基地に配備されている兵器の殲滅、及び施設の破壊、だったな?」

『? え、えぇ、そうですが……』

 戸惑い気味ではあったが、想定どおりの返事である。ウィンターは、ニヤリ、と口元を歪めた。

「なら、あの兵器も墜とさねばなるまい!」

 言い放ち、ウィンターはぐっとペダルを踏み込んだ。巨大な敵を前に、〈アサルト〉のバーニアが吼える。

『う、ウィンター!? 無茶だよ、死ぬ気なの!?』

 リナは遅れてこちらのやろうとしていることを察したらしく、慌てた様子である。しかし、ウィンターは構うつもりはなかった。

 おとなしく引っ込んでいればいいのに、わざわざ姿を現した。それだけ、あの兵器が大事なものであり、失うわけにはいかないのだろう。敵にただ破壊されて闇に沈むよりは、存在を知られてでも保存を優先する、ということだ。

 相手が残しておきたいと考えるものは、さっさと壊してしまうに限る。

 施設破壊用にとっておいたが、ここが使い時だろう。今までさわりもしなかったスイッチを押す。ミサイルコンテナがあるだけに見える背部が展開、瞬く間に二門の榴弾砲が顔を出した。

 敵の出方をうかがうため、距離をとりながら、巨体に狙いを定める。未確認兵器は、宙に浮かび、悠然と移動しているだけだ。

 ――来ないのなら、こちらから行くまでだ。

 先手必勝。トリガーを引き、〈アサルト〉の最大火力が発射された。

 榴弾は放物線を描いて巨体へと吸い込まれるように飛んでいき――手前で爆ぜた。

「そううまくはいかないか」

 榴弾が爆発する直前、未確認兵器の一部が光った。ノズルフラッシュにも見えたので、恐らく機銃かなにかで迎撃されたのだろう。

 それまで、ただ移動していただけの未確認兵器から、反応があった。その全身から、無数のミサイルが射出されたのだ。

「っ!」

 即座にバーニアを吹かし、距離をとりながら機関銃を乱射する。たかだか数発程度のミサイルであればそれで迎撃しきれたが、桁があまりにも違う。かなりの数が残っていた。

 でたらめな物量に舌打ちしつつ、バーニアの向きを次々と変更。真横、真上、真正面、と、カクカクとした急な動きで、全てのミサイルをかわしきった。

 そのままの勢いで、未確認兵器に向かって突っ込む。ただ撃つだけでは、榴弾砲もミサイルも迎撃されてしまう。機関銃の有効射程は短い。となると、接近戦を挑む他ない。

『やっぱりあんなもの墜とせっこないよ! 逃げてウィンター!』

「黙っていろ!」

 それまで散々わめいていたリナだったが、ウィンターの怒鳴り声に驚いたらしく、無言になった。

 ――逃げろだなんて、冗談じゃない。

 あんなでかぶつから逃げようとしたところで、後ろから撃たれるのが目に見えている。そんな墜ち方だけはしたくなかった。

 未確認兵器は、ミサイルだけでなく、榴弾砲も備えているらしい。爆発物の宝庫だな、と思いつつ、ウィンターは〈アサルト〉を小刻みに飛ばし、敵の攻撃をかいくぐった。

 そして、機銃の射程にまで入った。さすがに弾幕が厚くなり、そこから先に近づけない。向こうの機銃の方が射程が長く、こちらの機関銃は届きそうになかった。

 敵の機銃の射程範囲ギリギリを、飛び回り続ける。なんとかして、活路を見出さなければならない。しかし、このままではジリ貧だ。

 何度目か分からないほどの、ミサイルが飛んできた。反射的に機関銃で迎撃しようとしたウィンターは、カチッ、というだけの、むなしい響きを聞いた。弾切れだ。どうやら、ミサイルの迎撃に使いすぎたらしい。もう、予備の弾倉もない。

「くそっ!」

 機関銃を投げ捨てた。無数ともいえるミサイルを避けるために、ますます無茶な機動になる。身体にかかる負荷が、かなりのものになっていた。しばしば視界が白く染まり、舌を噛みそうになる。

 しかし、ここまで敵の猛攻を避け続けて、分かったことがある。榴弾砲の周囲には、どういうわけか機銃がないのだ。バラバラと銃弾の雨あられを降らせてくる機銃よりは、一発ずつ撃ちこんでくる榴弾砲のほうが、いくらか避けやすい。

 もう、覚悟を決めて突っ込むしかない。細かいことはその場で考えればいいだろう。ウィンターは、左の操縦桿を前に倒した。

 アサルトのバーニアが、もう何度あげたか分からない唸りをあげる。目指すは、榴弾砲。横から回り込むように迫っていたミサイルは、その機動に追いつけず、後ろを通り過ぎていった。

 目の前の榴弾砲が、火を吹いてきた。このまま突っ込めば、直撃コースだ。さすがの〈アサルト〉でも、急な方向転換をしても間に合わない。咄嗟に、左腕をかかげる。

 とてつもない衝撃が、コクピットを襲った。

『ウィンター!?』

 リナの悲鳴があがる。叫びたいのはこっちだ、と悪態をつこうとして、ウィンターは己の無事を確認した。

 ――いや、無事と言えるかどうか。

 ウィンターは苦笑しそうになった。全身が痛くてたまらない。

 モニターに、『左腕部破損率:100%』という警告が、赤く表示されている。榴弾の衝撃を受け、吹っ飛んでしまったようだ。他の部位にも爆発の衝撃が届いたようだが、幸い、動かせる。

「……まだ終わっていない!」

 爆発の煙を抜け、隻腕となった〈アサルト〉が未確認兵器に肉薄する。榴弾砲の基部に、右腕を思い切り突き出した。格納されていた剣の柄が、槍となって装甲に食い込み、貫く。

 再び、爆発。今度は、装填されている火薬が連鎖し、次々と爆ぜていく。直前にバーニアを噴射して離脱を試みたが、間に合わずに今度は右腕が飛んだ。

 しかし、大爆発で、内部機構がむき出しになっていた。

 ――あそこに榴弾砲をぶちこめば。

 榴弾砲を再度展開し、狙いを定める。しかし、巨体の裏側から、無数のミサイルが姿をあらわした。

「まだあるのか! だがっ!」

 瞬時にサブアームを展開し、剣をミサイルの群れに向かって投げつける。更に、ミサイルポッドを展開し、残りを全て放った。剣がミサイルを貫き、ミサイルとミサイルがぶつかりあい、次々と爆発が起こる。しかし、全てを落としきれない。

「落ちろぉぉぉぉっ!!」

 ウィンターは、相打ち覚悟でトリガーを引いた。榴弾が放たれたのを見、迫り来るミサイルを確認して、フッと目を閉じる。

『ウィンタァァァァァァッ!!』

 コクピット内に、リナの叫びがこだました。

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