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03

『敵HFの撃墜を確認。レーダーの反応を見るに、HFは残り七機です』

 手早く一機のHFを撃墜したウィンターは、気が抜けそうになるのを堪え、改めて操縦桿を握り締めた。

 戦場で人を殺めたことに、感傷を覚える彼ではない。その上、今は慣れぬ機体でぶっつけ本番、という無茶をやらされている。都合よく飛び出してきた実験台、としかとらえていなかった。

 一機を相手に、わざと手を抜き、散々翻弄してやってから止めを刺したことで、いくつか分かったことがある。まず、当初の設計思想がどうかは置いておいて、〈アサルト〉は近接戦闘に滅法強い。盾で敵HFの携行火器を弾く程度はできるので、味方狙撃機の露払い役としても機能するだろう。

 しかし、それ以上に重要なことがある。可動域が広いバーニアユニットによって、急な方向転換を苦も無くこなし、高速戦闘を得意とする〈アサルト〉だが、パイロットにかかるGはすさまじいものとなっている。こんなものを乗り回していたら、人間の限界に挑戦することになりそうだ。

『ちょっとウィンター! いきなり基地のド真ん中に突っ込むなんて無茶しないでよ! 榴弾砲なりミサイルなりがあるじゃん!?』

 不意に、聞き覚えのある声が飛んできた。やっぱり口出ししてくるか、とため息をつきたくなる。

『反応くらいする! ねぇ、聞いてるの!?』

 ウィンターは答えず、ペダルを踏み込んだ。わずらわしいものを振り切るかのように、〈アサルト〉は突撃していく。

『あっ、もう!』

 なおもリナからの抗議の声が飛んでくるが、もうウィンターは聞いていない。ただ、任務を遂行するのみである。

 〈アサルト〉のレーダーに、何機かの反応。速度からいって、通常戦闘機か。HFのみで構成された戦力、というわけではなさそうだ。しかし、相手がなんであろうと、やることは変わらない。

 基地の迎撃兵器に機関銃をバラ撒きつつ、高度を上げる。編隊飛行でこちらに迫る、複数の戦闘機。視界にとらえた。向こうもそれは同じらしく、ロックされたことを教えてくれるアラートが鳴り響いた。

 同じ方向に動き続けていれば、ただの的だ。

 ――ならば。

 一旦ペダルから足を離し、今度はバーニアの向きを真上にする。強い衝撃がウィンターを襲う。上昇を続けていた機体は、突如急激に降下した。戦闘機のはなった機銃は、明後日の方向へととんでいく。

 ただ攻撃をかわすだけでは、意味がない。バーニアを左右で反対に向け、その場ですっと後ろを向くと、銃撃を避けられ、悔しげに飛び去ろうとしていく戦闘機達の背が見える。その全てに、狙いを定める。

「釣りだ、取っておけ」

 カチッ。機関銃とは別に設けられたスイッチにより、機体背部コンテナから、多くのミサイルが射出される。戦闘機たちは必死に逃げようとするが、追尾機能を持ったミサイルはしつこく、速度もあり、振り切れない。

 再び向きを変えた〈アサルト〉は、空に咲いた花火を背に、基地上空を舞った。

 迎撃兵器たちを機関銃で黙らせ、基地を外側から制圧していく。機関銃であっても、弾薬庫付近を狙えば、誘爆によって迎撃兵器を破壊することは可能である。

 先の一機以降、HFを見ていない。HFの集中配備はでたらめな噂だったのか、とウィンターが疑い始めたとき、アラートが鳴り響いた。何者かにロックされている。

「っ!」

 咄嗟にバーニアを前に向け、ぐっと後退する。まさに〈アサルト〉が突っ込もうとしていたところへ、弾丸が二方向から飛んできた。

『敵HFを確認、二機です!』

 オペレーターからの通信が入る。

 ――ようやくお出ましか。

 ウィンターは、モニターに一瞬映った敵機を確認し、気を引き締めた。しかし二機とは、いかにも少ない。

 バーニアの噴射方向を変えた影響で、高度が下がった。ズシィッ、と音を立て、慣性によってずるずると滑りながら、〈アサルト〉は着地した。

 二対一。圧倒的不利。しかし、こうも建造物が密集していては、向こうは数の利を活かすことは難しい。基地だというのに、市街地戦のような動きになりそうだ。

 ウィンターは冷静に、遮蔽物に身を隠しながら動いた。二機から同時に狙われれば、防戦一方にならざるをえない。それは避ける。

 カメラが、一機をとらえる。向こうもこちらを探して動いていたらしく、鉢合わせした格好だ。

 敵は、躊躇無く手にしていた銃器を投げ捨て、背に手を伸ばす。そのまま、こちらに走りよってきた。

 前の敵は接近しきるまで襲ってこない。僅かな隙に、ざっと周囲を見渡す。二機目は見当たらない。単独での突撃か。

 前に視線を戻すと、敵はぐっと跳び上がったところだった。高さを得て、威力を増そうとしている。

 ペダルを思いっきり踏み込む。ぐっ、と機体が加速し、敵機の下を一瞬で潜り抜けた。すぐさまペダルから足を離し、方向転換。後方の敵機を見ると、その機動に驚いたらしく、もたついた着地になっていた。好機。

 左腕に格納されている、剣の柄が伸びる。伸びてきた柄をつかむと、剣を腕につなげていたかぎ爪がしまわれ、離すことができるようになる。そのまま、敵機に向かって突っ込んだ。

 敵機は慌てて振り向こうとしていたが、機関銃を当ててその動きをけん制。左の剣を逆手に構え、バーニアの出力を上げる。

「もらった!」

 すれ違い様に、横に一閃。背後から、爆音が聞こえてきた。が、続けざまにアラートが鳴る。

 左の端に、ミサイルがチラと見えた。跳躍し、距離を開きながら、機関銃で撃ち落とす。

 今度の敵は、ミサイルポッドを左肩に積んでいた。ミサイルが防がれたと見るや、向こうも機関銃を撃ってくる。左腕を構え、盾となる装甲で弾きながら、着地。

 ――榴弾砲は、使うまでもない。

 ウィンターはそう判断し、再び突っ込む。盾は構えたまま、機関銃を乱射しながらだ。瞬く間に、敵機に肉薄する。

 敵も、ただではやられない。早々に銃を捨て、背部の剣を引き抜いて、こちらの突進に合わせて振り下ろしてきた。ひるまずに、左の剣を振るう。ガキィン、と、剣と剣とがぶつかりあう。

 つばぜり合いの硬直の隙をついて、敵がミサイルポッドを動かした。この至近距離で撃とうというのか。

「させるか!」

 機体を右側に傾けつつ、左腕を引かせ、逆にミサイルポッドめがけて右腕を押し出す。機関銃が邪魔にならないよう、右手は上にそらす。そして、右腕の剣を取り出すためのスイッチを押した。

 突き出された右腕の先、格納されている剣の柄が、勢いよく伸びる。細く尖った柄の先端は、槍のように、ミサイルポッドの基部を貫いた。

 ガキャッ、という音を立てて、ミサイルポッドが敵機から剥がれる。また、つばぜりあっていた剣も引かれ、敵機は完全にバランスを崩した。

 左の剣を、くるりと回転させ、持ち変える。倒れこもうとする敵機の腹部をめがけ、ぐっと踏み込んだ。

「はぁっ!」

 下から、すくい上げるように剣を振る。微細に振動する剣身が、強固なHFの装甲を、紙切れかなにかであるかのように容易く切り裂く。

 三機目の敵機も、あえなく爆散。爆発の逆光を浴び機体全体が陰になる中、〈アサルト〉のバイザーだけが、次の獲物を探すかのように輝いていた。





 二機がかりで襲ってきたHFをしりぞけ、ウィンターは基地の奥へと進んでいく。

 基地の迎撃兵器を、機関銃で黙らせる。施設破壊用の兵装が榴弾砲のみというのは、単機での強襲としては物足りないものがある。迎撃兵器を相手にいちいち榴弾砲を撃っていては主要施設に回す弾がなくなるし、かといって機関銃で破壊するのは手間だ。

 ――このあたりは改良が欲しいな。

『レーダーの範囲に二機います、警戒を!』

「了解」

 オペレーターの情報を受け、あえて飛ぶ。蜂の巣にされるかもしれないが、それより死角から突然突っ込まれる方が恐ろしい。

 見えた。二機、かたまって行動している。二機一組なのか? そうすると、最初に突出してきた一機はなんだ?

 敵にも、気づかれたようだ。銃口がこちらを向き、アラートが鳴る。今度は、右にバーニアを吹かした。〈アサルト〉は宙をすべるように横移動し、はなたれた銃弾をなんなくかわす。

 手にした剣を構え、敵機めがけて急降下、突撃。大きく弧を描くような機動で、銃撃を避けての接近だ。

 銃が当たらないことにいらだったらしい一機が、手にしたそれを投げ捨て、背中に手を伸ばしている。しかし。

「遅い!」

 その手が剣を掴むことはなかった。〈アサルト〉が、すれ違い様に胴体を切り裂いたのだ。

 続けて残る一機を狙おうとしたが、そいつは後退し始めていた。この期に及んで逃げ出すとは、つまり近くに仲間がいるということか。

「逃がさん」

 合流されると面倒だ。速やかに仕留めるべく後を追う。しかし。

「っ!」

 角を曲がったところで嫌な予感がし、バーニアを逆噴射させて急ブレーキをかける。目の前を、榴弾が通りすぎていくのが見えた。どうやら遅かったようだ。

 追っていた前の敵機も、反転して剣を抜いていた。榴弾が飛んできたほうを見ると、こちらも剣を構えている。さらに、その脇から一機、こちらの裏をかくように抜け出していったのが見えた。三方向からの挟み撃ちか。

 前と、右。突っ込んでくる。数的有利を活かした同時攻撃か。悪くない。だが。

 二機、迫ってきた。敵の剣が、振り下ろされる。それに対し、すでに抜いている左の剣で前を押さえ、右の敵には盾をかかげた。少ない動作で、ふたつの攻撃を受け止める。

 とはいったものの、これではただ受け止めただけだ。〈アサルト〉の両手はふさがっており、反撃の余地はないようにみえる。

 〈アサルト〉が、普通の機体であったなら、だ。

 コクピットのウィンターは、これまであえてさわっていなかったボタンに手を出した。〈アサルト〉の膝装甲が、突如展開する。新たに生まれた腕のようなそれは、先端に剣を握っていた。

 脚部に隠されていたサブアームが、それぞれ前と右の敵に向かって剣を突き出す。奇襲としては充分であり、二機とも逃げ切れず、貫かれた。

 まだ敵は残っている。敵機からすばやく剣を引き抜き、後ろも見ずに跳躍。空中でサブアームを収納し、高く飛びながら眼下を見据える。後ろから迫ってきていた一機が、まさに跳びあがろうとするところであった。その後方に、もう一機。

 跳んできた一機は、やはり剣を構えていた。剣先を真っ直ぐこちらに向けてきている。ぐっと突き出されてくるそれを、右腕で弾き、そらした。空中で空振り、体勢を崩したところを、切り裂く。その勢いのまま、残る一機へと向かった。

 後方にいた敵機は、まだ遠巻きにこちらを眺めていた。機関銃を捨て、剣を抜き放ってはいたが、こちらに向かってくる様子はなく、むしろ後ずさろうとさえしていた。

 ウィンターは、ためらわない。相手がどういう人間であろうと、戦場で相対したからには、倒さなければならない敵だ。

 一歩、また一歩と後ろへ下がろうとする敵機に、右足を払うように突き出す。膝のサブアームが握る剣が、そのまま足を刃へと変え、逃げ腰の敵機を、いとも容易く分断した。

『レーダーに反応、ありません。基地施設を可能な限り破壊し、離脱してください』

 慣性によってずるずるとすべりながらの着地をしつつ、オペレーターからの通信を聞く。今ので最後だったようだ。

「了解」

 答えつつ、ウィンターはふぅっと息をはいた。

『ウィーンーター! 貴方話聞いてた!?』

 この期に及んで、まだリナが怒鳴ってきている。面倒なので触れていなかったが、戦闘中ずっとこの調子であり、アラーム以外の音が全く頼りにならなかった。

「やかましい。お前のせいで苦労したぞ」

『えっ、なにそれ!? こっちは心配でたまらなかったのに!』

 ――関係あるか。

 思わず返しそうになったが、ここでお互い喧嘩腰で会話を続けると、無駄に疲れるだけだ。それよりは、適当におだてたほうがまだマシだろう。

「そうそう、膝のサブアーム。あれは役立ったぞ。かゆいところに手が届く感覚だった」

『えっ、あっ……で、でしょー? だから私は言ったの、近接戦闘はやったもん勝ちってね!』

 ――そんなこと言っていたか?

 興奮気味に喋られたことが多すぎるので、記憶にない。言っていなかった気もするが、今となってはどうでもいいことである。

 設計の自慢話を続けるリナをよそに、それにしても、とウィンターは考えていた。膝のサブアームは、確かに便利だった。一対多を主眼とするこの機体には、腕を増やすという発想はかなり合っている。現状、腕部兵装でHFにマトモな攻撃ができるのが振動剣のみ、というのが惜しい。

 さて、任務はまだ終わっていない。基地施設の破壊をしなければ、とペダルを踏み込もうとしたときだった。

 突然、ぐらりと衝撃が襲う。

『レーダーに反応!? 大きいです、警戒してください!』

 直後にオペレーターからの通信が来た。機体に異常はない。ということは、地震か何かか?

 しばらくして、〈アサルト〉のレーダーにも反応があった。識別不明。未確認兵器のようだ。

 不意に、あたりが暗くなった。いきなり日が落ちたわけではあるまい。まさか。空を見上げる。

「……なんだ、あれは……!」

 空は、覆い隠されていた。巨大な、浮遊する謎の兵器によって。

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