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剣王と魔術姫  作者: 熢火
剣人-第1章/王城に咲く血の桜
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剣人-談話

主人公の口調が安定しない(笑)

夜が明け、街を朝日が照らし始める時間帯。

ナールは宿の裏庭で、素振りをしていた。右手から生やした刀を、左手は添えるだけにとどめて振るう。

朝の数時間は、柔軟から始まり、筋力トレーニング、素振りなどの鍛錬をするのが日課で、毎日欠かさず行ってきた。


自分の実力に明確な目標が無くとも、現状維持ぐらいはしなくてはならない。

魔物が生息する街の外は勿論のこと、街の中も人攫いや盗賊が紛れていてもおかしくはなく、武力で解決しなくてはならない出来事は日常茶飯事だからだ。


『そこで満足しておるのか?後悔するぞ。取り返しがつかなくなってからの』


唐突に思い出した師の言葉。


ナールはそれを斬り捨てるかのように刀を振るう。

踏み込みながら剣を上段から勢いよく振り下ろし、必ずピタリと止める。そして、足を戻しながらもう一度振り上げ、踏み込みながら振り下ろす。

寸分の狂いもなく繰り返されるの動作は流れるようで、美しいとすら言えるほどだ。


『ぶれることのないその剣筋は賞賛に値する』

『が、それだけでは届かないことは数多ある』

『本当はわかっておるはずじゃぞ、ナール・リューグナー』

『いや、ーーーーー』

「ちっ」


ちらつく師の言葉と邪念が混じる自分の心に舌打ちして、脱力するように息を吐きながら剣を下ろした。

師匠の言葉が、今日は一段としつこく頭を掠めた気がした。


(ラウレを側においているからか・・・?)


頭にちらつく師の言葉に対し、だとしたら呪いだな、とナールは心の中で続けながら右手の剣を消した。

今日の鍛錬はここまでとし、シャワーで汗を流す為部屋へ向かった。

廊下ですれ違う毎に向けられる宿泊客の視線を全て無視し、部屋の鍵を開けて中に入る。


光がカーテンで遮られている部屋は薄暗く、ベッドの上の布団は膨れ上がっていた。


(ラウレはまだ起きんか・・・)


ナールはベッドから視線を外すと静かにドアを閉め、今度はシャワールームのドアを開けようと、ノブを掴もうとした。

しかし、それは叶わなかった。

彼が触れる前にノブが回り、ドアが開かれる。

なぜベッドの上の布団は膨らんでいるのか。

自分が導き出した解答が、誤答であることに気づくが遅い。


まず最初に目に飛び込んできたのは、強く抱きしめたら簡単に折れそうなほど細い体だった。

脂肪や筋肉はわずかしかなく、肋は浮き、胸のボリュームも少ないが、性別ははっきり判る体つきをしていた。

灰色の髪が裸体に貼り着き、局部は隠れているが、それが逆に性欲を掻き立てる。

次に、髪と同じ色の尻尾と耳が、驚いたようにピンッと立っているのが見え、最後に、大きく見開かれた青い瞳と黒い瞳が交差した。


体を舐め回すように見てしまったことに、ラウレと目があってから気づいたが、やってしまったものは仕方ない。

ナールは今日も開き直った。

いやぁいいものを見せーーーーーじゃなかったごめんなさい、と邪な心を謝罪に転化しつつ、床に額を擦り付ける。


「すまん。わざとではなく事故なんだ」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


沈黙が痛い。怒っているのか、泣いているのかすらわからない。

何も言わないラウレの顔色を伺おうと、恐る恐る顔を上げようとする。


ゴツンッ!!


だがしかし、それは足で頭を押さえつけられたことで防がれた。


「今顔を上げようとしたよね?」

「・・・」


ナールは答えない。

ここでどう答えても、やぶ蛇にしかならない気がしたからだ。


「・・・ナール?」


だが、ラウレの底冷えするような低い声で答えざる得なくなる。


何も答えなかったら現状が悪化する、と彼の本能が告げる。

もう脅迫である。


「やましいことは考えとらんお前が何も言わないから心配になって顔を上げようとしただけだ本当に他意はない確かに女の体に興味がないわけではないが今のは違う鬼畜老害スパルタ師匠に誓ってだ」


師匠に対する評価がとてつもなく悪が、事実なので訂正する気はない。


「本当に?」

「本当です」

「本当に?」

「ほ、本当です」

「本当の本当の本当の本当の本当に?」

「すみません。少し他意がありまーーーーー」


ゴシャッ!!


ナールは、ラウレの追求に耐えきれなくなり、ついに折れた。

そして、最後まで言葉を紡がせてもらう前に、彼は床と熱い熱いキスをした。


「変態変態変態変態変態!!最低最低最低最低最低!!クズクズクズクズクズ!!ケダモノケダモノケダモノケダモノケダモノ!!!!」


筋力が低下しているとはいえ、ラウレに罵倒と共に何度も後頭部を踏みつけられ、顔面から出血する。

踏みつけられることに、彼は快感を覚える性壁を持っていない。

なんとか弁明をしようと口を開く。


「ぢ、ちょっ、ど、まーーーーー」

「フンッ!!!!」


ゴシャッッッ!!!!


だが、それとほぼ同時に放たれた渾身の踏みつけで、ナールの意識は事切れた。





パンやスープ、サラダなど四百カーディでは妥当だと思われる量の朝食を口に運び、静かに食事が進む。

ナールはその量では足りないのか二人分、ラウレのも合わせて三人分頼み、一人分は既に平らげていた。


味は悪くない。むしろ美味しい。

だが、その美味しさを半減させるかのように、食堂の一席で食事をするナールとラウレが纏う空気は重い。

原因は無論先の一悶着である。


目を覚ました直後、ナールはラウレに対し謝罪した。

ラウレはそれを受け入れ、自分もやり過ぎたと謝罪した。

これで一件落着のはずなのだが、どうもギスギスしてしまっており、会話も少ない。


ナールは、朝食を済ませた後一人で冒険者ギルドまで行き、依頼を受けるつもりでいたが、それをまだラウレに言っていない。

今それを言うと彼女から逃げるかのようで、はばかられた。

ナールはスープを飲みながら、顔色を伺うように正面のラウレを見る。


彼女は、長い髪を鬱陶しそうに掻き分けながら食事をしていたが、彼の視線に気づき、食べるのを中断して顔を上げる。


「ど、どうかしたの?」


ラウレの問いかけに、とっさに思ったことを口にすることで、顔色を伺うようにしていたことを隠す。


「髪が邪魔なら、髪留めを買いに行くか?」

「ううん、大丈夫。お金はあるに越したことはないから」


ラウレがもっともらしい理由をつけて断ると、ナールは、気にするな、と前置きしてから返す。


「そのうち冒険者ギルドに行って稼ぐつもりだ」


当初は今日行く予定だったが、別に急いでるわけではない。数日先延ばしになっても構わないだろう。


「冒険者なの?」

「二年前に登録した。一、二ヶ月しか活動しなかったがな」

「ランクは?どういう依頼を受けてたの?」


ラウレは、ナールが冒険者だったことに興味を持ったらしい。矢継ぎ早に質問してきた。


ナールは苦笑しながら答える。


「依頼は低難易度のが多かったな。金が必要だったんだが、それでは収入が少ないのに業を煮やして、依頼外で新米には荷が重い魔物を何度か討伐したことがあった」


一度話すのを止め、一拍置き、苦笑を違う意味の苦笑に変えて続ける。


「おかげでCランクに上がったんだが、真似をして無茶をする新人が出るからやめろって、ギルドから注意された」


苦い思い出である。

金が必要だったのは、生活費と路銀を稼いで、できるだけ早く街を移動するのが目的だった。

長い時間その街に留まっていれば、実家の手の者に連れ戻される可能性があったからだ。

だが、最速の部類で昇格したことが噂となり、街をすぐ出た本末転倒な出来事だった。


「どうしてお金が必要だったの?」


唐突に、質問の内容が変わった。

ラウレは本当に疑問に思ったらしく、小首を傾げている。


確かに、収入が少ないことに業を煮やして、危険な魔物の討伐を始めるなど、焦っていたとしか捉えられない。


「それは話すと長くなるから、部屋に戻ってから話す。飯が冷めるしな」


ナールはそう言うと、スープを飲んだ。

味は半減することなく、美味しく感じられた。





「前にも言ったが、俺は実家を出奔した身だ」


食事を終え、部屋に戻ったナールは椅子に座った状態で、ベッドに腰掛けたラウレに言った。


「とある事情でな、家には居られなくなった。いや、居るわけにはいかなくなった、か」

「なにかあったの?」

「まあ、そうだな・・・」


ラウレの疑問に言いにくいそうに答えた。

だが、その様子は、どう答えるべきか悩んでいるようにも見える。


「監禁されそうになったから逃げた、ってところか」


嘘は言っていない。

ただ、大雑把過ぎるだけだ。

だから、誤解を招く。


「なにをしでかしたの・・・?」


ラウレが恐る恐るといった感じで訊いてきた。

監禁=犯罪。

彼女が最初に想像したのはそれだった。


「別に犯罪とかはしとらん。家の意向に反しただけだ」

「ナールって貴族なの?」

「元、だがな。それより、なぜ俺が貴族だと思った?」


ナールは、誤解を解いてすぐに投げかけられた質問に驚いた。


実家の意向に反するなど不思議ではない。貴族でも、平民でも、だ。

お前はあの家の者と結婚しろ、と言われる貴族もいれば、お前は使えないから売る、と言われる平民もいる。


ラウレがナールのことを貴族だと思った理由は、他の会話の中にあったはずだが、彼自身自覚がなかった。


「まず、ナールが盗まれたサーベルは、実家から持ち出したんでしょ?しかも相当の業物」

「ああ。だが、実家が鍛冶屋とか冒険者をやってる場合もあるだろ」

「うん。あなたの食事作法が上品じゃなかったらそう思ってた」


自分の指摘がそう返されたナールは、そんなところまで見てたのか、と内心舌を巻きながら渋面をつくる。


「崩してたつもりなんだが、わかるか?」

「なんとなくね」


その答えに、嘆息しながら呟く。


「これからは素手で食べるか」

「それは良くないと思う」


少し引きながらラウレは否定した。


彼女に素性が少し知られてしまったが、別に問題ない程度だ。

だが、これ以上踏み込まれるのはよろしくない。

少し強引に話の流れを本題に戻す。


「俺に居なくなられると、実家が困るのは目に見えてたんでな。追っ手が来るのも予想していた。だから作法も捨てたはずなんだが」

「お金が必要だったのはその為?」

「ああ。すぐに街を出る為に食費と路銀が必要だった」

「追っ手は巻いたの?」

「いまだに探し続けている連中もいるかもしれんが、たぶん俺だとは気づかん」


自信ありげにナールは言った。

ラウレは疑わしげな目を向けてくる。


「どうして?」

「まず、追っ手とは二年以上接触しとらん。だから、変化した体格と顔が障害になる」


だが、それは微々たるものだ。

ラウレも怪訝そうにする。


「それだけ?」

「手は打ってある」


ナールは、一言そう言った後に、話題を変える。


「そういえば、お前帰るあてはあるのか?」

「え?わ、私は・・・、その」

「?」


それは、ラウレが回復した後どうするかという質問だったが、彼女はなぜか慌て、どう答えるか考えるかのように目が泳いだ。


ナールは怪訝そうにしたが、彼女が答えるまで、口を挟まずに待った。


数秒後、ラウレは答えがまとまったようで、少し翳りがある表情で話し始める。


「人攫いにあった時、私以外の家族は殺されたの・・・」

「すまん、無配慮だった」

「ううん、大丈夫」


彼女は首を横に振った。


だが、家族は居なくなっても、故郷は残っているはずだ。そこに帰りたくはないのだろうか。

ナールは無神経だと承知の上で訊こうとしたが、察されたのか先に言われる。


「故郷は残ってるんだけど、ちょっと帰りにくいかな」


それは、距離や場所など物理的な意味ではなく、精神的な意味でだ。

ラウレは逃げているのだろう。

詳しくはわからないが、たぶん過去の出来事から。


だが、実家から逃げた自分が彼女に対して、逃げるな、などとは口が裂けても言えるはずもなく、ナールは一つ提案する。


「お前がよければ一緒に来るか?」

「どこに?」

「言ってなかったか?俺は旅人なんだが」

「いいの?」

「ああ。だが、体力が戻ったら何かしらやってもらうことになるが」


ナールの提案を聴いて表情が一気に明るくなったが、わざとらしい悪人顏で言われた条件を聴くと、自分の体を守るように抱いてベッド端まで後退する。


「何をさせる気なの!?」

「冗談だ。別になんでも構わんぞ。メイドとして俺に奉ーーーーー」

「変態!!」

「ボフッ!?」


ふざけ始めたナール顔面に、ラウレが投擲した枕が直撃した。


「そんなこと強要されるくらいなら、今すぐ出て行く!!」

「行かんでくれ!!俺が悪かったから!!」


そんな漫才のようなやり取りをして、ラウレが落ち着いた頃に、今度は真面目に提案する。


「まあそこは焦らずゆっくり決めればいい。それに、雑事やらを手伝ってくれるだけでも構わん。なんなら冒険者にでもなるか?」

「私弓は使えるけど、戦い慣れしてないよ」


ラウレは、ナールの冒険者になるという案に苦笑した。


「慣れればいい話だ」

「・・・そうだね」


ナールがあっけらかんと言うと、一拍置いてからラウレは笑った。


彼らは、この後も食事を挟みながら様々な話をして、昨日会ったばかりとは思えないほど打ち解けた。

結局雑談やらで一日潰すことになったが、別に前のように焦っているわけでもない。


ナールは、実家から逃げ出したばかりの頃や、師匠との修行の日々とは違った、久々のゆっくりとした休息に心が休まる気がした。


そして、猫獣人の少女との旅は、彼女の弱った体が元に戻るであろう、もう少し先の話となる。

ツイッターにて予定変更などお知らせしております。

@Hohka_noroshibi

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