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剣王と魔術姫  作者: 熢火
剣人-第1章/王城に咲く血の桜
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剣人-報復

みなさん一日ぶりです。


連日投稿は半年ぶりだったりします。

ナール達はアルフレートを倒した後、奴隷市場から難なく逃亡した。現在居るのは商業区南東あたりの路地裏の一つだ。

何をしているのかは、ナールの目の前で跪いている二人のゴロツキを見れば一目瞭然、恐喝だ。


「お、俺たちが悪かったっ。許してくれっ」


ただの恐喝ではなく、恐喝してきたのを恐喝し返してるのだが。


「上着を脱げ」

「「え?」」


ナールが要求しているのは金ではなく、服であることが意外すぎて、服を脱いだ後、何をされるのかまで深読みしたゴロツキ二人組は、露骨にドン引きする。


「・・・」

「ナール、剣を下ろして。服に血を着けたら怪しまれるでしょ。それに説明不足のあなたが悪い」


刀を出現させ振り上げた所で、ラウレに羽交い締めにされつつ説得され、ようやく刀を消した。


「上着をよこせと言っている」

「わ、わかった」


ゴロツキ達はすぐ上着を脱ぐと、誤解を解く為に言い直したナールに差し出す。


受け取ったナールは片方をラウレに渡すと、もう片方を着た。


ナールの着ていた服は胸から下と袖が無い状態だった為、人目を惹き奴隷市場の者達に見つかれば面倒だと判断し、適当に調達することにしたのだ。だが、金などあるはずがなく、過剰防衛(正当防衛)という名の恐喝をしたわけだ。


「・・・そういえば、ミナヅキって誰だ?」


ナールは思い出したかのようにゴロツキに訊く。


「し、知らねえのか?あんたと同じ黒髪黒目で冒険者やってる女だ。Sランクの凄腕だぞ」


どうやら有名人らしい。

この街アジェナでも黒髪黒目は珍しく、とても目立つ存在なのだろう。


アジェナから東へ行くと、黒髪黒目の人々が暮らすリントヴルムという国があるが、巨大な山脈を越えなくてはならない。

まず、山脈を越えるのは困難な上、外見の違いからトラブルに見舞われるなどの理由もあり、リントヴルムと最も近いアジェナですら交流がない。

偶に命知らずな者達が行き来するが、年に数人もいないだろう。


ミナヅキもそんな少数の命知らずな者の一人なのだろうか。


「ラウレ、知ってるか?」

「噂ぐらいは聞いたことあるけど・・・」

「ふむ・・・、まあどうでもいいか。お前ら、もう行っても構わんぞ」


ラウレの言葉を聴いたナールは一度思案した顔になったが、すぐに考えるのをやめ、ゴロツキ二人を追い払った。


ゴロツキ二人は、上着以外何も取られなかったことが拍子抜けだったのか、一度顔を見合わせた後、一目散に逃げて行った。


ナールはそれを視界の隅で捉えつつ、しゃがむとラウレに負ぶさるよう促す。


「行くぞラウレ」

「・・・あ、歩けるよ」

「・・・そうか、なら履け」


だが、彼女は歩くことを選んだ為、ナールは履いていた靴を脱いで譲る。


「ナールは?」

「あいつらはもう行ってしまったからな。裸足で構わん」


ゴロツキ二人が消えた方向を見つつ、口元を隠していたボロ布を外しながら言った彼の言葉を聴くと、ラウレはその優しさを嬉しく思うと共に、できるだけ迷惑をかけたくないとも思った。


「私が裸足でいいよ」

「俺は長い間裸足で修行していた時期があったんでな、足裏の皮膚も厚いし硬い。だから気にせんでいい」


ラウレを納得させるように説明したが、彼女の了承を得る前にナールは歩き出した。


彼女は慌てて靴を履くと、ナールの後ろまですぐに追いつき、彼の歩調に合わせる。


「どこまで行くの?」

「ダールグリュンという武具屋だ」


そう言ったナールの歩調は、痩せ細ったラウレが楽についてこられるほどゆっくりだった。





ダールグリュン武具店に着く頃には、ラウレは完全にへばってナールの背中に戻っていた。やはり奴隷生活で痩せ細った彼女には、数キロの道のりはきつかったのだろう。


 ダールグリュン武具店は、同じ煉瓦造りの奴隷市場より一回り大きい建物だった。

 その半分が鍛治場になっているのだから、どれだけの鍛冶職人が働いているかは言わずもがなだ。


店の前までナール達は来たが、ナールは背中のラウレを降ろす気配はない。


ラウレも降りたり背負われたりすることは、彼にとって迷惑だと思った為それに関しては何も言わなかったが、


「ナール。お金持ってるの?」


盗賊に無一文され、奴隷市場でもゴロツキからも金を奪うことがなかったナールの懐事情は気になった。


「まさかお金がないのに何か買えると思ってないよね?」


彼は人攫いのありありの手口に引っかかるような馬鹿、もとい世間知らずだ。


そのことを知っているラウレの心配もわからなくもない。


だが、そんな彼女の心配は杞憂に終わる。


「思っとらん。武器を見るだけだ」


ナールはそう言いながら、出てくる客とぶつからないように注意しつつ、他の客と同じように店の中に歩みを進める。


「見てどうするの?」

「盗賊に奪われた武器が売られていないか確かめる」

「どんな武器?」

「サーベルと短刀だ。あれば交渉して残しておいてもらう」


そう言った後、一拍空けてから補足する。


「両方ともできれば失くしたくない物でな。短刀は師匠に譲ってもらった物だから特にだ」

「サーベルの方は?」

「実家から出奔する際に持ち出した」


そう言うのと同時に、ラウレとナールの視界に店内の状況が目に飛び込んだ。


「す、すごい」


ラウレが感嘆の声を漏らすのも無理はない。数え切れないほど武具が並べられ、多くの客で賑わっていた。


「こういう店に来るのは初めてか?」

「う、うん」


ナールはラウレの返答を聴きつつ歩みを進め、近くの女の従業員を呼び止めた。


「すまんが、今日この店に売られた武器で、柄頭に桜が彫られたサーベルと、腹にリントヴルムの竜が彫られた短刀はなかったか?」

「既に売れたはずです」


入店してわずか二十秒。

ナール・リューグナーは撃沈した。


「一応確認しますか?」

「あ、ああ、頼もう」

「少々お待ちください」


彼は従業員の申し出を受けながら、嘆息した。


(両方とも業物だったからな。もう取り戻せないかもしれんな・・・)


ナールは悲観的な思考をしながら、従業員が戻って来るのを待つのであった。





ナール達は居住区の東を歩いている。ラウレはナールの背中に負ぶさる形だが。


ナールが盗まれたサーベルと短刀は、既に売れてしまっていた。

駄目元で誰が買ったかを訊いてみたものの、顧客情報を見ず知らずの彼に教えてくれるはずがなく、徒労に終わった。


「はぁ・・・」


そしてナールは、そのことについて本日六回目となる溜息を吐いた。


(このことが師匠に知られたら半殺しにされかねん・・・)


半殺し。冗談抜きで寿命や命を半分にされかねない。


ラウレはそんなナールの絶望に染まった顔を見て、心配そうに声をかける。


「だ、大丈夫?」

「ああ、ばれなければ問題ない」

「?」


彼女は同じやり取りをして、その中で本日六回目となる疑問符を浮かべた。


そして、そんな応酬が六回目を終了してやっと気持ちを切り替えたナールは言う。


「とにかく、今は盗賊だな。見つけたらたっぷり礼をしてやろうではないか」

「私には関係ないけど・・・」


負ぶさっているラウレは、黒い笑みを浮かべたナールに呆れつつ、的確に突っ込んだ。


彼はそれを無視して続ける。


「だがこれだけ広いと見つけるのも大変・・・、でもなかったな」

「?」


前言を途中で否定したナールの視線の先を、疑問符を浮かべながらラウレも追う。


そこには、泣いている幼い少女をあやしている女が一人。

親子にも見えなくないが、女の金髪と少女の茶髪、ナール達から見える両者の横顔の共通点のなさから、それは否定的に映る。


「あの二人がどうかしたの?」

「金髪の女、盗賊に襲われてるふりをしていた奴だ」

「・・・いい人そうに見えるけど」

「すぐに化けの皮が剥がれる」


一度その姿に騙されているナールは、ラウレの率直な感想を、うんそうだね、と受け入れない。


女はナール達に気づくことなく、少女をあやし続ける。


「ほら泣かないの。飴ちゃんあげるから」


懐から包みを取り出して、少女に差し出す。


「いい人そうに見えるけど」

「・・・すぐに化けの皮が剥がれる」


だが、少しは落ち着いたものの、一向に包みを受け取ろうとしない少女に、女は包みから飴を取り出して食べさせてあげようとする。


「はい、あーん」


少女は少し逡巡した後飴を口に入れた。


「いい人そうに見えるけど?」

「・・・す、すぐに化けの皮が剥がれる」


女は少女が飴を食べたことに満足そうに笑うと、頭を撫でつつ問いかける。


「お家、どこかわかる?」


少女は女の問いかけに首を横に振った。


「いい人そうに見えるけど!?」

「・・・す、すぐにば、化けの皮が剥がれる」


女は少女の手を握ると歩き出そうとする。


「じゃあ一緒に探しましょ」


少女は、コクリ、と小さく頷いて歩き出そうとするが、唐突に倒れた。女と手を繋いでいる為横たわることはなかったが、脱力して意識が朦朧としているようだ。


それを見た女は、特に慌てる様子もなく言う。


「あなたを買い取ってくれる奴隷商人をね」


その顔は誰がどう見ても下衆顏だ。


「悪女ね」

「ほれ見ろ」


ナールはラウレが言った後に、ドヤ顔で勝ち誇った。


睡眠薬でも飴に混ぜておいたのであろう女は、少女を抱えると早歩きで立ち去ろうとする。


ラウレはそれを見て眉をひそめる。少女がこの後どうなるか想像でもしたのだろう。


「どうするの?」

「泳がせてアジトを突き止める」

「奴隷市場とかに直行だったら?」

「ぶちのめしてアジトの場所を吐かせる」


ナールはさらりと言ってのけると、女を尾行し始めた。


女は手近な路地に入ると、尾行を警戒しているのか何度も角を曲がった。


ナールは彼女を屋根の上から追った。後ろを警戒する余り、上に気が回らないようで気付かれない。

彼が屋根から屋根に飛び移る際、力の流し方が異様に上手いのか、着地時すら足音がしないのも関係しているだろう。


女が向かっていたのは、盗賊のアジトだったらしく、地下牢で男から聞き出した通り民家としては小さく、ボロボロとまではいかなくとも、お世辞にも立派とは言えない三階建ての家に女は入って行った。少女を攫った現場から十分ほど歩いた場所で、商業区ではなく貧民区寄りだ。

女がアジトだと思われる家に戻る間、誰にも遭遇しなかったことから、時間帯や道の選択が絶妙で手慣れていることが明白だった。


「ラウレ、ここで待ってろ」

「大丈夫なの?」

「荒事には慣れてるんでな。問題ない」


ナールは盗賊のアジトから五件分引き返し、距離が十件分開いたあたりでラウレを二階の屋根の上ーーーーー盗賊のアジトからは死角になる場所ーーーーーに降ろすと、彼女の心配そうな視線を背中に感じながら、単身で盗賊のアジトに向かった。


盗賊のアジトの周りは、貧民区寄りの居住区である為か平家が大半、二階建てが疎らにある程度、三階建て以上は稀だ。屋根の上を行けば確実に見つかる。

だからと言って、路地をこそこそと歩いていも見つかれば怪しまれること間違いなしだろう。

では、どうすればいいか。

簡単だ。

こそこそせず堂々と歩けばいい。


ナールは通りすがりの人のふりをし、盗賊のアジトに近づく。


近づいてからは時間との勝負だ。

通行人が盗賊のアジトの下ーーーーー上階からは死角となる場所ーーーーーに入ってから、もう一度見える場所に出て来なければ、怪しんで様子を見に来るはずだ。その前に屋根を登り、警戒されないうちに屋内へ侵入。その後は、攫われた少女が人質にされないように制圧すればいい。


計画を立て終える頃には、丁度盗賊のアジトの下に来ていた。


屋内は賑わっており、話し声が外まで漏れている。そのうちのほとんどが、声と声が重なって雑音にしか聞こえないわけだが、よく聞き耳をたてると、この前攫った奴はいくらで売れただとか、次の標的はどうだとか、盗賊らしい下衆な話題で持ちきりだ。


こんな状態でいる時があるのになぜ衛兵に捕まらないのか、というナールが抱いた疑問が、今日のこの騒ぎは彼から奪ったサーベルと短刀が予想以上に高く売れ、ぼろ儲けした嬉しさにハメが外れたという答えに辿り着くのはいったいいつだろうか。

少なくとも今ではない。

ナールは盗賊のアジトの屋内に向いていた意識を、屋外に向け直す。


(行くーーーーー)


か、と心中で呟き、計画を実行に移そうとした。


だが、その瞬間、軋みながら盗賊のアジトのドアが開いた。中から喧騒が漏れる。


ナールは既に膝を曲げ跳躍の準備に入っていた。


喧騒と共に外に出て来たのは、仲間の盗賊を襲うふりをしてナールにぶちのめされたうちの一人。

ナールの顔を見たその男は、緩んでいた顔を驚愕に染め上げて叫ぶ。


「な、なんでこ、ブフォ」


真上に跳ぼうと溜めた力を、男に向かって飛びかかるのに使用し、接触面に剣の切っ先を四本横並びに生やした右手の拳を顔面に叩き込んで黙らせる。

肉が抉れ、骨が砕ける生々しい感触が直に伝わってきた。

計画が崩れ去るのを理解したナールの判断は迅速だった。

拳で黙らせた男が出てきたドアから中に入る。


中は昼間から宴状態だった。酒を飲み、歌を歌い、騒ぎまくっている。

入って来たナールに気づいたのは、全体の三分の一ぐらいだろうか。

酒で頭が回らないのか、間抜けな顔で彼を見ていた。


ナールは、その中で既視感のある顔の一人に一瞬で肉薄し、右手に生み出した刀で斬りつける。先ほど少女を攫った女だ。


彼女の体が、地面に崩れ落ちた。


死んだのではない。

左脚を斬り飛ばされ、支えを失ったのだ。

絶叫が響き渡る。


宴は終わりを告げた。

読んでくださってありがとうございます。


またいつかお会いしましょう。


Twitter始めました。

@Hohka_noroshibi

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