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剣王と魔術姫  作者: 熢火
剣人-第1章/王城に咲く血の桜
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雷刀-暗殺者

電気付けっ放しで寝ても、朝まで起きなくなった自分に呆れています



前回のあらすじ

ミナヅキは呆気なく奴隷達を倒した。一度は助力を断るナールだったが、最後は彼女に説得され、共に先へ進む。

ナールとミナヅキは、大広間を右の扉から出た。警戒しながら中庭沿いの廊下を進む。

外からの襲撃も想定しているが、廊下の明かりが窓に反射し、中庭は視認できない。第六感含め、他の感覚を頼る。

そうして進んでいると、中庭の半ば辺りで二人同時に足を止めた。


ナールは声を潜めた。


「気がついたか?」

「ああ」


声を抑えず肯定したミナヅキが、約十メートル先の曲がり角を睨んだ。


「気が付かないとでも思ったか?隠れていないで出て来い」


角の陰が揺れ、人の形をとる。


「流石はSランク冒険者、と言いたいところだが、より褒めるべきはナール(標的)の方か・・・。余裕で殺せる雑魚と思ったが、先ほど(・・・)と違って気づいていたな?」

()は比較的冷静なものでな」


曲がり角から出て来たのは一人の男だった。黒い外套に、顔布で口元を隠している。

会ったことがある。高級住宅街を出たナールに、伝言と通行証を渡した男だろう。

隠密性と容姿からして、おそらく暗殺者だ。


「大したものだ。まさか本当にここまで来るとは・・・」

「大したことじゃない。俺は助けられてここまで来た。そしてここも通らせてもらう」

「いいだろう」


ナールの宣言を男は受諾した。ただし、交戦の意ではない。


「早く行け。王子殿下を待たせるな」


壁際に寄り、あっさり道を譲った。


拍子抜けな対応に、ミナヅキは目を細めた。


「どういうつもりだ?」

「俺は『邪魔者』の足止めを命じられた」


男は外套下の両腰から二本の片手剣を抜いた。

剣の光沢が歪んでいる。液体が薄く塗られているようだ。毒か魔術薬だろう。


「『本命』以外は通すな、とのことだ。ミナヅキ・ソウゲツ、お前はここで止まってもらう」


暗殺者であれば真っ向勝負には向いていないはずだが、Sランク冒険者相手に余裕そうだ。何か策があるのかもしれない。

Sランク冒険者と対等に渡り合うことができる何かが。


ナールとミナヅキは一瞬だけ視線を交えた。


「ナール、先に行け。すぐに追いつく」


正直、敵の思惑通りミナヅキを一人残すのははばかられるが、信頼すると言った手前だ。死ないとも約束した。

ここは任せよう。


「・・・頼んだ。ただし十分気をつけろ」

「私は心配無用だ。拐われた娘の身を案じろ」


ナールは暗殺者を警戒したまま、彼が譲り空けた廊下を慎重に通った。


「警戒するな、というのは無理な話か・・・。中庭を過ぎてから二つ目の曲がり角を左に行け。そのまま進めば階段がある。登れば謁見の間だ」

「・・・」


隣を通過する際、ご丁寧に道を教えてくれた。戦意も感じない。


ナールは、飛び道具や魔術に対処できるくらいの距離を置いてから、背を向けて走り出した。


中庭を過ぎる頃、金属音と窓ガラスを突き破る音が連続して響いた。

振り返らない。少年は、足を止めず突き進むことを選んだ。







ミナヅキは遠ざかるナールを見送っていた。

小さくなった背中は、中庭を過ぎる前に遮られる。


「随分信頼されているようだな」

「・・・」


廊下の中央に立った暗殺者は、無視されたことに構わず語りかけた。


「もっと拘泥するかとーーーーー」


語りかけたが、一瞬で間合いに踏み込まれた。取り付く島もない。

殺意を纏った黒い鬼が下から覗き上げる。


「っ!?」


世間話に花を咲かせる気はない。ミナヅキの抜刀術がそう言い放った。


咄嗟に身を捻り、左手の剣で受けた。

驚くほどに呆気なく剣は斬り飛ばされ、左肩も深々と三分の二は斬られた。腕が落ちなかったのは、剣で軌道が逸れたおかげだろう。


「ぐァぁッ」


灼熱が襲うと同時に、極寒の眼差しと目が合った。

ーーーーー死ね。


(まだ次がッ・・・!)


反射的に右手の剣を立てて構えた。返す刀の横薙ぎを防ぐ。

ガキィィンッ!!と剣がたわみ、骨が軋む。


衝撃に逆らわず跳ぶと、窓を突き破った。そうしなければ剣と骨が折れていた。


(ち、治療を・・・!)


浮遊感の中、持っていた回復系統の魔術道具に魔力を通した。高位の魔術道具がすぐに傷を癒す。

痛みが和らぐのを鮮烈に感じながら、受け身を取り中庭に着地した。


灯が少ない薄暗い庭は、王城とは思えないくらい質素だ。あるから一応手入れをさせている程度の園芸しかなされていない。エクニスの興味の無さがうかがえる。

遮蔽物はほとんど無く、ミナヅキ相手には不利だ。


そのせいもあり一息つく暇もない。左腕の状態を確認することすらせず、 その場から全力で飛び退った。


割れた窓から砲弾が撃ち出される。灯に照らされた薄暗い空間でも際立つ黒弾。

その機能は、貫通ではなく斬絶だ。


先程まで立っていた地面に、割創がつくられるは見なくてもわかった。


(どんな鍛え方をすればあの攻撃を何度もッ!?)


黒髪の少年に対する場違いな疑問を除去した。それどころではない。

足がもう一度着地する前に、左手で抜いた二本のナイフを連続で投擲した。


「《発火(イグニース)》ッ、《雷撃(トニトルス)》ッ」


紅蓮の花が咲く。

最初のナイフが小規模の炎を巻き起こし、紫電を帯びた二本目のナイフがそれを突っ切る。目くらましを含めた二段構え。


小賢しい。

ミナヅキは魔力を込める必要もなく一刀で弾き返した。強靭な闘気で感電することもなかった。


それでも稼いだ時間を利用し、着地と背後腰の剣をくことはできた。


(化け物め・・・!)


命令は足止めだ。勝たなくていいが、生き延びるのですら一苦労だ。

魔術道具を警戒し、攻める手を止めたミナヅキに話しかける。少しでも動揺を誘い、時間を稼ぎたい。


「『雷刀』、流石の疾さだ・・・。人を斬ることに躊躇いもないと見える。今まで何人斬ってきたんだ?」

「・・・」

「無視、か。つれなぃ、っ!」


魂胆を見破ったのか、ミナヅキが重心を落とした。


隠そうともしない殺気に喉が萎縮した。闇夜のような双眸と痛烈な斬撃を心身共に思い出す。

体が動いたのは染み付いた反射運動だ。


彼女の姿が消え、遅れて庭の土が爆ぜる。


もう一度、袖に隠していた魔術道具のナイフで目くらましを試みる。投擲というより、ただ手放したと形容するのが相応しい投げ方だった。


「《(イグニィ)ーーーーー」


詠唱し終える前に、ナイフごと弾き斬る軌道で逆袈裟斬りが見舞われた。


「くっ」


なんとか剣で流すが、まだ一撃目だ。

距離を取る猶予すら与えて貰えず、連撃が殺到する。

二本の剣を駆使して致命傷は避けたが、浅くない裂傷が身体中に刻まれた。そして、斬撃の数が二桁に届く頃ーーーーー、時間にして僅か数秒だが、左手の剣が弾かれた。返す刀の攻撃は残る右手の剣で辛くも防いだ。

次は凌げない。

左手の剣が弾かれた時点で、外套の下に隠し持っていた魔術道具に魔力は通してある。


紫電を帯びた二本の鎖がミナヅキに襲いかかる。

先端に矢じりのような刃を付けた、うねる雷鉄の蛇。雷撃はナイフとは比べ物にならないくらいに強力だ。


同時に、脚に装着した魔術道具にも魔力を通しておいた。足元で爆発のような風が生じ、距離を取ることができた。

接近されれば防戦一方だ。これ以上の接近を拒み、使い捨ての魔術道具を次々に発動させる。


一帯の地面を覆う鋭利な霜柱。

獲物を噛み穿つまで追い続ける風の猛犬。

周囲四方から圧潰しようと隆起する岩石。

スライムのように流動し拘束と溺死を狙う水塊。

家を一軒吞み込める規模の火炎放射。


鎖の蛇を難なく斬り、追撃の一歩を踏み出そうとしたミナヅキの足元に、白く短い芝生が生い茂った。足止めの一手。今更引けない所まで足は出ている。


「ぬかったな!」

「笑わせるな。道具頼りだけか」


仮に引けたとしても、引く必要などどこにもない。


グシャッ、と耳触りの良い音が鳴った。

ミナヅキは霜柱を薄氷の如く踏み潰した。


「なっ!?」

「驚くな。『剛身流』にも及ばない魔力操作だ」


感電防止として、腕と刀に魔力を通して鎖を斬った。同じように魔力操作を行えば、普通の霜柱と変わらない。

肉体の強度が変わったわけではない。レジストに似た魔術対策だ。


踏み砕いた一歩を踏み込みとし、唸り声のように風が渦巻く数匹の猛犬を迎え撃つ。

一匹一刀で十分だ。中心付近を刀で薙げば、纏った魔力で術を構築している魔力(魔術式)を乱すことができる。

斬られた猛犬達はただの風に変わり、彼女の髪を揺らした。


その対処法は、岩石も、水塊も大差ない。その場で一転、四方で起立した岩を斬り裂き、再度の斬撃で水塊を弾き散らした。

最後の炎は、弾き散らされた水が壁になった。ただ質素な園芸を燃やし、氷の芝生を溶かすばかりで無意味に通過する。


「多彩なだけの虚仮威しだな。ナールの方が手強かったぞ」

「くそがっ」


魔術道具を浪費して稼いだ距離は費えた。剣で応戦したのではさっきの二の舞になる。


(なら・・・!)


ミナヅキが踏み込むタイミングに合わせ、暗殺者は外套を脱ぎ捨てた。

視界を奪ったのも一瞬、すぐさま切り裂かれた。

その一瞬のうちに、外套を放ったことで伸び切った左腕の前腕を水平に構えていた。


毒が塗られた四本の仕込針と、それを弓を射る要領で撃ち出す小型の射出台。右手の剣を離し、射る。

しかし、全て同時発射では四本並列でしか飛ばない。ミナヅキからすれば防ぐのも容易い。

全て一刀で叩き落とされた。


それも折り込み済み。左手は、離した剣を掴んでいる。手首を返す最小の動作で切っ先を相手に向け、後ろに引いていた右手を突き出した。

勢いは殺さないまま途中で剣を掴み、虚を突く渾身の刺突。


ミナヅキは一歩退き、上半身を反らすように腕の外に避けた。恐ろしい反応速度と身体能力だ。

内に残った刀の反撃で胴体を切り分けられるだろう。

だが、


「まだだッ!」


肘に仕込まれていた機械じみた物体が、ミナヅキの回避先に現れた。

中心に風の魔石を据えた魔術道具。大量の魔法陣や刻印やらが描かれている。


効果は消滅。正確には、それに似た現象。

道具を中心に風の刃を無数に発生させ、超速で乱回転する。時間にして半秒にも満たないが、副次的に発生する風圧で切り刻んだ物体は吹き飛ばされる為、消滅に似た現象が起こる。

範囲は限りなく狭いが、ミナヅキの頭部と刀を消し飛ばせる。自分の右腕も同様だが、化け物相手には安い対価だ。

元々は投擲して使用する為発動には詠唱が必要だが、自損覚悟の奥の手として、魔力反応でも発動できるように改造してある。


渾身の一撃すら布石にし、右腕を犠牲にした数段構えの決定打。

直後にミナヅキの顔が消え失せることを想像し、勝利を確信した暗殺者の口元には笑みが浮かんだ。


(俺の勝ちだッ!)


ミナヅキが体の捻りを右から左に反転させる。


回避にはもう遅い。揺らがぬ勝ち筋に、優越すら覚えた。

だからこそ、予想外の事態に出たのは間抜けな声だった。


「へ?何・・・、で?」


何で。

なぜ?


なぜ斬撃が、下から来る(・・・・・)


腕ごと真っ二つにされた魔術道具の機能が停止する。

何事もなかったように紡がれた、聞き慣れない流派の名が耳に残った。


「『双月流抜刀術』」

「っァ!?た、短刀だとっ!!??」


双月流。左手による、短刀の抜刀術。

体を左に捻ったのは、回避ではなく攻撃の為だ。


「まさか飾りだとでも?」


馬鹿を言うな。純粋な刀としての質だけでもミナヅキが知る刀の中でも最上位だ。


とどめは、右手の刀での刺突。


暗殺者は脚に装着した爆風の魔術道具を使い、なんとか避けることに成功した。

腕を失ったことで生じた重心の乱れで、着地はままならなかった。血に濡れた体は、土をよく吸付けた。


追撃は、来なかった。


「なぜ追撃して来ない。地面に這いつくばった俺を殺すなど朝飯前だろう?」

「私はお前と違って、相手の息の根が止まるまで油断しない。刺突で殺せなかった時点で、お前には自滅覚悟でも魔術道具を使う機会ができた」


暗殺者は、会話の最中に回復の魔術道具に魔力を通し、腕の傷口を塞いだ。回復系統の魔術道具はこれで最後。


他の魔術道具も大半を使い果たした。自分諸共ミナヅキを殺せる魔術道具、あるにはあるが詠唱が必要だ。

追撃があれば詠唱の間に殺されていたが、彼女の深読みに救われた。


「・・・くっはっはっはっ、確かにその通りだが、あだになったな。その用心深さに感謝する」


暗殺者がよろよろと立ち上がると、中庭を囲む王城の窓が四方一斉に破られた。

何かが飛び出し、中庭に着地する。


主人(権限)に割り込んでおいて良かった。最優先者にはなれなかったが、危機に陥ればこの通り。判定が甘いのか、最優先者の命令が強過ぎるのか、遅い到着だが間に合った」

「奴隷か・・・」


《殺戮奴隷》。数は四人。

大広間で相手にした奴隷よりも、屈強な体つきをしている。


「こいつらは完成品に近い。大広間で戦った連中とは別物だ。俺もな(・・・)


暗殺者は顔布を取り払った。

顔布で隠されていたのは口元だけではない。首回りもだ。


晒されたのは首輪。彼自身も《殺戮奴隷》。


「自分で着用すると不都合が出やすい。本来の使用法から外れるせいで弊害がある」


肉体の自損に限った話ではない。

一つは身体の自由が利かなくなること。身体の制御は『首輪』に支配される。負傷しても、逃げたくても戦い続けることになる。

さらにもう一つ、一度目の命令以降の受諾が不安定になること。主人であり奴隷だ。


支配する側であり、服従する側である。

従う側でもあり、命令する側でもある。

命令を変えたくても変えられない状態になりかねない。


「だが、お前のことだ。四人では足りないだろう。追いつかれて背中を斬られるのは御免だ」

「できれば使いたくないが、使わなければ勝てない。そう言いたいのか?」

「話が早くて助かる」


体勢を立て直す機会は与えて貰えないだろう。逃げようとすれば追って来る。足の速さでは敵わない。


「見逃してはくれないだろう?」

「無論」

「お前自身、退くという選択は?」

「笑止だ、勝てる戦いから逃げる理由も、義理の無い相手を逃す道理もない」

「そうか、なら」


暗殺者は残った手に、隠し持っていたナイフを握った。


「第二ラウンドと行こうか」

読んでくださってありがとうございますm(_ _)m

書き溜めが尽きる...次話は10/1更新予定です。


twitterにて更新予定変更のお知らせ&友人M氏のイラスト公開中

@Hohka_notoshibi

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