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剣王と魔術姫  作者: 熢火
剣人-第1章/王城に咲く血の桜
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剣人-脱出

みなさんお久しぶりです。


銀双の改稿や、リアルの都合が悪い日々が続き、かなりお待たせしました。


エタったんじゃね?と思われた方が少なからず居たと思いますが、エタるなら報告します(笑)

振るわれた腕を身を低くして避け、すれ違いざまに自分を捕まえようとしていた男の脚を両刃の剣で斬りつける。

行動に支障をきたせば、ナールを追うのは難しくなることからそれ以上追撃せず、迫って来る他の者達の攻撃を避け、殺さない程度の攻撃で無力化していく。

ナール達は地下牢を抜け、外を目指して奴隷市場の煉瓦(れんが)造りの建物内を逃げ回っていた。


建物の中は灯りで満たされており、貴族も来る為か綺麗で清潔感があり、廊下の両脇に設置された牢獄の中に入っている奴隷達も、地下に居た奴隷より健康そうだ。


そんな綺麗な木製の廊下に敷かれた、これまた綺麗な絨毯に、彼は赤い水玉模様を作り上げていく。


襲いかかって来るのは奴隷商人に雇われた用心棒がほとんどだが、中には客として来た貴族の護衛も襲いかかって来ることもあった。

逃げ出した奴隷を捕まえたことで奴隷商人に恩を売って、『目玉商品』を優先的に回してもらうなどの魂胆が見え透いている。


だが、ナールはそんなことお構いなしに倒してきた。その度に斑点ができる。

背中には軽いとはいえ、一人の少女を抱え、左腕は彼女を支える為に使えない状態なのに、だ。


その場に居た奴隷商人は、そんなたった一人の相手を捕まえられない状況に苛立ったのか、用心棒達に怒鳴りつけた。


「一人相手になにをしている!生死は問わないっ。魔術を使っても構わん!!」


魔術。それは自身が持つ魔力を詠唱と言う補助を得て、イメージを安定化、様々な事象を引き起こす術。


「ひ、『火よ』」


一人の男が詠唱を始める。


それと同時に、ナールの周りに居た者が我先にと逃げ出した。


連携がなってない。これでは詠唱している者が無防備だろう。


「『球体となりて』」


ナールは詠唱する男を放って置いて、周りから人が居なくなった好機を逃さず、廊下を駆け出す。


詠唱する男の掌に魔力が集まり始め、詠唱を進めるごとに作り出された火球が大きくなる。


ナール達が居る廊下は幅はあるが直線の為、遮蔽物はない。

人なら進行方向にも居るが誤射や巻きぞいを恐れて、魔術の標的に自ら近付こうとする者は居ない。その間は逃げ放題だ。


「逃げないでそいつを止めろ!!」


奴隷商人が喚いた。だが、誰も動こうとしない。


そうしている内に、詠唱が完了する。


「『敵を焼き尽くさん』」


人の頭サイズの火球ができていた。


そして、魔術を唱える。


「《火球(イグニース・スパエラ)》!!」


火球は高速でナールに迫った。正確には、背中におぶさっているラウレにだが。


「ちょ、う、撃ってきたよ!?」

「問題ない」

「大問題よっ!!」

「少しは信用し、ろっ!」


(イグニース)(アクア)(ウェントゥス)(テッラ)の基本四属性の中で火属性は最も攻撃特化している属性だ。

上から神級、超級、上級、中級、下級の中で、《火球》が最も低い下級魔術とは言え、人を火だるまにするなど造作もない。


だが、ナールは臆することなく至近距離まで火球が迫った所で反転。裏拳気味に逆袈裟斬りを放つ。


銀閃を境目に真っ二つに斬り裂かれ、半球になり、安定性を失った火球は数メートル後ろで爆散し、火を撒き散らした。


「ぎゃあぁぁぁっ!!!!」

「あちぃっあちぃっ!!」

「も、燃えるぅっ!!!!」


被害に遭ったのは彼の後ろに居た客や用心棒達で、服や髪に火が引火して消そうと必死にのたうち回る。


その反対、魔術を放った男の方に居た者達は、


「魔術を斬った・・・!?」

「しかもあんな綺麗に・・・!!」


ナールの剣の腕に驚愕した。


魔術はそう簡単に斬れるものではない。

土属性などの固体物資をそのままぶつける魔術を斬るならまだしも、火属性など質量がない魔術を斬るには技術がいる。

着弾したと同時に爆発したり、そのまま剣を素通りしてしまうなど困難を極めるからだ。


だというのに、斬った《火球》は真っ二つになったあともしばらくの間安定していた。それが彼の剣の腕前の証拠。


そんなナールは、


「熱っ!!」


黒髪を隠す為に巻いていた服だった布に火が引火したことに気づき、それを咄嗟に取り払った。


幸い火傷はなかったが、黒髪が露わになる。


決めたつもりで最後にドジを踏んだが、やってしまったものは仕方ない。

ナール開き直りつつ、《火球》の被害に遭った者達の隣を悠然と走り去っていく。


(周りに多数の人が居る状況で火属性魔術を使うからこうなる)


別に魔術で殺す必要はなく、足止めや注意を引くことでもよかったのに、わざわざ殺傷能力の高い魔術を行使したことに呆れた。


「に、逃がすなぁっ!!」


奴隷商人の怒声で、唖然としていた用心棒達がやっと動き始めた。


出口はもう視認できる距離だ。


(このままなら逃げ切れるな)


そう思った矢先、エントランスに、大剣を背負った二メートルを超える巨体を持つ男が入って来た。


用心棒か、客か、ナールは判断しかねたが、答えはエントランスにも居た奴隷商人が言ってくれた。


「バルドゥル、あいつを捕まえろっ!!殺してもいいっ!!」

「まっ、仕事だからな」


筋骨隆々で、その逞しい肉体に見合う大剣。

威圧感を与えるその姿は、立っているだけで店での犯罪を防げそうだ。


バルドゥルと呼ばれた男は背中の大剣を抜刀すると、上段に構えて叫ぶ。


「来いっ。真っ二つにしてやる!!」


それに対し、ナールは目を細めて、走る速度を上げる。


バルドゥルは何も言わず、ギラついた目でナールを睨みつける。


「突っ込むつもり!?」

「あんな二流剣士には殺られん」


ラウレの悲鳴に近い叫びを流すが、彼の言葉を聞いたバルドゥルは青筋を浮かべた。


「上等だぁっ!!」


そんな怒声に走る速度を落とすことなく、バルドゥルの元へ走る。


そして、バルドゥルはナールが攻撃範囲に入る直前に、大剣は振り下ろした。


そのまま突っ込めば、攻撃範囲に入ると同時に大剣が直撃する。走っていた勢いもあり、そう簡単には止まれない。


だが、バルドゥルの大剣がナールを真っ二つにすることはなかった。

それどころか傷一つ付けられず、彼の鼻先を通過し、木製の床にめり込んだ。


「なにっ!?」


驚愕したバルドゥルの視線の先には踵で急ブレーキをかけ、膝を曲げて急停止したナールが居た。

彼は中肉中背の男から奪った靴に穴が空いたのも気にせず、踵から剣を出現、もとい生やしてスパイクとしてブレーキをかけたのだ。

そして、体が慣性で前に行こうとするのを膝を曲げてわずかに止めると共に、スパイクを消すと、曲げた膝に溜まったエネルギーを解放、バルドゥルに飛びかかる。


「すぐ頭に血がのぼる。攻撃を避けられた後の対処ができない。だから二流なんだ」


空中で体を捻り、相手の側頭部を狙って右脚の膝蹴りを放つ。


鈍い音と共にバルドゥルは近くに居た奴隷商人を巻き込んで倒れこんだ。


「どわぁっ!?」


あの巨体だ。奴隷商人の方は骨折したかもしれないが、ナールの知ったことではない。

痛そうに喚く奴隷商人の上で、バルドゥルは白目で倒れているのでそのまま逃走しようとしたが、奴隷市場の入り口に一人の男が立っていたことで中断する。


「なんだ、バルはやられたのか」


バルとはバルドゥルのことだろう。


バルドゥルを見て呟いた男は、無精髭にじゃっかん癖のある茶髪を切り揃え、長身で無駄のない体、腰にはロングソードを差している。


「アルフレートッ。高い金を出してお前を雇ったんだ!!それなりの働きをしろ!!」

「わぁってる。ちゃんと戦うから安心しろ」


エントランスに居た奴隷商人が喚くと、アルフレートと呼ばれた男は気の無い返事をしつつロングソードを抜剣し、両手で剣を持ったままだらりと脱力した。


「ラウレ、降りろ」


相手はバルドゥルより圧倒的に強い、と直感で理解したナールはラウレを降ろす。


空気が張り詰める。


そんな場の緊張感を壊すように、アルフレートは問いかけた。


「・・・黒髪の兄さん。その剣はどうやって持ち込んだんだ?魔術で作り出した、もしくは呼び出したのか?」


アルフレートの興味本位の質問に、毒気を抜かれそうになりながらも、ナールは無視を決め込んだ。


「鍔とか柄が見えねぇな。どうなってんだ?」

「・・・」


その質問にも沈黙を持って回答を拒否した。


だが、アルフレートは食い下がる。


「なあ教えーーーーー」

「アルフレート!!さっさと殺せ!!」


くれよ、と言おうとした言葉は奴隷商人の命令に掻き消された。


「ぅるせぇなぁ・・・、たく」


彼は悪態を吐くと、しかたなさそうに戦闘状態に移行する。


「黒髪の兄さんとその後ろの奴、恨むなよ」

「こちらの台詞だな」


アルフレートの溜息混じりの言葉に返しつつ、ボロ布の下で薄く笑った。


「時間が惜しいのでな、すぐに終わらせる」


腰を落とし右足は前に、右手で持った剣を腰だめに構える。


知っている者が見れば、それは抜刀術の構えだと理解が及んだかもしれないが、生憎その場にはナール以外、抜刀術の原理を知っている者は居なかった。

だから、鞘を使わず両刃の直剣で抜刀術を行うことに対しては、誰一人として不審に思うことがなかった。


それは、抜刀術を見たことがあるアルフレートも同じことだった。


「ミナヅキの真似事か?」

「知らんな」

「ふん、面白れぇ」


怪訝そうな声を上げた後、ナールの返答を聴いて鼻を鳴らした彼は、ロングソードを握り直した。


ナールはすぐに動いた。

アルフレートに向かって真っ直ぐに、最短距離を突き進む。


それに対して、アルフレートは冷静にナールとの距離を測った。

そして、ナールがあと一歩で間合いに入る瞬間、自分から踏み込みながら剣を振るう。狙うのは首。

高速の斬撃は躊躇なく、少年の首を刈り取る為に迫る。


だが、ナールは前進を続けた。


(刺し違えるつもりか!?でも俺の方が速い)


アルフレートは彼の胆力に感心しつつ、勝利を確信した。

今からナールが剣を振るっても、自分が先に首を跳ねる自信があった。


だが、彼が剣を振るうことはなかった。


アルフレートの剣がナールの首と接触した瞬間、周りの者は全員真紅の液体が飛び散る想像をしたが、容易く想像は瓦解する。


飛び散ったのは火色の粒、火花だった。

それと共に、ガキィンッ!!とアルフレートの剣とナールの首との間で金属音を立てた。

剣と接触した首の部分が光を反射して銀色に光っている。


驚愕したアルフレートの顔を見て、ボロ布の上からもわかるぐらい、ナールは獰猛に笑った。

だが、剣は振るわない。

振るうのは剣を手放した右腕。


手放した剣は空中分解するように消えた。


剣を振ったのなら、アルフレートの腕を斬り飛ばしたとで減速したであろう攻撃速度は、剣の重量分と障害が何もないこととで、その分加速する。

繰り出すのは右腕を曲げたまま伸ばさず、鳩尾を狙っての肘鉄。

右足で踏み込み、ギャリギャリギャリ!!と首に生やした刃と剣が耳障りな音を奏でたが、無視して放つ。


だが、アルフレートが左手を剣から離して肘鉄を掌で受けた。


ナールは腰の回転で彼の左手を右側に押し込む。

そこで回転を止めず、腰の回転で得た力を胴体を捻り、肩へ、左腕へと伝え、伝わるごとに加算され続けた全ての力を掌底として叩き込む。

狙ったのは右肘で防御を空けた鳩尾。


「《衝》ッ!!!!」

「!?」


気合のこもった一声と共に放たれたその一撃で、アルフレートの足が床から浮いた。

彼の意識は浮遊感を感じる前に途絶えた。

読んでくださってありがとうございます。

次話は6/24 0時投稿予定です。

また明日お会いしましょう。


Twitter始めました。

@Hohka_noroshibi

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