表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣王と魔術姫  作者: 熢火
剣人-第1章/王城に咲く血の桜
2/38

剣人-地下牢

みなさんお久しぶりです。


やっと2部投稿。

予定より超遅いです。

本当は4月中に・・・。


5/30

ナールの口調を修正

肌寒く薄暗い空間には異臭が漂っている。

所々に設置されたランプを光源としているその空間は、廊下のように一直線に伸びており、左右両側には鉄格子によって隔てられた牢獄が数多く設置され、中には首輪を嵌められた者達が入っていた。

奴隷だ。


首輪には魔力を使えなくしたり、危害を加えられないようにする術式が組み込まれている。無論、簡単に外すことはできない。無理に外そうとすれば着用者の命を削る術式も入っている。


そんな首輪を嵌められた奴隷達は外見に特徴がない人族や、耳や尻尾を生やした獣人などが大半で、耳が長いエルフや、手足の水掻きと体に鱗がある魚人、小柄だが筋肉質なドワーフなども稀に居た。統一性がない。

だが、共通点ならある。

殆ど全員の目が虚ろで、身なりが一貫してボロボロだということと、老人が居ないということだ。


目が虚ろなのは家畜と同等である奴隷の生活がどれだけ酷なのか知っていて、そのことに絶望しているからだろう。老人が居ないという理由は需要がないの一点に尽きるからだ。

奴隷になった理由は口減らしとして家族に売られたか、人攫いという違法行為で文字通り攫われてきたか、借金を返せなくなったか、犯罪をして捕まったなどなる理由は多くあるが、お世辞にも『いい経緯』とは言えないものばかりである。まあ、奴隷になる経緯に『いい経緯』があるなら是非とも聞きたいが。


そして、お世辞にも『いい経緯』とは言えない経緯で、首輪を嵌められ牢獄に入れられる者がまた一人。


「こいつを連れて来た連中、常連だろ?」


巨躯の男が肩に担いだ黒髪の少年に目を向けながら、前を歩く中肉中背の男に問いかけた。


『常連』とは、よくここの奴隷商人の所に人を攫って来る盗賊団のことだ。


巨躯の男の問いかけに対し、中肉中背の男は嘲りながら言う。


「ああそうだ。こいつもお気の毒だよなあ。盗賊に襲われてた連中を正義感出して助けたら、襲われてた連中もグルだったんだからなあ」

「全くだ。助けた後、『お礼をさせてください!!』とか言われて出された食物食ったんだろ?薬入りだとは知らずにな」

「その方法でまだ釣れる奴がいるとはなあ。まあ俺達には関係のないことだ」


彼らが言っているのはよくある人攫いの方法だ。

やり口は男達の会話から分かるように、盗賊が商人や旅人のふりをして仲間の盗賊に襲われるのだ。

そこへ助けに来てくれた冒険者などに助けられた盗賊がお礼にと、薬を盛った食べ物を食べさせる。

そして、気を失った恩人(笑)から、武器だけに留まらず下着まで剥ぎ取って、残った肉体は大体の場合奴隷商人の元へ直行だ。

蛇足だが、助けに来るのは体を鍛えた冒険者が多い為、なかなかいい値段で取引される。

だが、この方法はよくあっ()方法であり、今ではあまり行われていない方法だ。

こんな方法の人攫いが横行すれば噂が広がり、嫌でも人は警戒する為、人攫いの成功率は格段に下がる。

しかし、最近は殆ど行われなくなったが故に、油断して攫われる馬鹿や、全く知らずに信じきって攫われる馬鹿が少数居る。

今巨躯の男の肩に担がれた少年はどちらかとい聞かれれば、完全に後者の馬鹿だった。


「それにしてもこいつ、やけに重いんだよな」


巨躯の男が肩に担いだ少年を担ぎ直しながら、怪訝そうに言った。


「常連の話によると相当な手練れだったらしい。帯剣してたくせに素手で五人居た盗賊を逃げる暇もなく倒したって言ってたなあ」

「鍛えてるみたいだな」


巨躯の男が感心したように言うと、中肉中背の男はまた少年を馬鹿にする。


「鍛え過ぎて脳まで筋肉になってるんじゃねえかあ?」

「だから攫われたのかもな!!」


巨躯の男も一転、同調してゲラゲラと笑い出す

そうこうしている内に目的の牢獄の前まで来た。

中肉中背の男が牢獄の鍵を解錠し鉄格子の扉を開けると、巨躯の男に少年を放り込むように目線で指示する。


「おらよっと」


巨躯の男は少年を肩から降ろすと、両手で少年を重そうに放り投げた。


少年は重々しい音と共に石畳に叩きつけられ、呻き声を漏らす。


「ここは臭え、さっさと戻ろうぜ」

「そうだな」


巨躯の男が施錠している中肉中背の男を急かすと、彼も異臭が漂う空間から早く出たいのか同意した。

二人の男は雑談しながら早足にその場を後にする。


少年が目を覚ましたのは、男達の話し声も足音も聞こえなくなってからだった。


「うぅっ、頭がクラクラする」


脱力感に苛まれる少年はそう言って、黒い目を開けながら頭を片手で押さえつつ体を起こした。


「どこだここ?地下?・・・奴隷市場か」


彼は周りの状況を確認して、即奴隷市場に居ると推測した。


見える範囲でも、牢獄の中には必ず二人以上の奴隷が入っていた。

同じ牢獄に入っているといっても、奴隷には共通点が見つからないことから、適当に入れているのかもしれない。


そして、自分の今の状況も確認する。


(ノーパンでボロ布だけ、しかも奴隷用の首輪、所持品なし。・・・あいつら、騙しやがったな)


少年はふつふつと湧き上がる、自分を騙した盗賊に対する恨みをなんとか抑え込み、体調を確認した。


盛られた薬は唯の睡眠薬だったようで、あと数分で薬の影響も無くなるだろう。


(逃げるのに支障はないな)


彼はそう判断すると脱出する算段を立てようとする。


(首輪は簡単に外せるし、全力で逃げれば正面突破でもーーーーー)

「あなたも捕まったの?」


だが、そこまで考えると突如背後から声をかけられ、思考を中断させられた。

少年は後ろを振り返る。


声をかけてきたのは少年とそう歳が変わらない、壁に背中を着けて体育座りして居る少女だ。

灰色の髪に深海のような青い瞳。そして彼女の種族、獣人の代名詞と言ってもいい、髪と同じ色の猫耳と尻尾を生やした彼女は、少年や周りの奴隷と同じボロ布と首輪を身に着けている。


「騙されたの?」

「なぜ俺が騙されたことを知っている?」


少女の質問に、少年はその場に胡座をかきつつ疑問を投げかけた。


「あなたをここに運んだ下働の男が言ってた」

「そういうことか」


彼は合点がいったような顔をしながら同じ質問をする。


「お前はどうやって捕まったんだ?」

「・・・攫われたの」

「そうか」


少年は彼女が顔を俯かせながら言った言葉を聞くと、聞かない方がよかったと後悔した。


そもそも、暗い雰囲気を纏っていた少女に対し、いきなり奴隷になった経緯を聞くのはどうかと思う。

十中八九奴隷になったことが、暗い雰囲気の原因になっていることぐらい容易に想像がつくだろう。


だが、少女は触れられたくないことに触れられたことを気にすることなく、俯かせていた顔を上げる。


「怖くないの?」


その疑問は最もだ。


少年は奴隷になったというのに、絶望することなく平然としている。


その理由は逃げる自信があるからなのだが、何も知らない彼女からすれば、とてつもない楽観主義者か、状況を理解できていない馬鹿に見えるだろう。


少女の唐突な質問に、自分の配慮の欠けた発言に反省しつつ少年が平然と言う。


「逃げるつもりだしな。・・・なぜそんな目で見る?」


少年の発言を聞いた少女はかわいそうな者を見る目で、彼を見つめていた。


「そうだよね。『逃げれるから大丈夫』って自分に暗示をかけなきゃ、そんなに平然としていられないよね」

「・・・」


どうやら彼女は少年のことを『自己暗示をかけなくては平常心を保てない奴』、と解釈したらしい。


少年はその誤解を解こうとせず話を進める。


「これもなにかの縁だ。一緒に逃げるか?お前一人なら連れ出せるが?」

「・・・じゃあお願い」


少女は幼い弟を相手にするかのように苦笑混じりに言った。

どうやら信じていないらしい。


少年はそこで思い出す。


「自己紹介がまだだったな。俺の名前はナール。ナール・リューグナーだ。確か今年で十五歳になる」

「・・・私はラウレ・グラウチェ。十五歳」

「同い年だったか」

「ラウレでいいよ」

「好きに呼べ。敬称はつけなくても構わん」


ナールがそう言うと、ラウレは頷いた。


「自己紹介も済んだし一つ聞くが、ラウレはこの街について詳しいか?」


この街とはそのままの意味で、今彼らが居る奴隷市場が建っている街、アジェナのことだ。


「ううん、私はこの街の外に出たことがないから全く」

「そうか。だとすると行くあてがないな。金がないからどこかの裏路地に逃げ込んでゴロツキから装備を奪うか。最悪マントが二人分あれば・・・」


ナールはぶつぶつと呟きながら逃げる計画を練り上げる。


ボロ布というのは奴隷の証みたいな物なので、そんな物を身に纏って街中を駆け回っていれば、首輪を外した奴隷が逃げていると捉えられても不思議ではない。むしろ普通だ。

さらに、『奴隷の証』を好き好んで着ている者など居ない。街中では確実に浮く。

だから、逃げるのに必須の条件は以下の通りだ。

追っ手を撒く。

人目がつかない所で着替える。

顔を隠す。

追っ手を撒くのは当たり前で、着替える必要性は前述の通り。顔を隠すのはナールの黒髪黒目は珍しい為目立つし、『珍しい者と共にいる者』としてラウレの顔を覚えられる可能性があるからだ。

他にも、奴隷は法的に認められている為、奴隷市場に居る奴隷商人や追っ手を殺せば、衛兵が飛んで来てナール達の方がお尋ね者になりかねない。必ずではないが、できるだけ満たしたい条件は『不殺生』。

だが、元々ナールの目的は逃げることなので、相手を殺すのではなく行動に支障をきたす程度で十分だろう。


「追っ手を撒いたらゴロツキから装備を奪うのが手っ取り早いな」


ナールは計画を練り上げ終わると、それを実行に移す。


(先ずは首輪)


ナールが意識した瞬間、彼の首に嵌められていた奴隷用の鉄製の首輪がガキンッと、金属音を鳴らして真っ二つに割れ、静寂に包まれる地下に、石畳の床と金属がぶつかる音を響かせた。

割れた首輪の断面は『割った』というより『斬った』というのが適切な程綺麗だった。


ラウレが驚きの声を上げる。


「どうやったの?」

「後で教える。ラウレ、首輪を斬るから立て」


そう言ったナールの右手にはいつの間にか、反りがある片刃の剣ーーーーー刀が握られていた。


理解できない出来事が連続し、唖然としていたラウレだったが、ナールの言葉を聞いて表情が凍りついた。


「き、斬る?」

「そうだ」

「い、いやっ」

「こう見えても剣の腕はある、問題ない」

「大問題よっ!!」


立ち上がりながら問題ないと言い放つナールに、彼女は必死に抗議する。


「首輪ごと私の首も斬るでしょ!?」

「お前が動かなければ傷一つ付けん」

「こ、来ないでっ!!」


ナールの位置からは見えないが、獣人であるラウレの尻尾はピンと立っていることだろう。


刀を持ったまま一歩踏み出したナールを拒絶するように、ラウレも下がろうとするが、彼女の背後は壁で行き止まりだ。


この光景を側から見れば、『刀を持った少年(変態)が嫌がる少女を追い詰めている』ように見えなくもない。


「この剣は鉄だろうと軽く斬れる」

「何のアピール!?今は斬れ味がどうとかじゃないでしょ!!しかも、それが私の首に当たったらまずいよね!?」

「・・・」

「そこは否定してよ!!逆に不安になるでしょ!!」

「・・・かすり傷に抑える」

「なに自信なくしてるの!?」

「大丈夫だ、この剣で人は斬れん」

「さっき『かすり傷に抑える』とか言ってたのに今さら嘘つかないでよ!!」


この応酬はもう少しの間続いたが、最終的にナールが刀を振り上げたらラウレが泣き出したことで、ナールが折れた。

この時、少女に拒絶されまくった為に、彼の心は少し傷ついたのはここだけの話だ。


「悪かった」


ナールは謝罪しながらラウレの前に片膝をついてしゃがみ込む。


刀は彼の意思によって、先ほど空中分解するかのように消えていた。


彼女も落ち着いたようで、目の前のナールを拒絶せず半目で睨んでいる。


刀を消した後は先ほどみたいに拒絶されなかったことに、ナールは内心安堵しながら彼女の頭に右手を乗せる。


「もう剣で斬ったりせん」


そのままラウレの頭を灰色の髪越しに撫でながら約束した。


だが、彼女は頬を膨らませ、彼を睨み続ける。


それに対しナールは苦笑しながら、自然に手を滑らせた。

頭から顔の側面へ、首へ、首輪へ。

流れるような動作で、ラウレの首輪と首の間に人差し指を僅かに入り込ませると、首輪の外側に指を弾く。


ガキンッ、と金属音が響いた。


ナールは音に驚いたラウレを無視して、左手の人差し指を今度は反対側の首輪と首の間に入り込ませ、また外側に指を弾く。


ガキンッ、と同じ音が響き、彼女の首に嵌められていた首輪が真っ二つに割れ、床に転がる。


ラウレは目を白黒させていたが、次第に何が起きたのか理解すると驚きの声を上げた。


「どうやったの!?」

「ーーーーー」

「なに騒いでやがる!!」


ラウレに自分の能力を教えようとしたナールは、突如地下牢に響いた男の声で言葉をつぐんだ。


薄暗い廊下の奥から巨躯の男と中肉中背の男が歩いてくる。二人の表情は見るからに不機嫌そうだ。


「み、見つかる」


ラウレが怯えた声を出した。


牢獄の中で首輪を外しているのを見られたら、まず、なにをしたか聞きだされるだろう。

奴隷商の人間として、奴隷の首輪が奴隷の手によって外されたとなれば死活問題だ。拷問されてもおかしくない。


「どうするの!?」


縋るような目を彼女はナールに向けた。


それに対して彼は、


「こうする」


と言って床にうつ伏せに倒れた。


最初は呆然としていたが、戸惑い慌てるラウレ。

頼みの綱が切られた彼女は、涙目になりながら必死に倒れた少年の名前を連呼する。


「ちょっと!何してるの!?ナール!ナール!!」

「てめえぇ、何してやがる!!」

「ッ」


見つかった。

怒鳴った男の方を見る。


怒鳴ったのは巨躯の男で、顔を上げた向けたラウレの表情を見るや、彼は顔を歪めて言う。


「ずいぶんな上玉だな。少し遊んでやるか?」

「そうだなあ」


その言葉に後の中肉中背の男も同調しながら、巨躯の男と前後を交代し懐から鍵を取り出すと、その鍵で開錠した。


二人は『遊ぶ』と言ったが、そんなことすれば下働の彼ら自身の首が物理的に飛ぶ。ハッタリだった。


しかし、ラウレは本気にしたのか身構える。

獣人は人族より身体能力が高い為、首輪をしていない状態なら倒せるかもしれないが、今の彼女は奴隷市場にいたせいで体は痩せ細り、筋力はかなり低下していた。

勝てない。


ラウレはこの後に起こる最悪な状況を想像し、それを拒否するかのように一歩後退する。

中肉中背の男が鉄格子の扉を開けると、巨躯の男が入って来た。


「それにしても、どうやって首輪を外したんだあ?」


中肉中背の男が巨躯の男に何気なく問いかけた。


彼が聞いたのは巨躯の男も知る筈もないことだと理解していた為、さあな、と言う巨躯の男の返答を予測したが、返答したのは聞き覚えのない声だった。


「俺の質問に答えたら教えてやろう」


声は巨躯の男の向こう側から聞こえた。


いつの間にか巨躯の男の太い首に刀の峰がめり込んでおり、巨体が崩れ落ちる。


それと入れ代わるように、ナールが立ち上がる。

その右手には一振りの刀。


「なっ!?」


絶句した中肉中背の男の首に、一瞬で刀の切っ先が突きつけられた。


鉄の冷たさが彼の首に触れ、男は冷や汗を流す。


その姿を見たナールは笑いかける。


「俺の質問に素直に答えれば殺さん。だがもし、嘘を吐いたり抵抗すれば・・・」


そう言いながら、彼は首に切っ先を軽く突き刺した。


皮膚が裂け、血が流れる。

中肉中背の男は顔を青くした。


「わ、分かったっ。答える」

「まず、俺を騙した盗賊のアジトを教えろ」


刀を突きつけたまま、ナールは質問する。


「東側の居住区に住んでるって聞いたことがあるっ。人数はだいたい十五人構成だから家は小さくないが、貧乏だから立派ではないはずだっ。あんたがのした連中もアジトに運び込まれてるはずだから、住民に聞き込みをすれば分かるっ」


アジェナの街の構造は、中心の王城を囲むように貴族区があり、さらにそれを囲むように商業区、その外側に居住区、さらにその外側に貧民区がある、多重円構造となっている。

その為、外側の方が円周が長くなる。

東側と言っても範囲が広すぎた。


だが、盗賊達への報復はそこまで重要ではない為、時間をかけても別にいいかとナールは割り切り、別の質問をする。


「この奴隷市場は街のどの辺にある?」

「商業区の南、貴族区寄りだっ」

「この奴隷市場に居る従業員の何人が戦える?」

「だいたい百人に満たないぐらいだっ。その内の七割が戦えるっ」

「この街最大の武器屋はどこだ?」

「商業区の東側にあるダールグリュンっていう武器屋だっ」


関係がないような質問にも、すらすらと吐いてくれたことに感謝しつつ、ナールは今までの答えを心の中で反芻する。


(盗賊のアジトは居住区の東。この奴隷市場は商業区の南、従業員約百名中約七十名が戦闘可能。武器屋は商業区の東、ダールグリュン)


そして、最後の質問をした。


「俺がお前にした質問に、このデカブツは答えられるか?」


そう言いながら、気絶している巨躯の男を指す。


「こ、答えられるっ」

「そうか、ご苦労。で、どうやって首輪を外したかだったな?知りたいか?」


労いの言葉を笑いながら言うが目が全く笑っておらず、首輪を外した方法を知りたいか尋ねると、尋ねられた男はぶんぶんと首を全力で横に振った。


その返答を受けたナールはもう用無しとばかりに、彼の鳩尾の拳を叩き込んで意識を刈り取った。


「さーて、裏を取るか」


中肉中背の男を放置すると、今度は巨躯の男に向く。

そこで気付いた。

巨躯の男の奥、牢獄の壁際でこちらに恨みがましい視線を送っているラウレに。


中肉中背の男の証言の裏を巨躯の男から取る前に、ナールが彼女に土下座して謝罪したのは言うまでもない。

その時に、『ラウレが戸惑っていた方が男達の油断を誘える』という事情は話したが、内心面白がっていたことは黙っていた。





ナールは巨躯の男を荒々しく起こしてから裏を取り、中肉中背の男が嘘を吐いていないことを確かめ終えると、もう一度気絶させ、男二人の服を奪い取った。

下着を取らなかったのは情け以前の問題で、取る理由もなければ、自分が身に着けたいとも思わなかったからだ。


そんなナールは服を着るのに邪魔な刀は消している。

置いておけばいいのでは、とラウレに指摘されたが、そうできない能力だと説明した。

彼は中肉中背の男から奪い取った服をラウレに渡すと、巨躯の男から奪った服をボロ布の上から身に着けた。


だが、ラウレは痩せている為、男物の、しかも大人用の服は大き過ぎる。ズボンは履けそうになかった。

そして、上の服を身に着けたのはいいが、太腿の中間あたりまで裾があり、端的に言うとエロい。下は身に着けていないように見える


彼女の痩せ細った体を見れば、興奮より先に心配になってしまうだろうが、それが見ても分からない今は、痛々しい素足と不安そうにしている表情が庇護欲を掻き立てる。


それにしても、とナールはそんな不健全な思考を振り払うかのように続ける。


「その脚じゃ走れんな」


その言葉を聞いたラウレは一層不安そうな顔をする。

置いて行かれるとでも思ったのだろう。


だが、ナールはサディストではない為、不安を掻き立てて興奮したりすることはない。


「まあ背負えるか」


そう言って自己解決すると、思考を別の方に変える。

体重を指摘しなかったのはしっかりとデリカシーがある証拠だった。

某主人公達とは違う!!


(問題は顔をどう隠すかだな)


ナールの視線の先には、中肉中背の男のズボン。

彼は露骨に顔を顰めた。

パンツを頭に被る某変態&馬鹿共とは違う!!


「やはりこうするのが最善か」


ナールは呟きながら一度着た巨躯の男の服を脱ぐと、片刃のナイフを出現させ、服の袖を切り落とした。

さらに、切り落とした袖を両方とも縦に切り開く。

それをラウレに巻き付け、目だけ隠れないように顔と頭部を隠す。

残った服はナールの胸が隠れるぐらいに残し、それより下は彼の髪を隠すのに使い、腹部は露出する為ボロ布が丸見えになるのはわかりきっている。

だから、ナールはボロ布を脱いでそれで顔を隠した。


ボロ布を脱いだ時、彼の左胸には鋼色の刻印が見てとれたことから、それを隠す為に服を胸から上は残したことをラウレは察した。

見たこともない、魔法陣とも刺青ともとれない代物だった為、目立つことは容易に想像できる。


「よし行くか」


ナールが片膝立ちになりながら僅かに前かがみになり、既にナイフを消した手を後ろに引いて、ラウレに乗るように促す。


彼女は躊躇いがちにおぶさってきた。


想像以上に体重が軽かったことにナールは目を細めると、周りの牢獄を見渡した。


ラウレのように、体重が軽くなっていることなど当たり前と言える者達が大勢居た。


今から自分はこの少女以外を見捨てる。

ナールは自覚しながらも、身長と釣り合わないほど軽い、背中に乗せた少女の温もりを感じながら、そのまま立ち上がった。


彼は全ての人間を救えるほど優しくも強くもない。

力は自分の為に捨て、生きれるのに必要な分だけを取り戻した。他人を救う余裕はほとんど残っていない。

できて、軽い少女を背負って逃げることぐらい。


ナールは歩き出す。

救いを求める視線を感じながら、通路を歩く。


ラウレも視線を感じるのか、ナールの首に回した腕に力が篭る。


「目を閉じろ。心を(とざ)せ」


ナールの言葉に、彼女は顔を彼の背中に埋めた。


助けを求める声が聞こえる。


だが、ナールは真っ直ぐ歩調を乱さず歩き、声のする方向を一瞥すらしない。


(・・・恨んでも構わん。それでお前の心が救われるのなら、好きなだけ恨め、憎め。それくらいしかーーーーー)


ーーーーー救いを与えられん。


彼は心の中で紡いだ言葉を途中で切った。

・奴隷の首輪には装着者の魔力を使えなくする術式や、危害を加えられないようにする術式が組み込まれており、無理に外そうとすると装着者の命を削る。

・ナールは騙されて、ラウレは攫われて奴隷になった。

・ナールは剣を生み出す能力があるようだ。奴隷の首輪をしている状態でも使えることから魔術ではない模様。

・ナールの左胸には鋼色の刻印がある。魔法陣とも刺青ともとれない代物。

・ナールはラウレを連れて奴隷市場から脱出を試みる。脱出後は盗賊のアジトと武器屋へ向かうつもりのようだ。




読んでくださってありがとうございます。


助けるのは美少女だけ。

某主人公達と同じである!!


とか書いたら雰囲気がぶち壊しだったのでやめました。


またいつかお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ