剣王と魔術姫-儀式前日
ファンタジーが書きたい!!とか思ってしまい、現在連載しているSF作品の執筆時間を減らして書き始めました。
不定期更新です。
拙い文章力ですが暖かい目で読んでください。
シュベルト→シュヴェルト
夜、就寝前の時間。
光を放つ魔術道具によって、明かりには困らない程に照らされた、子供が一人で使うには広すぎる部屋のドアが三回ノックされ、間を置かずに控えめな声がした。
「兄様」
呼ばれたシュヴェルトは本を閉じて目の前のテーブルに置くと、座ったまま後ろを振り返り、視線を部屋の入り口に向けながら訪問者を招き入れる。
「入っても構わんぞ」
「失礼します」
すぐにドアが開き、露出の少ない寝間着姿の少女が一礼しつつ入室して来た。
少女の長い髪と瞳の色は世界でも十人と居ない珍しい薄桜色で、身長は今年で十三歳になるシュベルトの一つ下の十二歳としては、平均より少し高い位、彼の胸の位置に顔がくるくらいだ。
その顔は誰がどう見ても美少女だ。
「どうした、リズ?」
柔らかい笑みを浮かべながら少女の愛称を呼んだシュヴェルトの短い髪と瞳の色も、彼女と同じ薄桜色だ。
このことから彼とリズーーーーー本名はリーズが兄妹、または、親族であることが分かる。
「少し話をしませんか?」
「立ち話もなんだし、座ったらどうだ?」
シュヴェルトはそう勧めつつ席を立ち、さっきまで座っていた入り口から最も近い席を譲ると、その席の向かい側の席に座った。
「ありがとうございます」
リーズはお礼を言って、シュヴェルトが空けた席に腰を下ろした。
そこでテーブルに置かれた本に目がいく。
「兄様は相変わらず本がお好きなのですね」
「別に好きというわけではないんだがな」
シュヴェルトが読んでいた本のタイトルには『北東部の魔物』と書かれていた。
リーズはシュヴェルトに対して、『本好き』という印象を持っているようだが、彼自身はそこまで『本好き』とは思っていない。
無自覚というわけではなく、ただ、世界に対しての知識が欲しいだけで、読書しているよりも体を動かす方が楽しいと思うし、才能もそちらに向いていると思っている。
「それで、話ってなんだ?」
シュヴェルトは少し強引に話を本題に戻した。
昔は剣術について書かれている本ばかり読み漁っていたが、今では一般常識や既成概念、旅の心得、魔物について書かれた本を読んでいる。
それは彼が企んでいることに必要な知識であり、読んでいる本の変化から企みが暴かれるのは避けたいことであった為、気付かれないとは思うが念の為本から話を逸らしたのだ。
「あの、明日の『儀式』のことなのですが・・・」
「・・・不安か?」
シュヴェルトの思惑に気づかず、不安気にリーズが言う『儀式』とは、王族である彼と彼女が王位を賭けて決闘するというものだ。
『王位継承の儀』。
この決闘の勝敗は人生の分岐点とも言える。
勝った者は王位を継承し、敗けた者は王位を継承した者に万が一があった時の代理品として生きる。
引き分けはない。
勝って王位を継ぐか、敗けて代理品になるかの、残酷なまでに二つに一つなのだ。
なぜ残酷か。
この兄妹のように仲良く育っても、どちらかが必ず日陰者になるからだ。
仲良く育ったからこそリーズは不安、否、儀式が嫌だった。
王位継承者と代理品はもう会うことはできない。
つまり、『仲が良い兄妹の関係』もそこで終わりだ。
自分が勝てばシュヴェルトは喜ぶかもしれない。
自分が勝てばシュヴェルトは恨むかもしれない。
自分が敗ければシュヴェルトは悲しむかもしれない。
自分が敗ければシュヴェルトは喜ぶかもしれない。
自分が勝つのがいいのか、自分が敗けるのがいいのか、彼女には全く分からなかった。
リーズは兄であるシュヴェルトに、幸せになってほしいと願っているが、シュヴェルトもまた、リーズに幸せになってほしいと願っている。
この互いの想いが皮肉にも、王位継承を果たしたとしても幸せになれるかどうか分からなくしていた。
そういった理由もあり、リーズが儀式のことで悩んだのは一度や二度ではない。
そして、悩むたびに兄はそれを察して、笑いながらこう言ってくれる。
「手を抜くのは相手に失礼なことだ、本気で戦うぞ。勝とうが敗けようが恨みっこなしだ」
「・・・はい」
いつもと変わらない。
儀式の前日になっても。
そのことにリーズは苦笑しながら頷いた。
運命は残酷だ。
二人の仲は引き裂かれるようになっているのだから。
少女はそのことに悩み、苦しみ続けたが、その度少年の言葉に救われた気がした。
「『寝不足で本気が出せません』じゃ話にならん。ゆっくり休めよ」
「はい、お休みなさい」
「お休み」
挨拶を交わしながら席を立ったリーズは、やはり変わらないと思った。
儀式の前日になっても。
共に過ごせる時間があと僅かになっても。
兄妹という関係が終わりそうになっても。
変わらない。
そのことにリーズは嬉しさと寂しさを感じながら、部屋から退出しようとした。
「兄様・・・」
「?」
だが、ドアノブに手を掛けたところでリーズはシュベルトに振り返り、首を傾げた彼に、陰りのある表情で何かを言おうとして、止めた。
無理矢理笑顔を作って、言おうとしたこととは別のことを言う。
「・・・また明日」
「・・・ああ、また明日」
シュベルトは言及せず、踵を返した彼女の背中を見続けていた。ドアが閉まるまで、ずっと。
そして、翌日。
歳十三にして剣術の天才ーーーーーシュヴェルト・キルシュバオム。
歳十二にして魔術の天才ーーーーーリーズ・キルシュバオム。
両者の戦いは、兄のシュヴェルトが大敗するという形で幕引きとなった。
・シュヴェルトとリーズは兄妹で、瞳と髪の色は世界でも珍しい薄桜色。
・シュヴェルトは何か企んでいる。その企みの為に本で知識を得ていた。
・『王位継承の儀』の勝者一人にしか王位継承権は与えられない。負けた者は一生代理品となる。
・シュヴェルトはリーズに大敗した。彼はこの先代理品としてーーーーー。
読んでくださってありがとうございます。
またいつかお会いしましょう。