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リボン至上王国

一生懸命編んだリボンを婚約者の恋人に池へ捨てられました。婚約者の弟と伯爵夫人が全力で私を気遣ってくれます。

作者: ユミヨシ
掲載日:2026/06/06

「何よ。こんなものっ」


レリーナは髪を飾っていた桃色のリボンをひったくられた。

ひったくった女が、そのリボンを思いっきり投げて、庭の池にリボンが落ちた。


前日からの雨で濁ってしまった庭の池。


私のリボン‥‥‥一生懸命、作ったリボン。

婚約者に会う日の為に楽しみに作ったリボン。

それを池の中に‥‥‥


「うわーーーーーーん」


恥も外聞も無く泣き叫んだ。

池に入ってリボンを探す。


リボンが無いと、婚約者に会えない。

会えないーーー。


濁っていてよく見えない。

腰まで浸かってリボンを探す。


リボンを投げ込んだ女は笑いながら、


「貴方なんて、エレントの婚約者にふさわしくないわ。わたくしこそ、ふさわしいのよ。この、わたくし、ベリティア・ブライド、栄えあるブライド公爵家の娘のわたくしがふさわしいのよ」


一人の青年が慌てて庭に入って来た。

金髪碧眼の美男のエレント・リッセル伯爵令息。


池でリボンを探していたレリーナはその青年を一目で、自分の婚約者である男性だと解った。

会ったことはなかったが、美男だと聞いていたのだ。


エレントはベリティアの腰を抱き寄せながら、レリーナを見て一言。


「なんてみっともない。あの女が私の婚約者か」

「ええ、そうよ。だから身の程を知らせてやったのよ」



レリーナ・バセル公爵令嬢は、バセル公爵の後妻の娘だ。

連れ子なので、バセル公爵家の血は引いていない。

義姉クラウディアがラード王太子と来年結婚して家を出てしまうので、レリーナがバセル公爵家を婿を貰って継ぐことになった。


レリーナ自体はバセル公爵の娘ではないので、バセル公爵の弟であるリッセル伯爵の長男、エレント・リッセル伯爵令息と婚約を結ぶ事になった。

元々、クラウディアがラード王太子と婚約を結んだ時に、リッセル伯爵家から養子をという話はあったのだ。長男のエレントがいいだろうという事になった。

レリーナと歳が同い年の17歳。


エレントは金髪碧眼の美男である。


義姉クラウディアは結婚前に色々と準備があるからと王宮に行ってしまった。

だから、レリーナはとても寂しかった。

この公爵家に引き取られる前は市井にいて、食堂や酒場で皿洗いをしたりしてやっと生活していた。

母は酒場で働いており、バセル公爵とどこで知り合ったのか、ちゃっかり後妻におさまったのだが、今は色々とやらかして、家を追い出されていない。そもそも市井暮らしの女に公爵夫人は無理だったのだ。


レリーナは必死にクラウディアの機嫌を取って、この公爵家に居残った。



そんなとある日、ベリティア・ブライド公爵令嬢というそれはもう美しい金の髪の令嬢が訪ねてきたのだ。


ブライド公爵家は隣国の公爵家だ。

そんな令嬢が自分に何の用だろう。

庭のテラスに通したらいきなり言われたのだ。


「貴方、バセル公爵家から出ていきなさいよ。エレントと結婚するのはわたくしよ。貴方、平民なんでしょう。だから出て行って欲しいわ。あら?何、この派手なリボン」


レリーナが髪に着けていたのは、今度、エレントと初めて会う時に、見せたかったリボンだ。

桃色の大きなリボンで。苦労してレリーナが編んだリボン。中央に小さなルビーが着いている。

その時はまだクラウディアが家にいたので、リボン編みを教えて貰った。

平民であったレリーナにとってリボン編みも公爵家の令嬢としてのマナーや勉強も最初は難しかった。

それを義姉が教えてくれた。


苦労して作った桃色のリボン。婚約者のエレントに見て欲しかった。

まだ会ったことのないエレント。

エレントと会うのを楽しみにしていたのだ。


それなのに。

初対面のベリティアという令嬢にいきなりリボンを奪われて、庭の池に捨てられた。

後から来たエレントも、ベリティアの肩を持って自分を蔑んでくるような態度。


私はこのバセル公爵家の血を引いていない。養女にはなっているけれども。

それだけだ。

だから、バセル公爵家の血を引いたエレントと婚約し、結婚することが決まっていたというのに。


私は出て行かなければならないの?

ただただ、母が後妻に入った縁でこの家に引き取られただけ‥‥‥


義父は私の事を養女にしたまま置いてくれているけれども。


新たな来客を使用人が知らせて来た。


池でびしょ濡れになっているレリーナは悲しくて泣いて泣いて‥‥‥ドレスも何もかも泥だらけで。必死に池の中を探すけれども濁っていて見えなくて。


リボンは見つからない。


エレントはベリティアの腰を抱き寄せて、二人はこちらを見て馬鹿にしたように笑っている。


そこにやって来たのは、見知らぬ女性だった。

金の髪を結い上げて緑のドレスを着ている。


「わたくしはリッセル伯爵夫人シェリアと申します。何故、レリーナ様がびしょ濡れに?」


エレントが笑いながら、


「リボンをベリティアが池に投げ捨てたんだ。平民の身の程知らずをベリティアは罰を与えてやっただけだ」


ベリティアも口端を歪めて、


「伯爵夫人。このバセル公爵家にエレントと一緒に入るのは、このわたくし。わたくしこそふさわしいですわ。エレントとは我が国にエレントが留学していた時に知り合いましたの。この平民を追い出して、わたくしがこのバセル公爵家に入ります」


リッセル伯爵夫人は真っ青になって、慌てて池に入って来て、レリーナに向かって、


「大変な事をっ。レリーナ様。リボンは?リボンは見つかりましたか?」


「無いの。見つからないの。私のリボン」


「ああ、なんてこと。一生懸命、編んだのでしょうね。わたくしの息子の為に」


「ああああ、リボン。私のリボン‥‥‥」


びしょ濡れになりながら、リッセル伯爵夫人はリボンを探してくれた。

やっと見つかった時はリボンは汚れていて、繊細な編み込みが緩んで酷い有様になっていた。


リッセル伯爵夫人はレリーナの手を取って、池から上がると、


「風邪を引いてしまいます。レリーナ様。ともかく、お着替え下さいませ。本当に申し訳ない。我が息子とその友人の令嬢がやった事は後日、正式に謝罪に伺いますわ」


エレントは、リッセル伯爵夫人に、


「母上。平民の女に謝罪?私はこんな女と結婚したくはない。ベリティアこそ私にふさわしい」


ベリティアも、


「そうよ。わたくしこそふさわしいのだわ」



リッセル伯爵夫人はレリーナに向かって、


「バセル公爵様は?」


「お義父様は領地に行っています」


「ああ、本当に申し訳ない事を。リボンが駄目になってしまって、謝ってすまされることではないわ」


レリーナは悲しかった。

せっかく編んだリボンがぐちゃぐちゃになってしまったのだ。

洗ってもきっと泥は落ちないし、繊細な糸は切れてしまった所がある。


婚約者となったエレントと会うのを楽しみにしていたけれども、あまりの酷い態度に、憧れも何もかも砕け散ってしまった。


そして思った。

平民である自分がこのバセル公爵夫人になれるのだろうか?


このように馬鹿にしてくる令嬢や夫人も出て来るのでは?その時、自分は‥‥‥


王宮にいる義姉クラウディアに相談することにした。


クラウディアに面会を頼むと、すぐに会ってくれた。


「どうしたの?泣いた顔をして」


「お義姉様。私、リボンを池に捨てられたのです。エレントがベリティア・ブライド公爵令嬢という人と結婚してバセル公爵家を継ぐから、平民の私には出て行けって」


「何ですって?わたくしがいない間に、なんてことを。お父様や、リッセル伯爵家の叔父様はご存じなのかしら」


「リッセル伯爵夫人は一緒に私のリボンを探してくれました。でも、私、自信がなくなってしまって。一生懸命、勉学やマナーに励んでおります。でも」


「そうね。悔しいけれども、貴方よりも、エレントの方が血を引いているだけ、立場が上だわ。ねぇ。わたくしの侍女にならない?」


「お義姉様の侍女に?」


「貴方、食べるのに困らない生活がしたいって言っていたわよね。わたくしの傍なら色々な事から守ってあげられるわ。バセル公爵家に今、貴方の味方はいないのだから。そうしましょう」


義姉クラウディアの提案をレリーナは受ける事にした。


確かにエレントの方が立場が上だ。

バセル公爵もレリーナよりもエレントの主張を大事にするだろう。


悔しい。でも、平民の出であるレリーナは弱い立場だ。




後日、バセル公爵と、その弟リッセル伯爵との話し合いが行われ、

エレントはベリティア・ブライドと新たに婚約を結び、バセル公爵家に養子に入ることになった。


レリーナはクラウディアの侍女として王宮に移り住んだ。


ただ、レリーナはまだ王立学園を卒業していない。王宮から王立学園に通うことにした。

王立学園に行ったら、一人の令息が近づいて来て、目の前で頭を下げて、


「このたびは我が兄が申し訳ないことを致しました。本当に申し訳ございませんっ」


令息が顔を上げたら泣きそうな顔だった。

必死に謝って来た。


レリーナは知らない人だったので、


「あの、どなたですか?兄って?」


「私はマリウス・リッセルです。エレント・リッセルの弟です。このたびは兄が大変失礼な事を致しまして。母も心を痛めておりました」


「リッセル伯爵夫人には一緒にリボンを探して貰って、とても優しい方だと」


「母が言っておりました。今度、レリーナ様とリボン編みを極めたいと」


「わ、私とリボン編みを?」


「はい。母はお詫びに一緒にリボン編みをやりたいと言っておりました。是非是非、リボン編みを母とやって下さいっ」


「ええ?ええ。それは構いませんが」


「有難うございます。ああ、お詫びに何かプレゼントさせて下さい。兄のせいで、クラウディア様の侍女をやることになったとか。本当に申し訳ない。バセル公爵家から追い出す形になってしまって」


「元々、私が母についていって縁があった家ですから。母が追い出されて、私は置いてもらっただけの。ですからお気になさらずに」


「いえ、気にします。申し訳なさ過ぎて」


マリウスは、エレントと容姿は似ていて金髪碧眼だ。ただ、マリウスの方が幼い顔立ちをしている。


誠実な態度に好感が持てた。

でも、リボンを捨てられたあの傷が‥‥‥心の傷が突き刺さって。

エレントとベリティアに笑われて、平民だと馬鹿にされて。


市井で生きていた時は色々とあった。

馬鹿にされてきたのは慣れている。

そう思っていた。

でも、実際、馬鹿にされて一生懸命作ったリボンを捨てられたら、あまりにも悲しくて。


リボン編みは繊細な作業だ。


オリビア王妃と、前バセル公爵夫人エレンシアが流行らせたリボン編み。

中央に宝石を着けるのが普通だが、大事なのは宝石よりも蝶々の形をしたリボンの方だ。

細い糸選びから始まって、髪に着けるリボンを編んでいく細かい作業。


糸も色々な色があって。

その糸を選ぶこともセンスがあるなしが関係していて。


レリーナは桃色の糸を選んで、桃色のリボンを編んでみた。

まだ、他の色の糸を編み込むことが出来なかったから。


それでも、出来上がった時は嬉しかった。


そのリボンが捨てられて。

泥だらけになって。


私のリボンが‥‥‥


マリウスの顔を見たら、リボンを捨てられた事を思い出して、涙が溢れる。


マリウスがレリーナを慰めるように、


「母が協力します。私はリボン編みをしたことがありませんが、出来る事は協力します。そうだ。一緒に糸を買いにいきましょう。綺麗な糸を選ぶのを手伝います。レリーナ様の傷を全力で癒しますから」


「有難うございます」


嬉しかった。その真心が嬉しかった。

学園の帰り、一緒に馬車に乗って、街に行く。

リボン糸の有名な店があるので、そこで二人でリボンを見た。


色とりどりの糸。

まだ色々な糸を使える程、上手くないけれども。

桃色一色のリボンはまともに編めるようになったのだ。

義姉のクラウディアは、色々な糸を使って器用に編むことが出来るリボン編み。

私も義姉のように、リボンを編めるようになりたい。

半年後にクラウディアは結婚し、王太子妃になる。

式に着けるリボンをクラウディアは編んでいるのだ。

そのお手伝いをして、立派な結婚式にしたい。

もっと腕を上げなくては。


マリウスが金の糸と銀の糸を持ってきて、


「これなんかどうかな?」


「まだ編み込み出来ないわ」


「難しいんだな。それじゃ、何色がいい?」


「この綺麗な水色。この間は桃色だったから、今度は水色にしたいわ」


「綺麗な水色だね。君に似合うと思うよ」



糸を選んで王宮に戻ったら、リッセル伯爵夫人が面会に来ていて。


「この間、息子が大変失礼な事を。お詫びに一緒に、リボン編みを極めましょう」


「えええっ?よ、よろしくお願い致します」


リッセル伯爵夫人がリボン編みを教えてくれた。

他の色の糸の編み込み方も、リッセル伯爵夫人が教えてくれた。


レリーナの母マリアは、リボン編みを馬鹿にして、不敬な発言をしたので、社交界から追放され、バセル公爵家でも暴れたので、追い出された。

がさつな母だった。


だが、リッセル伯爵夫人は上品で、優しくて。

レリーナは、


「丁寧に教えて下さり有難うございます」


「いえ、当然の事をしているまでです。息子が失礼な事を致しましたので。わたくしとマリウスをこき使って下さって構いませんわ」



リッセル伯爵夫人のお陰で、水色のリボンに銀の糸を編み込むことに成功した。


髪に着ける綺麗なリボンが出来上がった。

中央には白色の小さな宝石が公爵家にあったので、それを着けた。

学園に着けて行って、マリウスに見せたらマリウスは、


「似合っているよ。とても綺麗だ」


赤面して褒めてくれた。

なんだかとても嬉しかった。




ベリティア・ブライド公爵令嬢が隣国から王立学園に編入してきた。

いずれ、バセル公爵家に嫁ぐのだから、こちらの学園で学ぼうと思ったのであろう。


しかし、ベリティアがレリーナのリボンを池に投げ捨てた事件は王立学園に知れ渡っていた。


高位貴族の令嬢達は、

「丹精込めて作ったリボンを池に投げ捨てるだなんて」

「まったく酷い事をするものですわ」


誰も、ベリティアに近づこうとしない。


ベリティアは令嬢達に、


「わたくしは将来、バセル公爵夫人になるのですわ。ですから、わたくしを敬い、わたくしの傍に侍ってご機嫌取りをしなさい」


令嬢達は、

「王妃様やクラウディア様に睨まれていたのでは」

「わたくし達、貴方にお近づきになりたくありませんわ」


「なんですって?」


ベリティアは怒り狂った。


わざわざレリーナのいる教室に来て、


「貴方でしょう。貴方が、リボンの件を言いふらしたのね?わたくしが、エレントを取ったのをよく思わないから。言っておくけど、平民の女は嫌っていったのは、エレントよ」


レリーナは頷いて、

「ですから、わたくしは義姉クラウディア様の侍女になるために、家を出ました」


「だからって、わたくしに対する悪い噂を流さないで欲しいわ」


「流した覚えはありません」


エレントがやって来て、


「私に選ばれなかったからってベリティアを虐めるとは」


「虐めていません」



レリーナは思った。

なんて酷い人達なんだろう。

私がリボンを捨てられた事は事実なのだから。

同じクラスの令嬢に愚痴ったら広まってしまったのだろう。


そんな中、王妃オリビア主催のお茶会が開かれた。

高位貴族の夫人や令嬢達が皆、招待される大掛かりなお茶会だ。


クラウディアの侍女として出席していたレリーナ。

ただ、特別にリボンを着ける事を許されていたので、髪に水色のリボンを着けて、クラウディアの傍に控えていた。


オリビア王妃が、レリーナのリボンを見て、


「まだまだ技術はつたないけれども、一生懸命、編んだ心が伝わってくるわ。貴方、リボン編みが好きなのね」


レリーナは頷いて、


「大好きです。リッセル伯爵夫人に教わって、一生懸命編みました。私、お義姉様の結婚式に着けるリボン編みをお手伝いしたいです」


「まぁ、それはとても素敵だわ。クラウディア。よかったわね」


クラウディアは微笑んで、


「はい。王妃様。良い義妹を持ってわたくしは幸せです」


そこへ、ベリティアが豪華な銀のドレスを着て、オリビア王妃に近づき、


「今度、バセル公爵家に嫁ぐことになったベリティア・ブライドでございます。招待状が来なかったのですが、わたくしは隣国から来たばかりですので。こうしてご挨拶をしに伺いました」


オリビア王妃は眉を顰めて、


「リボンを着けておりませんね。髪にリボンを」


「え?」


周りの夫人や令嬢達は皆、自作の編んだリボンを髪に着けている。

蝶々の形をしたリボンを結い上げた髪に着けていたり、右側に飾りのように着けていたり、着け方も色も様々だ。


ベリティアだけが、リボンを着けていなかった。


オリビア王妃は微笑んで、


「貴方、リボンをなんだと思っているのかしら。わたくしと親友エレンシアが精魂込めて流行らしたリボン。この王国でわたくし達とお付き合いをしたいのなら、リボンを髪に着けてこないと。それも自作のリボンを」


「お茶会にリボンが必須だとは知らなかったのです」


「貴方、レリーナ・バセル公爵令嬢が編んだリボンを池に捨てたそうね」


「平民が編んだリボンを捨ててはいけませんか?わたくしはブライド公爵家の娘。平民の作ったリボンなんて屑ですわ」


「リボンを屑ですって?」


オリビア王妃が切れた。


他の夫人や令嬢達も、

「リボンを屑っ?」

「高位貴族の嗜みを?」

「どういう神経しているのかしら?」

「レリーナ様ってバセル公爵家の養女よね」

「失礼極まりないわ」


皆が白い目でベリティアを見ている。


オリビア王妃が一言、


「貴方にはこの王国は合わないようね。お国にお帰りになったら如何?」


ベリティアは、


「いえ。わたくしはバセル公爵家に嫁ぐのですから、帰りませんわ」


「そう?でしたら、リボン編みを極めて頂戴。そうでなくては、社交界での出入りを禁止致します」


ベリティアは周りの夫人から令嬢達に遠巻きにされて、レリーナを睨みつけ、


「貴方のせいよ。貴方のせいでわたくしはっ」


レリーナに掴みかかった。


レリーナは、自分の身より、髪のリボンに両手をやった。

一生懸命作ったリボンを、守りたかったから。

今度こそ、捨てられない。

身を屈めて必死にリボンを守ろうとした。


リッセル伯爵夫人が、ベリティアの腕を握り締めて、


「わたくしが、エレントと貴方の結婚を許しません。夫が許可しようとも、わたくしはサインを致しません。エレントが選んだ令嬢ならばと、一旦は許しました。でも、貴方のような女をバセル公爵家に嫁がせる訳にはいきませんわ。バセル公爵家に対して失礼です。そうですわね?クラウディア様」


クラウディアは頷いて、


「そうですわね。エレントがベリティアとそれでも結婚したいと言うのなら、わたくしが王妃になった暁には、社交界からこの女を追い出しますわ。衛兵。この女を拘束して頂戴」


ベリティアは衛兵二人に腕を掴まれて連れて行かれた。


レリーナは立ち上がって、


「リボンが無事でよかった。有難うございます。お義姉様。リッセル伯爵夫人」


クラウディアが抱き締めてくれた。


「貴方が無事でよかったわ。わたくしからも礼を言います。リッセル伯爵夫人」


リッセル伯爵夫人は首を振って、


「いえ、わたくしの息子があのような女を選んだことがいけないのですから」



ベリティア・ブライド公爵令嬢は、この国から追い出され、馬車に乗せられて自国へ帰っていった。


エレント・リッセル伯爵令息が二日後、王立学園の教室にレリーナに会いに来た。


「お前のせいで、ベリティアは帰ってしまった。私はお前なんぞと結婚しない。平民の女の癖に。お前なんぞ許しはしない」


エレントにそう言われてレリーナは悲しかった。

だけれども、言いたい事を言った。


「リボンを大事にしない人はこの王国から追い出されて当然ですわ。私も貴方と結婚なんて嫌です。二度と顔を見たくないわ」


周りの令嬢達が、


「あれがリッセル伯爵家の?」

「出来の悪い方?」

「弟さんは良い方なのにね」

「兄の方はさっぱり」


エレントは周りの令嬢達に向かって怒りまくって、


「出来の悪い方が私というのか?私はバセル公爵になる男だぞ」


マリウスが教室にやって来て、


「兄上、レリーナ様に近づかないで下さい。これ以上、恥をさらさないで下さい」


「煩い」


「それから兄上はバセル公爵にはなれませんよ」


「へ?どういうことだ?」


「家に帰って確認した方が。私がバセル公爵家に婿に入ります。レリーナ嬢と結婚します」



レリーナは驚いた。


「私に公爵夫人は無理だわ」


マリウスはレリーナに、


「私が支えます。母上もがっちりとレリーナ様の力になると言っております。今回の、リボン事件のせいで、皆、レリーナ様に同情が集まっております。立派に公爵夫人を務めましょう。貴方を馬鹿にした人たちを見返してやりましょう。どうか、私を信頼して下さい。私は兄上のように愚かではありません」


「愚かだと?私が愚かだというのか?」


「ともかく、家にお帰りを」


慌ててエレントは家に帰っていった。


レリーナはマリウスに、


「私でいいの?マリウス」


マリウスはレリーナの前で跪いて、


「貴方を一生守ります。どうか、この求婚受けてくれませんか?」


「ええ、受けます」


マリウスと離れたくないとそう思った。

だから、レリーナは求婚を受けることにした。


マリウスを愛しているかどうか解らない。

ただただ、彼の傍にいたい。そう思えた。





ラード王太子が今回のベリティアがレリーナに危害を加えようとした件について、

「王太子として、隣国アリシア王国にしっかり抗議をするとしよう」

と隣国の外交官に、


「そちらのベリティア・ブライド公爵令嬢がレリーナ・バセル公爵令嬢に王宮の茶会で危害を加えようとした。こちらの刑罰に添って牢に入れたいが、ブライド公爵家の令嬢だ。そちらに引き渡すので処分をして貰いたい」


そう言ってベリティアを外交官に引き渡した。

ベリティアはアリシア王国に送り返された後、もっとも環境が厳しい王都の修道院へ入れられることになった。

ブライド公爵が抗議をしたが、ラード王太子に気を使ったのであろう。わざわざ外交官を通じてアリシア王国国王自らラード王太子に謝罪の手紙をよこして、ベリティアの処分を報告してきた。


エレントについては、マリウスとリッセル伯爵夫人が揃って、レリーナの元へ訪れて、


リッセル伯爵夫人が、

「エレントは、我が伯爵家を継がせることに致しました。政略でエレントの意向を無視して、わたくしが見繕った男爵家の令嬢をあてがう事に致しましたわ」


マリウスは黙って紅茶を飲んでいる。


リッセル伯爵夫人は毅然とした態度で、


「レリーナ様は不満に思うでしょうね。ベリティアは隣国で牢に入れられて、厳しい環境の修道院へ入れられた。それに比べて、エレントは伯爵家を継ぐことになります。でも、わたくしにとってエレントもマリウスも大切な息子なの。本当に申し訳なく思っております。レリーナ様を傷つけた。これからもレリーナ様の傷を癒していきます。わたくしとマリウスで」


レリーナはリッセル伯爵夫人に、


「わたくしを気遣ってリボンを教えて下さっただけではなかったのですね。いずれ、破滅するかもしれないエレントの為に」


リッセル伯爵夫人は、


「お腹を痛めて産んだ子ですもの」


マリウスに向かって聞いてみる。


「貴方は私を愛しているの?」


マリウスは首を振って、


「家の為です。我がリッセル伯爵家の為です。それが貴族の家に生まれた者の定めです。でも、母上は兄上に甘すぎます」


レリーナは悲しく思った。

マリウスに愛されたかった。

この人の傍にずっといたいと思っていた。

一緒に糸を選んでくれたマリウス。

リボンを着けたレリーナを褒めてくれたマリウス。


マリウスはレリーナの手を取って、


「でも、貴方の笑顔を見ていたら、もっと貴方の事を知りたいと思えるようになったのも事実です。貴方がリボンを着けて私に見せてくれた時に、本当に可愛らしいと思いました。貴方の一生懸命リボン編みに取り組む様子を見て、心から力になりたいと思えました。

これから夫婦になるからには、レリーナ様ともっと良い関係を築いていきたい。まだまだ私達は知り合って日が浅い。これから互いをもっともっと知っていきましょう。私は貴方のリボンを大切に致します」


「リボンを?」


「ええ、貴方が二度と泣かないように。リボンを傷つけられて心も傷つかないように」


「私のリボン‥‥‥」


リボンはとても大切で。お義姉様も私にリボンを教えてくれた。リッセル伯爵夫人もリボンを教えてくれた。マリウスも一緒に糸を選んでくれて、リボンを着けた私を褒めてくれた。


リッセル伯爵夫人が、


「貴方がリボンを池に落とされて泣いている時に、わたくしも本当に悲しかったの。わたくしにとってもリボンは大切だから。わたくしもマリウスと同じ気持ちだわ。二度と貴方を泣かせたくない。そう思えるのよ」


そう言って貰って嬉しかった。


私にとっては大切なリボン。

リボンを守ってくれるマリウスを、そしてリッセル伯爵夫人を信じることにした。


「マリウス。そしてリッセル伯爵夫人。これからもよろしくお願い致します」





レリーナがクラウディアに、マリウスにプロポーズされた事を報告したら、クラウディアは喜んでくれて。


「わたくしがリッセル伯爵夫人と相談して、お父様とリッセル伯爵を説得して、マリウスにバセル公爵家に婿に来る形にしたのですわ。貴方と結婚したいとマリウスも言っていましたし。レリーナが幸せならわたくしはいう事はないわ」


嬉しかった。レリーナはクラウディアに抱きついて、嬉し涙を流した。


あれから、マリウスとは上手くやっている。

マリウスはとても優しい。

リッセル伯爵夫人はバセル公爵家に戻ったレリーナにリボン編みを今も教えてくれる。

なんだかとても幸せで。


今日は王宮に行き、クラウディアが結婚式で着けるというリボン作りをお手伝いする。

幸せそうにリボンを編むクラウディアを見ていると嬉しさを感じる。

レリーナはクラウディアと共に今日もリボンを編むのであった。


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― 新着の感想 ―
リボンが大事な国のお茶会に一人リボンをつけてこないのは、さぞかし浮きまくったことでしょうね。男を奪えて調子に乗っていたのでしょうが、王妃様に目をつけられては無理ですね。 少し反省なさった方がいいかもし…
まあ、他国に嫁ぐってのにその国の文化の一つも覚えてないんじゃ話にならないよなぁ
また、変…辺境騎士団がドジっ子ぶりを発揮しちまったか…
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