第二部 第152話 気づいたもの
白い空間が軋む。
崩れる。
欠ける。
静かな世界。
少しずつ。
落ちていく。
巨大な目。
歪んだ影。
笑っているような。
泣いているような。
定まらない。
それでも。
“観ていた”。
士郎が踏み込む。
止まらない。
低く。
「鬱陶しい」
拳。
轟音。
——消える。
右腕。
肩。
胸。
存在ごと。
抜け落ちる。
それでも。
止まらない。
舌打ち。
「チッ」
短い。
「届かねぇ」
セレナの声。
少し強い。
「士郎!」
短い。
「離れて!」
笑う者が。
初めて本気で焦る。
『ダメだって!!』
少し間。
『近付くほど欠ける!!』
士郎が鼻を鳴らす。
低く。
「知るか」
短い。
もう一歩。
踏む。
その瞬間。
首から下。
消える。
沈黙。
次の瞬間。
戻る。
士郎が低く息を吐く。
「……胸糞悪ぃ」
翔は動かない。
煙だけが細く揺れる。
見ている。
違う。
殺し屋の目。
相手。
距離。
動き。
欠ける場所。
消える順番。
違和感。
右手を見る。
届いていない。
そのはず。
なのに。
違う。
“繋がっている”。
少し間。
巨大な目。
歪んだ影。
違う。
“そこ”じゃない。
もっと深い。
もっと奥。
観ているもの。
意識。
気配。
一本。
静かな声。
「これか……?」
少し間。
「師匠の言ってた……」
止まる。
違う。
届いていない。
なのに。
“繋がる”。
深い闇。
巨大な目。
歪んだ影。
その奥。
意識。
存在。
全部。
一本になる。
翔の指先が。
僅かに動く。
沈黙。
次の瞬間。
——消えた。
巨大な目。
歪んだ影。
気配。
意識。
全部。
死ぬ。
白い空間が止まる。
侵蝕。
欠け。
全部。
消える。
静寂。
沈黙。
士郎の身体が戻る。
拳を握る。
低く。
「……終わりか?」
翔の煙が細く揺れる。
短く。
「多分」
笑う者が。
完全に固まる。
セレナの目が。
初めて。
大きく開く。
小さい声。
「……嘘」
白い空間だけが。
静かだった。




