第二部 第120話 墓守
黒い海は静かだった。
波もない。
風もない。
ただ。
沈んだ世界だけが続いている。
崩れた塔。
折れた橋。
半分沈んだ街。
全部。
終わったものだった。
士郎達は歩く。
王の残骸を越え。
さらに奥へ。
気配が変わっていた。
重い。
静か。
なのに。
圧だけがある。
翔が煙を吐く。
少し間。
「近い」
短い。
士郎は周囲を見る。
沈んだ王国の跡。
剣。
冠。
玉座。
王ばかりだった。
低く息を吐く。
「随分、王が好きな場所だな」
笑う者が肩を竦める。
『逆だよ』
静かな声。
『王しか残れない』
士郎が視線だけ向ける。
『国が沈む時』
少し間。
『責務だけ残る事がある』
翔が短く言う。
「未練とは違う」
『うん』
笑う者が頷く。
『終われない』
少し間。
『そういう死に方』
静寂。
歩く。
足元。
黒い海に。
何かが沈んでいた。
無数の剣。
折れた旗。
王冠。
全部。
海底に刺さっている。
まるで墓標だった。
翔が止まる。
煙が少し揺れる。
静かな声。
「……いる」
前方。
闇。
いや。
座っていた。
巨大な影。
黒い海の中央。
玉座。
都市ほどある。
その上に。
何かがいた。
痩せている。
だが。
巨大。
王より細い。
なのに。
存在感だけが異常だった。
頭を垂れている。
顔は見えない。
周囲。
無数の剣。
王冠。
墓。
全部。
その影へ向いていた。
笑う者が珍しく笑わない。
『あぁ』
静かな声。
『墓守だ』
沈黙。
次の瞬間。
――カラン。
音。
一本。
剣が海へ落ちた。
影が。
ゆっくり。
顔を上げる。
空洞。
目がない。
なのに。
見られていた。
世界ごと。
覗かれる感覚。
低い声。
男とも女ともつかない。
古い。
壊れた声。
『……また』
少し間。
『王を連れて来たか』
士郎は動かない。
低く息を吐く。
静かな声。
「違うな」
少し間。
「通りすがりだ」
黒い海が。
静かに軋んだ。




