第二部 第108話 王の誕生
東砦陥落から数日。
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街は変わり始めていた。
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止まっていた荷車が動く。
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倉庫が開く。
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市場に声が戻る。
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東砦の兵達も働いていた。
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徴税屋だった男達が泥だらけで道を直し。
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商人達が倉庫を開け。
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神官達ですら炊き出しをしている。
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最初は皆。
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怯えていた。
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だが。
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飯が出る。
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奪われない。
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理不尽に殴られない。
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それだけで。
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人の顔は少しずつ戻っていった。
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城下。
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ユースが足を止める。
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炊煙。
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笑い声。
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走る子供。
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荷を運ぶ元兵士。
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数日前まで。
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死にかけていた街だった。
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「……変な感じだ」
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掠れた声。
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「数日前まで俺、何もなかったのに」
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士郎が横を見る。
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短く。
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「増えたな」
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翔が煙を吐く。
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「面倒も」
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ユースが少し笑う。
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その時だった。
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小さな影が近付く。
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子供だった。
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両手でパンを抱えている。
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少し痩せている。
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でも。
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前より顔色はいい。
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子供はユースの前で止まり。
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少し迷って。
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頭を下げた。
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「ありがとう」
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小さな声。
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少し間。
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「……王様」
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静寂。
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ユースが止まる。
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母親が慌てて頭を下げた。
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「す、すみません!!」
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「この子……!」
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だが。
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近くにいた老人が言う。
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「間違っちゃいない」
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静かな声。
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元東砦兵が視線を逸らしながら口を開く。
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「……助けられたしな」
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また一人。
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頭を下げる。
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「王様」
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誰かが続く。
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「ありがとうございます」
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また一人。
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「助かった」
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広がっていく。
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命令じゃない。
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誰かが決めた訳でもない。
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自然だった。
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民が。
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そう呼び始めていた。
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ユースの喉が止まる。
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怖い。
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重い。
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でも。
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嫌じゃなかった。
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その瞬間。
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白い光が走った。
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聖剣だった。
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熱。
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振動。
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今までとは違う。
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重かった剣が。
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嘘みたいに馴染む。
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力が流れ込む。
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風が揺れた。
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周囲が息を呑む。
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ユースが目を見開く。
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「……何だ、これ」
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士郎が少し目を細めた。
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「へぇ」
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翔が煙を吐く。
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少し間。
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「認められた」
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静かな声。
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聖剣の光が強くなる。
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今までの比じゃない。
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初めて。
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本気だった。
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ユースが聖剣を見る。
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そして。
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民を見る。
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笑う子供。
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働く兵。
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頭を下げる人。
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守りたい。
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自然に。
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そう思った。
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士郎が鼻を鳴らす。
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「少し王っぽくなったな」
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夕日が街を染める。
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まだ小さい。
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まだ弱い。
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でも。
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確かに。
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一つの国が。
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生まれ始めていた。




