第二部 第92話 開かれる門
「……食料庫を開ける」
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若い男は、震える声でそう言った。
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「手伝ってくれ」
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少し間。
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「俺一人じゃ無理だ」
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士郎は吹き出した。
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「初仕事で人頼るか」
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「無理なもんは無理だろ!」
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若い男は城を見上げる。
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巨大な城門。
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兵。
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鍵。
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権力。
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何もかもが。
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自分一人では届かない場所にある。
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翔は煙を吐いた。
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「無理だと分かって頼るなら」
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少し間。
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「まだマシだ」
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士郎は鼻で笑う。
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「いい」
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「行くぞ」
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◇
城の食料庫前。
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重い鉄扉が立ちはだかっていた。
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兵達は青ざめて立ち尽くし、
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商人。
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神官。
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地主。
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必死に叫んでいる。
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「開けるな!!」
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「備蓄が尽きる!!」
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「国が回らなくなるぞ!!」
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若い男は喉を鳴らした。
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怖い。
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だが。
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もう逃げなかった。
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「開けろ」
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静かな声。
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兵達は動かない。
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翔が煙を吐く。
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「長い」
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霧。
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静寂。
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揺れる。
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次の瞬間。
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扉を封じていた鎖が、
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音もなく崩れた。
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鉄の塊が床へ落ちる。
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重い扉が。
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ゆっくりと開いていく。
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静寂。
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中には。
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食料が積まれていた。
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肉。
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干し肉。
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小麦。
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保存食。
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果実酒。
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飢えた民達が。
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外で骨みたいに痩せているのに。
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ここには。
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腐るほど食料があった。
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子供が息を呑む。
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母親が口元を押さえる。
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老人は。
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何も言えず膝を震わせた。
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若い男の顔が変わった。
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恐怖ではない。
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怒りだった。
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「……ふざけんな」
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士郎が少し笑う。
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「いい顔だ」
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若い男は民を見る。
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腹を空かせた顔。
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震える子供。
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泣くことすら諦めた母親。
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全部を見る。
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もう迷わない。
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「配れ」
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静かな声。
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だが。
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今度は震えていない。
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「子供と老人」
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「怪我人が先だ」
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少し間。
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「動ける奴は運ぶのを手伝ってくれ」
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民達は一瞬。
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信じられないように固まった。
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次の瞬間。
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母親が崩れるように泣いた。
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「ありがとう……!」
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その声を合図に。
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人が動き始める。
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食料庫が開く。
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城の中の食料が。
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初めて民のために運び出されていく。
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笑う者がぽつりと呟いた。
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『……国っぽくなってきたな』
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翔は煙を吐く。
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「飯が出る国は」
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少し間。
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「まだマシだ」
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士郎は若い男を見る。
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「次だ」
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若い男が振り向く。
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「え?」
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「食わせるだけじゃ終わらねぇ」
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少し間。
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「奪ってた奴らがいるだろ」
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その言葉に。
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商人達の顔色が変わった。
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同じ頃。
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城の奥。
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隠し通路。
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黒衣の男が息を切らして走っていた。
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「報告しろ……!」
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汗に濡れた顔で叫ぶ。
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「次の王候補へ伝えろ!」
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「国が取られる!!」




