第二部 第87話 民の視線
風が。
少しだけ吹いた。
◇
誰も。
◇
鎧の男を見ていなかった。
◇
視線は。
◇
若い男へ向いていた。
◇
子供。
◇
老人。
◇
母親。
◇
店主。
◇
痩せた民。
◇
全部。
◇
見ていた。
◇
怖がっていない。
◇
違う。
◇
見ている。
◇
期待。
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少しだけ。
◇
そんな目だった。
◇
鎧の男が止まる。
◇
剣が震える。
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顔が歪む。
◇
「な……」
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掠れた声。
◇
「何故だ……!」
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怒り。
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焦り。
◇
恐怖。
◇
全部が滲む。
◇
「余の方が強い!!」
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「金もある!!」
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「兵もある!!」
◇
「なのに何故!!」
◇
若い男が止まる。
◇
答えなんて知らない。
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でも。
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後ろを見る。
◇
子供。
◇
パン。
◇
母親。
◇
老人。
◇
民。
◇
全部がいる。
◇
そして。
◇
小さく息を吐いた。
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静かな声。
◇
「……知らない」
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少し間。
◇
鎧の男を見る。
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震えている。
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それでも。
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逸らさない。
◇
「でも」
◇
民を見る。
◇
「多分」
◇
少し間。
◇
「腹減ってる奴の前で」
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静かな声。
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「自分だけ腹いっぱいなのが」
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少しだけ。
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怒った目。
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「ムカつくんだと思う」
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風が止まった。
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民達が少しだけ目を見開く。
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そして。
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老人が小さく呟く。
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「……そうだ」
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母親が涙を拭く。
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「子供に食わせたかった……」
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店主が俯く。
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「ずっと……苦しかった」
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声が少しずつ広がる。
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鎧の男が。
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初めて後退った。
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違う。
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空気に押された。
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孤立。
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初めて理解した。
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誰も。
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自分を見ていない。
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士郎が少し笑う。
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獰猛じゃない。
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静かな目。
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「ようやく」
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少し間。
◇
「それっぽくなってきたな」
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翔が煙を吐く。
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男を見る。
◇
静かな声。
◇
「まだ弱い」
◇
少し間。
◇
「でも」
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煙が揺れる。
◇
「民見て喋ってる」
◇
静かな声。
◇
「前よりマシだ」




