第二部 第78話 王の条件
風が。
少しだけ揺れた。
◇
「戦争は終わらせたい」
◇
男の声だけが。
広場へ落ちた。
◇
笑う者が、少し止まる。
◇
『お?』
◇
『ちょっと王っぽいこと言った』
◇
翔が、煙を吐く。
◇
静かな目で。
男を見る。
◇
「理想論だな」
◇
少し間。
◇
「弱い奴ほど最初にそれを言う」
◇
男が、苦笑した。
◇
「……否定できない」
静かな声。
◇
「でも」
◇
少し間。
◇
子供を見る。
◇
痩せた民を見る。
◇
広場の怒鳴り合いを見る。
◇
「腹が減ってるのも」
◇
「怯えてるのも」
◇
「もう見たくない」
◇
士郎が。
少しだけ笑った。
◇
獰猛ではない。
◇
試すような目だった。
◇
「で?」
静かな声。
◇
「見たくないなら、どうする?」
◇
男が止まる。
◇
答えがない。
◇
強くない。
◇
金もない。
◇
兵もない。
◇
王になる方法なんて知らない。
◇
沈黙。
◇
そして。
小さく呟く。
◇
「……分からない」
静かな声。
◇
「でも」
◇
少し間。
◇
震えた声。
◇
「やるしかないなら」
◇
子供を見る。
◇
パンを抱える小さな手。
◇
「逃げたくない」
◇
風が吹いた。
◇
翔が、煙草を指で弾く。
◇
灰が落ちる。
◇
「弱いな」
静かな声。
◇
少し間。
◇
「でも」
◇
「逃げない奴は嫌いじゃない」
◇
士郎が吹き出した。
◇
「珍しいな」
◇
「お前がそこまで言うか」
◇
翔は煙を吐く。
◇
「腹減ってる奴に飯渡す奴は」
◇
少し間。
◇
「少なくとも退屈じゃない」
◇
笑う者が、数秒止まる。
◇
『評価がちゃんとしてる……!?』
◇
『今日どうした!?』
◇
その時だった。
◇
広場で怒鳴っていた者達が割り込んできた。
◇
鎧の男。
◇
商人。
◇
神官。
◇
全員。
顔を歪めている。
◇
「ふざけるな!!」
◇
「こんな若造に国を任せるだと!?」
◇
「平民だぞ!?」
◇
「力も金もない!!」
◇
士郎が静かに見る。
◇
冷たい目。
◇
少し笑う。
◇
「じゃあ聞くけどよ」
◇
老人。
◇
子供。
◇
痩せた民。
◇
全部を見る。
◇
そして。
三人を見る。
◇
「お前らは今まで」
◇
少し間。
◇
「腹減ってる民に何してやった?」
◇
沈黙。
◇
誰も。
◇
答えられなかった。




