第二部 第72話 王様ごっこ
風が。
止まった。
◇
「王様ごっこ続ける気か?」
◇
士郎の声だけが。
街道へ沈んだ。
◇
領主が。
震えていた。
◇
地面。
泥。
血。
宝石。
豪華な服。
◇
全部。
汚れていた。
◇
もう。
威厳なんてない。
◇
怪物を見る目。
恐怖。
屈辱。
怒り。
全部。
混ざっていた。
◇
そして。
叫ぶ。
◇
「ふざけるなァ!!」
◇
絶叫。
◇
「余は王となる男だ!!」
◇
「次の王となるのは余だ!!」
◇
「余こそが法だ!!」
◇
震える指。
城へ向く。
◇
「ま、まだ兵はいる!!」
◇
「近衛兵!!」
◇
「殺せ!!」
◇
遠く。
城門。
◇
黒鎧。
最後の近衛兵。
数十。
動く。
◇
だが。
次の瞬間。
◇
霧。
◇
通り過ぎた。
◇
それだけ。
◇
首。
血。
崩れる。
◇
終わり。
◇
翔が。
もう戻っていた。
◇
煙を吐く。
静かな目。
◇
「長い」
静かな声。
◇
「終わった」
◇
笑う者が、数秒止まる。
◇
『……は?』
◇
『もう終わった!?』
◇
『お前いつ動いたの!?』
◇
領主の顔から。
血の気が消えた。
◇
重力。
◇
動けない。
逃げられない。
◇
士郎が、ゆっくり歩く。
◇
静かな目。
◇
笑っている。
なのに。
冷たい。
◇
怖い。
ただ。
怖い。
◇
領主が。
崩れた。
◇
「ま、待ってくれ……!」
◇
掠れた声。
◇
涙。
鼻水。
泥。
◇
ぐしゃぐしゃだった。
◇
「わ、悪かった!!」
◇
「余が悪かった!!」
◇
震える声。
◇
必死に笑おうとする。
◇
歪む。
醜い。
◇
「こ、これからは民を助ける!!」
◇
「税も減らす!!」
◇
「食い物も配る!!」
◇
「優しい王になる!!」
◇
笑う者が止まる。
◇
『胡散臭ぇ……』
◇
『今思い付いただろそれ』
◇
領主が、必死に頷く。
◇
「ほ、本当だ!!」
◇
「改心する!!」
◇
「王を諦めてもいい!!」
◇
「だから助けてくれ!!」
◇
涙。
鼻水。
震え。
◇
威厳なんて。
もうない。
◇
ただ。
死にたくない。
◇
それだけ。
◇
士郎が。
止まる。
◇
静かな目。
◇
老人。
子供。
痩せた民。
◇
全部を見る。
◇
そして。
領主を見る。
◇
少し笑った。
◇
違う。
冷えている。
◇
「……遅ぇよ」
静かな声。
◇
少し間。
◇
冷たく。
◇
「散々奪われたあとに」
◇
少し間。
◇
「飯やるって言われても」
◇
沈黙。
◇
「もう信用ねぇだろ」
◇
領主の顔が。
凍る。
◇
士郎が、静かな声で告げる。
◇
「王様ごっこ終わりだ」




