第二部 第63話 王の飯
沈黙。
◇
小さな子供が。
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肉を見ていた。
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痩せた顔。
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細い腕。
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腹が減っている。
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それだけで分かった。
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店主が、慌てて頭を下げる。
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「す、すみません!!」
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「見苦しいものを……!」
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子供が、びくりと震える。
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すぐに目を逸らした。
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士郎の手が。
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止まっていた。
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肉。
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子供。
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薄いスープ。
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痩せた客。
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全部を見る。
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そして。
◇
静かな声。
◇
「……飯」
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「足りてねぇのか?」
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店主の顔が曇る。
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沈黙。
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やがて。
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掠れた声。
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「王が死んでから……」
静かな声。
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「税だけは……残ったんです」
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笑う者が、小さく黙る。
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店主が俯いた。
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「兵が来て……」
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「領主が変わって……」
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「食べ物も」
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「金も」
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「持っていかれて……」
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震えた声。
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「残るのは……骨みたいな暮らしです」
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空気が重くなる。
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翔が、酒を飲む。
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静かな目。
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子供を見る。
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そして。
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皿を押した。
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肉。
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静かに。
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子供の前へ。
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店主が止まる。
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「え……?」
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翔が、煙草を咥える。
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静かな声。
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「食え」
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子供が目を見開く。
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笑う者が数秒止まった。
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『え?』
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『優しい!?』
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翔が、少しだけ眉を寄せる。
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「うるさい」
静かな声。
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「見てて鬱陶しい」
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士郎が止まる。
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そして。
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吹き出した。
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「ハハッ」
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「お前も案外そういうとこあるな」
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翔が煙を吐く。
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静かな声。
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「腹減ってる奴は」
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「動けない」
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士郎が。
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少しだけ目を伏せた。
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遠くを見る。
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燃える街。
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痩せた民。
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王を失った国。
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そして。
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小さく笑う。
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冷たく。
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「……終わってんな」
静かな声。
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立ち上がる。
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空気が沈む。
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笑う者が嫌な顔をした。
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『あ』
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『これ嫌な予感する』
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士郎が、静かな目で店主を見る。
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「この辺で」
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静かな声。
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「一番偉い奴どこだ?」
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沈黙。
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店主の顔から。
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血の気が引いた。




