第二部 第54話 秩序
静寂。
◇
「決まってんだろ」
◇
士郎の声だけが、夜へ沈んだ。
◇
空。
◇
巨大術式。
◇
黒い輪。
◇
幾重にも。
◇
街を覆う。
◇
逃げ惑う人々。
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悲鳴。
◇
恐怖。
◇
全部。
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上から潰そうとしていた。
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中央の男が、静かな目で見下ろす。
◇
迷いはない。
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冷たい。
◇
ただ。
◇
処理。
◇
「秩序破壊因子排除開始」
静かな声。
◇
空が。
◇
落ちる。
◇
違う。
◇
“処刑”だった。
◇
黒い輪が、ゆっくり回転する。
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重圧。
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熱。
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崩壊。
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街そのものが、震えていた。
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煙草屋の店主が、青ざめる。
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「お、おい……!」
◇
「街が……!」
◇
支配者の男も、顔色を失っていた。
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「狂ってやがる……」
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笑う者が、本気で顔を覆う。
◇
『だから言った!!』
◇
『最悪のタイプだって!!』
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『秩序のためなら街ごと消す!!』
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翔が、煙を吐く。
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静かな目。
◇
空を見る。
◇
少し間。
◇
そして。
◇
静かな声。
◇
「面倒だな」
◇
士郎が、少し笑う。
◇
獰猛に。
◇
「だな」
◇
一歩。
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前へ出る。
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重力が、沈む。
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街が軋む。
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中央の男が、初めて目を細めた。
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「抵抗か」
静かな声。
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「無意味だ」
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「秩序維持を優先する」
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士郎が、鼻で笑った。
◇
「秩序?」
静かな声。
◇
笑う。
◇
深く。
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危ないほど。
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楽しそうに。
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「気に入らねぇな」
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重力が。
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落ちた。
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轟音。
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空気が砕ける。
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巨大術式が、初めて揺れた。
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黒い輪に。
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亀裂。
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住民達が、止まる。
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空を見る。
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中央の男の表情が、初めて変わった。
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「……何?」
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士郎が、静かな目で見上げる。
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冷たい。
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なのに。
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笑っている。
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怖い。
◇
ただ。
◇
怖い。
◇
「王ってのはな」
静かな声。
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少し間。
◇
そして。
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空を見ながら。
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笑った。
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「世界の都合で」
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「民を捨てねぇんだよ」
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静寂。
◇
重力が。
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もう一度。
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落ちた。
◇
轟音。
◇
空が。
◇
軋む。
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巨大術式全体へ。
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無数の亀裂が走った。
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中央の男が。
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初めて。
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本当に初めて。
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驚愕した。
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「……術式が」
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「壊されている?」
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静寂。
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士郎が。
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獰猛に笑う。
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「当たり前だろ」
静かな声。
◇
「街ごと消そうとしてんだ」
◇
「壊される覚悟くらいしとけ」
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その瞬間。
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空を覆う黒い輪が。
◇
初めて。
◇
大きく砕け始めた。




