第二部 第50話 煙
静寂。
◇
『終わった』
◇
『もうこの人』
◇
『煙草切れねぇ』
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笑う者の声だけが、路地へ沈んだ。
◇
士郎が、腹を抱えて笑う。
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「ハハッ!!」
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「これで機嫌直ったか?」
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翔は、煙を吐く。
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静かな目。
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気怠そうに肩を竦めた。
◇
「少し」
静かな声。
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笑う者が、本気で頭を抱えた。
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『安っ!!』
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『世界壊しかけた奴の機嫌の直し方が安すぎる!!』
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静寂。
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煙草屋の店主が、少しだけ笑った。
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震えていた顔。
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ようやく。
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少しだけ。
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力が抜けていた。
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「……助かった」
静かな声。
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「本当に」
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深く頭を下げる。
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黒服達も、何も言わない。
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もう。
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逆らう気配はない。
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街の支配者も。
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沈黙していた。
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恐怖は残る。
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だが。
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目が違う。
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士郎を見る目。
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翔を見る目。
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敵じゃない。
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“触れてはいけないもの”。
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笑う者が、小さく肩を竦めた。
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『これで終わりかな』
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『煙草も手に入ったし』
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『街も救ったし』
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士郎が、少し笑う。
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「救った覚えねぇけどな」
静かな声。
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「煙草屋守っただけだ」
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翔が、煙を吐く。
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「結果だ」
静かな声。
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笑う者が、数秒止まる。
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『……え?』
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『今ちょっと相棒っぽかった』
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士郎が吹き出す。
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「今さらだろ」
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静寂。
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その時だった。
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街の奥。
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遠く。
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警鐘。
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低い音。
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重い。
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何かが。
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近付いている。
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笑う者の輪郭が、ぴたりと止まった。
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『……あ』
静かな声。
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『早くない?』
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士郎が、少し笑う。
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獰猛に。
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「何だ?」
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笑う者が、露骨に嫌そうな顔をした。
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『街の上位戦力』
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『来た』
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静寂。
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翔が、煙草を指で弾く。
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灰が落ちる。
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静かな声。
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「一本吸う暇はあるか?」
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笑う者が、空を見上げた。
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『多分ない』
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『あいつら、空気読まねぇし』
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その瞬間。
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空が。
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静かに歪んだ。
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夜空の中心。
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何かが。
◇
こちらを見ていた。




