第二部 第45話 災厄の王
静寂。
◇
『理由が終わってる』
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笑う者の声だけが、 路地へ沈んだ。
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巨漢の男が、 ゆっくり笑う。
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重い。
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ただ。
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重い。
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路地の空気が沈む。
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黒服達が、 露骨に安堵した。
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「ボス……!」
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「こいつらです!!」
◇
「急に——」
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男が片手を上げる。
静寂。
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一瞬だった。
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全員が黙る。
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支配。
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威圧。
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街そのものが、 男へ従っているようだった。
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笑う者が、 小さく舌打ちする。
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『この街の支配者だ』
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『裏社会まとめてるタイプ』
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『雑魚じゃない』
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士郎が少し笑う。
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「へぇ」
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「ようやく少しはマシか」
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男が目を細めた。
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視線。
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翔。
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士郎。
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そして。
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倒れた部下達。
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少しだけ笑みが消える。
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「俺の街で」
静かな声。
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「好き勝手してくれてるな」
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士郎が鼻で笑う。
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「煙草屋潰そうとしてたろ」
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「気に入らねぇ」
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男の空気が変わる。
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殺気。
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重圧。
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路地の壁が、 僅かに軋んだ。
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「だから?」
静かな声。
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「俺の縄張りだ」
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「何を壊そうが」
◇
「俺の自由だろ」
静寂。
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士郎が止まる。
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そして。
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少しだけ笑った。
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違う。
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笑みが深くなる。
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獰猛に。
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危ないほど。
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楽しそうに。
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「……いいな」
静かな声。
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一歩。
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前へ出る。
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空気が沈む。
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重い。
◇
違う。
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“世界が沈む”。
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笑う者が、 本気で引いた。
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『あ』
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『ダメだこれ』
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『魔王モード入った』
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士郎が、 静かな目で男を見る。
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冷たい。
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笑っているのに怖い。
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「縄張り?」
静かな声。
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少し間。
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そして。
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笑った。
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「俺」
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「元・世界の王なんだわ」
静寂。
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重力が落ちた。
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路地が軋む。
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地面が沈む。
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建物が悲鳴を上げる。
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黒服達が、 一瞬で膝をついた。
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男の笑みが。
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初めて消えた。
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士郎が、 ゆっくり首を鳴らす。
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「支配者気取りなら」
静かな声。
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「格の違い教えてやるよ」
静寂。
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その瞬間。
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街の夜が。
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初めて。
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西園寺士郎という災厄を理解した。




