第二部 第39話 半分の怪物
静寂。
◇
「試してみるか?」
◇
翔の声だけが、 境界へ沈んだ。
◇
冷たい。
◇
静か。
◇
なのに。
◇
空気が変わった。
◇
笑う者が、 初めて気付く。
◇
違う。
◇
“薄くなった”。
◇
翔の気配。
◇
いや。
◇
削ぎ落ちた。
◇
余計なものが、 消えていく。
静寂。
◇
“それ”が、 止まる。
◇
初めて。
◇
僅かに。
◇
観測が揺れた。
◇
『危険度再更新』
◇
『規格外変動確認』
静かな声。
◇
士郎が、 少し眉を動かす。
◇
そして。
◇
笑った。
◇
「へぇ」
静かな声。
◇
「久々だな」
◇
「その顔」
◇
笑う者が、 数秒止まる。
◇
『……え?』
◇
『何が変わった?』
◇
士郎は、 楽しそうに肩を竦めた。
◇
「無駄が消えた」
静かな声。
◇
「こいつ」
◇
「少し本気出しただけで怖ぇ」
静寂。
◇
翔は何も言わない。
◇
ただ。
◇
歩く。
◇
一歩。
◇
音がない。
◇
気配もない。
◇
殺意もない。
◇
なのに。
◇
近い。
◇
気付けば。
◇
もう。
◇
目の前。
◇
笑う者が、 本気で凍った。
◇
『え』
◇
『速——』
◇
遅い。
静寂。
◇
翔の掌が、 静かに動く。
◇
霧流掌。
◇
ただ。
◇
半分。
◇
それだけ。
◇
“それ”の周囲。
◇
黒い輪が、 一斉に展開する。
◇
存在隔離。
◇
因果切断。
◇
観測分断。
◇
界吏を超える、 完全防御。
◇
だが。
◇
意味がない。
静寂。
◇
翔の掌が。
◇
届く。
◇
違う。
◇
“繋がる”。
◇
防御を越え。
◇
存在を越え。
◇
気配そのものへ。
静寂。
◇
“それ”が。
◇
初めて止まった。
◇
観測が乱れる。
◇
輪が崩れる。
◇
空間が軋む。
◇
初めて。
◇
声が揺れた。
◇
『……接触』
◇
『あり得ない』
◇
翔が、 少しだけ笑った。
◇
冷たく。
◇
「遅ぇ」
静かな声。
◇
「届いた時点で終わりだ」
静寂。
◇
“それ”の身体が。
◇
初めて。
◇
静かに。
◇
崩れ始めた。
◇
笑う者が、 本気で絶句する。
◇
『……は?』
◇
『いや待て』
◇
『界吏より上だぞ!?』
◇
『なんでもう死にかけてんの!?』
◇
士郎が、 腹を抱えて笑った。
◇
「ハハッ!!」
◇
「だから言ったろ!!」
◇
「壊れてんだよコイツ!!」
静寂。
◇
境界が、 静かに軋んだ。
◇
“それ”が。
◇
初めて。
◇
後ろへ下がった。




