第二部 第35話 執行
静寂。
◇
『規格外二体』
◇
『排除を開始する』
◇
その声だけが、 境界へ沈んだ。
◇
重い。
◇
ただ。
◇
重い。
◇
存在だけで、 世界が軋んでいた。
◇
裂け目の周囲。
◇
空間が、 静かに崩れている。
◇
観測者達が、 震えていた。
◇
『執行開始』
◇
『最上位危険指定』
◇
『規格外接触』
◇
『退避完了』
◇
笑う者が、 露骨に顔を引き攣らせる。
◇
『いや』
◇
『これ本当に始まるやつ?』
◇
『逃げるラストチャンスじゃない?』
◇
士郎が、 獰猛に笑った。
◇
「うるせぇ」
静かな声。
◇
「逃げるなら勝手に逃げろ」
◇
笑う者が、 数秒固まる。
◇
『……え?』
◇
『いやそれ』
◇
『置いてく宣言では?』
◇
翔は、 静かな目で“それ”を見ていた。
◇
動かない。
◇
焦らない。
◇
ただ。
◇
測っている。
◇
圧。
◇
沈黙。
◇
存在の揺れ。
◇
気配。
◇
ズレ。
◇
界吏とは違う。
◇
“届く”。
◇
だが。
◇
簡単ではない。
◇
翔が、 小さく呟く。
◇
「面倒そうだな」
静かな声。
◇
士郎が笑った。
◇
「珍しいな」
◇
「お前でもそう思うのか」
◇
翔は肩を竦める。
◇
「強い」
静かな声。
◇
「だから面倒だ」
静寂。
◇
その瞬間。
◇
“それ”が動いた。
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音はない。
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気配もない。
◇
ただ。
◇
いた。
◇
次の瞬間には。
◇
士郎と翔の目前。
◇
笑う者が、 本気で凍る。
◇
『は?』
◇
『速——』
◇
遅い。
轟音。
◇
重力。
◇
士郎の拳が、 真正面から叩き込まれる。
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空間ごと砕けた。
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境界が割れる。
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世界が悲鳴を上げる。
◇
だが。
◇
“それ”は動かない。
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避けない。
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吹き飛ばない。
◇
ただ。
◇
そこにいた。
◇
士郎の笑みが、 深くなる。
◇
「へぇ」
静かな声。
◇
「耐えるか」
静寂。
◇
“それ”が。
◇
初めて。
◇
士郎を見る。
◇
『重い』
静かな声。
◇
『だが』
◇
『足りない』
静寂。
◇
次の瞬間。
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士郎の身体が、 消えた。
◇
違う。
◇
吹き飛んだ。
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境界を何層もぶち抜きながら。
轟音。
◇
笑う者が、 本気で絶叫した。
◇
『えぇぇぇぇ!?』
◇
『士郎飛んだぁぁ!?』
静寂。
◇
そして。
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翔だけが。
◇
少しだけ。
◇
笑った。
◇
「……いいな」
静かな声。
◇
「やっと強い」




