第二部 第34話 二体
静寂。
◇
『あ』
◇
『俺帰っていい?』
◇
笑う者の声が、 少し裏返った。
◇
本気だった。
◇
士郎が、 少し笑う。
◇
「却下」
静かな声。
◇
笑う者の輪郭が、 びくりと震える。
◇
『横暴!!』
◇
『この状況で即答!?』
◇
翔は、 静かな目で前を見ていた。
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裂け目。
◇
その向こう。
◇
“それ”。
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気配が重い。
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違う。
◇
“圧”だった。
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存在そのものが、 空間を押し潰している。
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界吏とは別格。
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殺気もない。
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敵意も薄い。
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なのに。
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危険。
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本能で理解できる。
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翔の目が、 少しだけ細まった。
◇
「……強いな」
静かな声。
◇
士郎が、 獰猛に笑った。
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「いいな」
静かな声。
◇
「やっと遊べそうだ」
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笑う者が、 本気で嫌そうな顔をする。
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『いや遊ぶ相手じゃないって』
◇
『こいつ』
◇
『上位執行者だぞ』
静寂。
◇
士郎が、 少し眉を動かす。
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「界吏の上か?」
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笑う者は、 数秒黙る。
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それから。
◇
乾いた笑い。
◇
『比較にならん』
静かな声。
◇
『界吏が壁なら』
◇
『こいつは処刑台』
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『規格外を』
◇
『本当に消す側』
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空気が、 少し重くなる。
◇
観測者達も沈黙していた。
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『執行者接続確認』
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『危険度更新』
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『接触禁止』
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『総員退避』
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“それ”が、 静かに歩く。
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一歩。
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境界が沈む。
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また一歩。
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空間が軋む。
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近付いてくる。
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ゆっくり。
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逃げ場を潰すみたいに。
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そして。
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止まる。
◇
静かな声。
◇
『観測外』
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『退避を推奨する』
静寂。
◇
笑う者が、 全力で頷いた。
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『する!!』
◇
『俺する!!』
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士郎が吹き出す。
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「お前ほんとブレねぇな」
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翔が、 少しだけ笑った。
◇
「まともだ」
静かな声。
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笑う者が、 少しキレた。
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『いや君らが異常なんだって!!』
静寂。
◇
そして。
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“それ”の視線が、 再び士郎と翔へ戻る。
◇
『規格外二体』
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『排除を開始する』
静寂。
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その瞬間。
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士郎が。
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初めて。
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心の底から嬉しそうに笑った。
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「来いよ」
静かな声。
◇
「殺してやる」
◇
翔は何も言わない。
◇
ただ。
◇
静かに。
◇
一歩前へ出た。




